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毎日新聞2025/2/13 06:00(最終更新 2/13 06:30)有料記事1728文字
新型コロナウイルスの流行時、沖縄でも連日PCR検査の行列ができたが、県内でのワクチン接種率は伸び悩んだ=那覇市で2022年1月7日午前8時58分、喜屋武真之介撮影
沖縄が「長寿の島」と言われたのは今は昔。1985年に男女とも全国1位だった沖縄県の平均寿命は、2020年には女性が16位、男性にいたっては43位まで転落した。元気なおじい、おばあが多い一方、20~64歳の年齢調整死亡率が女性45位、男性46位と低く、平均寿命を押し下げている。
沖縄における死因の中でも、肝硬変や糖尿病など生活習慣に関わる病気の死亡率が全国と比べて特に高いことは、県内ではよく知られている。戦後の米軍統治下で広がった米国的な食生活、車社会に伴う著しい運動不足、飲酒量の多さなどが要因として指摘され、県や市町村、医師らも00年ごろから生活習慣の改善を盛んに呼びかけてきた。今のところ好転しているとは言いがたいが、死因との関係はイメージしやすい。
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一方、不思議な特徴を示すのは、がんの精密検査受診率とワクチン接種率の低さだ。精密検査は定期健診などの1次検診でがんを疑われた人が受ける。県健康長寿課によると、精密検査の受診率が21年度は胃・大腸・肺で全国最下位で、子宮頸(けい)がんと乳がんも最下位に近い。それもあってか、大腸がんと子宮頸がんの死亡率は、常に全国で上位に位置している。
生活習慣の改善は長期的な取り組みが必要だが、検査やワクチンは受けようとすればすぐ終わる。なぜがんの可能性を知りながら受診しないのか。県医師会常任理事の玉城研太朗医師は「病院に行く時間がないことなどを理由にして、受診を避ける傾向にある」と指摘する。
背景には県民1人当たりの所得の低さ、非正規雇用の多さ、一人親家庭の多さなど、ここにも沖縄特有の社会問題があるのかもしれない。会社を休んで、あるいは子どもを預けて病院に行くとなると、たしかにハードルは高い。玉城医師は「生活が厳しい中で、『がんと診断されたらどうしよう』と目を背ける人も多い。しかし実際に症状が出てからでは、がんは進行している可能性がある」とみる。
ワクチン接種はどうか。厚生労働省や県によると、小学6年から高校1年までを対象にした子宮頸がん予防のHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの定期接種1回目の実施率は、23年度で全国が62・1%だったのに対し、沖縄県は25・3%にとどまる。HPVワクチンは副反応の懸念から国が「積極的勧奨」を約9年間にわたり中断していたが、22年から再開。接種率が徐々に回復する中で、沖縄は他の都道府県と比べ大きく後れを取っている。
新型コロナウイルスのワクチンを巡っても、沖縄は接種率が伸び悩み問題となっていた。24年4月に厚労省が最後に公表した初回接種率は、全国平均が80・45%に対し、沖縄は69・98%で、全国で唯一、7割に届いていない。接種率の低い若者人口の多さが影響している可能性があるが、3回目は全国が67・06%で沖縄が50・51%、4回目は全国が46・16%、沖縄が30・00%と、人口構成だけでは説明しづらいほど大きい差が開いている。
沖縄の元気な高齢者たち=沖縄県国頭村で2023年8月29日午後6時15分、喜屋武真之介撮影
HPVワクチンの普及に努めてきた琉球大大学院医学研究科の関根正幸教授は「自然志向というか、手を加えることを良しとしない風潮があり、ワクチン忌避につながっている。生活の変化に対し、意識が追いついていない。がんの精密検査にしても、ヘルスリテラシーが高くこまめに受ける人と、医療に頼ろうとしない人が二極化している」と分析する。
ワクチン忌避には教育や経済の問題、政治やメディアに対する不信感などが複雑に絡み合っており、わかりやすい結論を出すことは難しい。ただ、旧暦に基づく祭事や先祖崇拝の行事、霊的な能力を持つとされる「ユタ」への信仰などが今も根強く残る沖縄で、関根教授の指摘は説得力がある。それは科学に基づく医療とは正反対の価値観かもしれないが、日本にも米国にも染まらない「沖縄らしさ」でもある。いや、日本も米国も受け入れ、その変化に伴う死すら受け入れてしまうのも「沖縄らしさ」か。
そう考えると数々の課題も少しいとおしくなるが、医療従事者の方たちにとっては難しい土地柄なのかもしれない。【写真映像報道部兼那覇支局・喜屋武真之介】