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毎日新聞2025/3/8 東京朝刊有料記事1020文字
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ホワイトハウスでの大げんかは世界を驚かせた。停戦への一歩かと期待された米国のトランプ、ウクライナのゼレンスキー両大統領の会談は決裂し、米国は軍事支援を停止。応酬は今も続く。
一方でトランプ氏は、ゼレンスキー氏から「和平交渉の用意がある」との書簡が届いたともいう。どうなっているのか。
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口論の前だが2月21日、日本記者クラブで行われた松田邦紀氏の記者会見を紹介したい。開戦前から昨年秋まで駐ウクライナ大使を3年務め、キーウの主要7カ国(G7)大使グループ議長だった。
以下要約。停戦への動きはトランプ氏が突然始め、ウクライナに一方的に押しつけているのではない。ウクライナ自身が始めた。
昨年6月、ゼレンスキー氏が呼びかけて和平策を話し合う「世界平和サミット」がスイスで開かれた時のこと。参加国から「何とかロシアも関与させなければ意味がない」「具体的な手順と方法が必要だ」という意見が出た。
ひと夏悩んだウクライナ政府は、戦闘を続けながら外交にも軸足を置く政策に転換。9月に外交を有利に進めるための「勝利計画」(という名の早期停戦プログラム)を策定し、第4項目に「天然資源を欧米その他の国々と共同開発する」案を自ら盛り込んだ。
12月、ゼレンスキー氏は共同通信とのインタビューで「軍事力だけで全ての領土を取り戻す力が今はない。外交にも頼らざるを得ない」と率直に認めている。
米大統領選の前後、この計画についてウクライナとトランプ陣営は何度も意見交換を重ね、それを踏まえてトランプ氏が1月20日の大統領就任後、攻勢に出た。
ウクライナ提案だけでは動かないロシアに、制裁強化やロシアが依存する石油価格の下落圧力をチラつかせ、2月にプーチン大統領との長電話、サウジアラビアでの米露協議を実現させた。
松田氏は「今の流れはウクライナの考えの延長で出てきた。いかなる意味でもウクライナは主体性を失っていない」と断言する。
それにしても首脳間のさや当てが激しい。松田氏は「同盟・同志国でも対立はある。感情的やり取りに耳目を奪われると、事態を理解できない」とたしなめる。
「楽観的すぎる」「米国への追従か」と詰問する記者がいても、答えは「米ウクライナにも米欧にも対立解消の枠組みがあり、水面下で相当なやり取りをしている。まだ曲折はあるが、プロセスの始まりを今我々は目にしている」。冷静なきっぱりした口調は、終始ぶれなかった。(専門編集委員)