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毎日新聞2025/2/16 東京朝刊有料記事945文字
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
身寄りのない人の終活支援で先駆的な取り組みをしてきた神奈川県横須賀市が、孤立防止のための新たな事業を始める。「市民後見人養成研修」の修了者を活用する新機軸。上地克明市長が2月13日、施政方針演説の中で明らかにした。
生活は苦しくても「葬儀代くらいは自分で」と貯金している単身者は多い。ただ何もせずに亡くなると、その蓄えは無駄になる。そこで同市は2015年から「エンディングプラン・サポート(ES)事業」を開始。低所得・資産者を対象に葬儀社の情報を提供。葬儀の契約をしたら、死後は市がその実行を見守る。
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同事業が斬新なのは、契約見守りだけでなく平素から家庭訪問をし、死後は葬儀の立ち会いや納骨まで職員が行うこと。職員とつながることでひとり暮らしの人の不安は少しずつ和らいでいく。悩みは人手不足。ES登録者は半数が亡くなり、現在は約80人。これを専任職員2人で担当する。限界に近かった。
そこで注目したのが市民後見人養成研修の修了者。関連法や制度、支援方法について12回の講義を受けたのち実務研修をへて登録される。国も推奨する成年後見制度の一環だが、毎年10人ほど出る修了者の中には「やってみたいが、正式に受任する自信はまだない」という人もいる。こうした「新米」たちにボランティアでES登録者宅を訪問してもらうのが今回の「困窮孤独防止訪問」事業。活動に慣れながらゆっくり当事者との信頼関係が築けるし、認知症がすすむなどして必要になったら、そのまま正式な後見人に選任されることにもなる。
当面5人のボランティアを想定。各自8人の家に年3回、訪問してもらう。交通費を支給する。
頼れる親族のいない、ひとりでぽつんと生きている当事者にすれば、市役所が制度の知識を持った人を派遣してくれるのはありがたい。電話での安否確認もあるが、やはり顔を合わせるのがいい。
「当事者が元気なうちから、地域の誰かがかかわり、本当の思いを聞いてほしい。制度や仕組みが分かった人ならなおさらいい。それが市民参加型の、つぎ目のないシームレスな支援活動なのだと思います」。事業を統括する北見万幸・特別福祉専門官はそう話す。早くも全国の自治体から問い合わせが入り始めている。(専門編集委員)