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毎日新聞2025/2/27 東京朝刊有料記事1047文字
ホワイトハウスで会談するマクロン仏大統領(左)と、トランプ米大統領。米欧の溝を埋めるべく、欧州首脳は今週、相次いで訪米する=2025年2月24日、ロイター
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ウクライナ戦争の解決法をめぐり、米国とウクライナ、欧州間に亀裂が生じている。トランプ米政権は、ウクライナなどに交渉参加を認めない方針を示すからだ。
国連安保理は24日、米国が提出した「ロシアとウクライナの紛争の早期終結を求める」決議案を賛成多数で採択した。米露両国が賛成するも、英仏など欧州5カ国は棄権した=2025年2月24日、ロイター
取引(ディール)好きのトランプ氏だが、意外なことに多人数での協議は得意ではない。
不動産王として名をはせていた1987年に出版した自伝にも「日本人とは商売をやりにくい。6人や8人、多い時は12人で来る。2、3人ならともかく12人を納得させるのは至難の業だ」と記す。
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苦手意識は大統領就任後も変わらず、第1期政権では、日本の安倍晋三首相や、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長など2人だけの会談を好んだ。ウクライナ和平問題も、ロシアのプーチン大統領と2人で解決を図りたいようだ。
ウクライナ戦争開始から3年を受けて開かれた国連総会特別会合。米露両国は、欧州諸国とウクライナが提出した戦闘停止とロシア軍の撤退を求める決議案に、そろって反対。米欧の溝は深まる一方だ=2025年2月25日、ロイター
トランプ氏の欧州嫌いも根深いようだ。ある日本外交官は、欧州は「国防費増など米国の要請には応じないのに、いつも『上から目線』で米国に注文をつける失礼な国々と映っている」と解説する。
トランプ氏は、ウクライナ和平交渉の最大の目的を「大勢の死を防ぐ」ことに据える。それを早期に実現するには、ロシアの主張を丸のみするしかない。すでに、ウクライナが望む北大西洋条約機構(NATO)加盟を退けている。
一方、避難民受け入れや武器弾薬の供与など、手厚い支援を続ける欧州は、頭越しの和平交渉を看過できない。これがまかり通れば、欧州の命運が米露両国に握られてしまう事態にもなるからだ。
エジプトは、米ソの支持を得てスエズ動乱に勝利、英仏両国を追い出した。写真は、1966年に開かれた「スエズ動乱戦勝記念日」のパレード。現在の欧米対立は、当時に似るとの指摘が出ている=安延久夫撮影 サンデー毎日1967年6月25日号4頁・5頁のカット
欧州には、今回の事案を冷戦時代の56年に起きたスエズ動乱と重ねる声がある。エジプトがスエズ運河の国有化を宣言、これに反発した英仏は軍事介入を始めた。
英仏が「応援団」と期待した米国は、あろうことかソ連と共闘、国連で即時停戦案をまとめる。英仏はスエズ運河を失い、イーデン英首相は辞任に追い込まれた。
同じ時期、東欧では、ソ連の「衛星国」であるハンガリーで、民主派が反ソ暴動を起こす。ソ連は、鎮圧のため戦車部隊を派遣する。だが、西側勢力のリーダーである米国は動かず、ハンガリーの民主化勢力を見殺しにしてしまう。
欧州諸国は、米国の対応を欧州への「裏切り」と受け止め、溝が深まった。自分の国は自分で守る。フランスは核武装に走り、西ドイツも失敗に終わったが「欧州共通の核兵器」の取得を模索した。
今回のウクライナ和平交渉を受け、欧州はどう動くのか。歴史が繰り返されるなら、核兵器取得や増強を目指す国が増えかねない。世界はますます危険になっていくのだろうか。(専門編集委員)