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毎日新聞2025/3/3 東京朝刊845文字
険しい表情で会談するトランプ米大統領(右)とウクライナのゼレンスキー大統領=ホワイトハウスで2025年2月28日、ロイター
これではロシアを利するだけである。まず互いが冷静になり、協議を継続すべきだ。
ウクライナ戦争の停戦に向けてトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が会談したが、決裂した。米国が支援を継続する条件と位置付けていたウクライナの鉱物資源開発を巡る協定への署名も見送られた。
経緯はこうだ。公開された会談の冒頭、米側がトランプ政権の外交への取り組みをアピールした。過去の停戦合意に反して侵攻したプーチン露政権を相手に「どんな外交をするのか」とゼレンスキー氏が質問すると、米側が「無礼だ」と言い返して口論が始まった。
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トランプ氏は、米国の支援なしに「あなたは勝てない」とまくし立て、「第三次世界大戦」のリスクを冒していると繰り返した。非公開の協議に移っても対立は収まらず、米側が打ち切ったという。感情的な対立が2国間に深い溝を生んだのは間違いない。
問題の根底には、トランプ氏のロシア寄りの姿勢がある。
ウクライナのゼレンスキー大統領(右)と抱き合うスターマー英首相=ロンドンの英首相官邸前で2025年3月1日、ロイター
これまで「プーチン氏は私を尊敬している」と述べ、停戦に合意すれば再び侵攻することはないと根拠もなく語っていた。
だが、国際法を破って隣国を侵略したのはロシアである。その視点を欠くトランプ氏にウクライナが疑いの目を向けるのは当然だ。
ゼレンスキー氏に対して「あなたに交渉カードはない」とも言い放った。軍事支援を続ける米国に従うよりほかに手段はない、と脅しているかのようだ。
ロシアは会談の決裂を歓迎している。トランプ氏主導の交渉の危うさを露呈させた。
だが、ウクライナには「法の支配」という国際社会に訴える大義がある。欧州主要国は次々に連帯を表明し、擁護に回った。
懸念されるのは、米国が支援を打ち切り、ウクライナを置き去りにしてロシアとの交渉に突き進むことだ。国際社会が望む「公正で永続的な平和」は遠のく。
トランプ氏は協議後、記者団に「平和を追求する」と述べた。そうであるなら、損なわれた信頼の回復をまず急ぐのが筋だ。
両国の関係修復に向け、欧州が仲介役となって働き掛ける必要もある。