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毎日新聞2025/2/20 東京朝刊有料記事1915文字
3人の子どもを連れてウガンダへ逃れ、キリヤンドンゴ難民居住区で暮らすスーダン難民のネイマットさん=ウガンダで2024年10月24日、滝川大貴撮影
「言葉を失った」。現地の状況を目の当たりにした際の率直な感想だ。食糧配給場には痩せこけた難民が殺到し、十分な量が行き渡らず、食べ物を求める叫び声が飛び交う。住まいの簡易テントは頻繁に雨漏りし、夜はテント内の冷え切った地べたにカーペットを1枚だけ敷いて寝る。病院には栄養失調であばら骨の浮いた幼児が集まり、母親が心配そうに付き添っていた。
私は2024年10~11月の1カ月あまり、アフリカ東部のウガンダで約50人の難民を取材し、海外難民救援キャンペーンの記事を連載した。取材時、話を聞かせてもらうたびに、心の内に繰り返し浮かんだ思いがある。「もし、自分が目の前の人の立場なら」
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ウガンダはアフリカで最も多い180万人近い難民を受け入れている。周囲にはスーダン、南スーダン、コンゴ民主共和国など紛争が絶えない国々があり、毎年のように10万人を超す難民がやって来る。
海外での武力紛争を巡る報道では、ウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区に多くの注目が集まるが、アフリカが大々的に取り上げられることは少ない。現地の難民たちはどのような状況に置かれているのか。何を必要としているのか。実態を知り、伝えたいと思い、取材地に選んだ。
凄絶な出来事、知ってほしい
ウガンダでは、政府が「難民居住区」を国内13カ所に設けて受け入れている。今回の取材で初めて訪ねたのは、キリヤンドンゴという中西部の居住区。ここには、23年4月に政府軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の間で勃発したスーダン内戦から逃れた難民らが暮らしていた。
3人の子連れのスーダン難民、ネイマットさん(32)の体験は想像を絶するものだった。彼女は内戦の勃発直後、自宅でRSFとみられる男らの集団に襲われた。目の前で夫アダムさん(当時41歳)を殺され、パニックに陥った次男フォウジさん(11)はどこかに逃げて今も行方が分からない。自身も腹を銃で複数回殴打された上、手脚を鎖で縛られて約20日間にわたって寝室に監禁され、男らから連日暴行を受けた。
解放後、子どもを連れて国内外を転々とし、24年7月にキリヤンドンゴにたどり着いた。殴られた腹部は日に日に腫れ上がり、痛みは増すばかり。ただ設備が整った病院で診てもらうお金がない。子どもはまだ3~13歳で、「私が死んだらこの子たちはどうすればいいのでしょう」と涙を流し、途方に暮れていた。
凄絶(せいぜつ)な体験を気丈に語る彼女の姿に、私の心は強く動かされた。同時に、極めてセンシティブな内容を全て記事にしてよいのかためらった。しかし、彼女に諭された。「全て書いてください。なぜなら今話したことは全て真実だから。私はここの難民がどれだけ苦しい思いをしているか、日本の人たちに知ってほしいのです」
ハッとした。渡航前、難民につらい体験を語ってもらわなければならないことに心苦しさを感じていたが、むしろ彼らは語ることを望んだ。居住区に足を運ぶたびに大勢の難民が私を囲み、「自分の話も聞いてくれ」と口々に訴えた。「こうして思いを寄せてくれるだけでもうれしい。どうか私たちを見捨てないで」
取材した難民に共通するのは、平穏な日常が一瞬にして断ち切られ、大切な人や故郷を失ったことだ。「もし自分が目の前の難民の境遇だったら……」。帰国後、家族や友人、同僚との何気ない会話でさえ当たり前ではないような、不思議な感覚に陥った。
ウガンダの人々「助け合い当然」
そもそもなぜウガンダは他国からの難民受け入れに寛容なのか。移動の自由や就労を認め、居住・耕作用の土地も提供する。難民政策担当のウガンダ政府高官は取材に「過去にウガンダ人も周りの国に難民として受け入れてもらったからだ。今は治安が良いし、助け合うのは当たり前だ」と説明した。街中のウガンダ人に聞いても、異口同音にそう答えたのが印象的だった。
難民支援にはいろいろな形があると思う。何もウガンダのように自国で受け入れることだけが支援ではない。私が現地で教えられたように「思いを寄せる」だけでも、それは彼らにとって支援の一歩だ。関心を持ち、さらには支援団体や国際機関にわずかでも寄付するなど「支援の輪」が広がればもっといい。
「流民に光を」。一連のキャンペーン報道にそうタイトルを付けたのは「忘れられた難民」を十分に報じられていない責任の一端を感じたからだ。私はジャーナリズムに携わる立場から、社会の関心が向くよう、これからも書き続けたい。そしてどうか、少しでも、今もアフリカで苦しんでいる難民たちにも思いを寄せてほしい。
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