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毎日新聞2025/3/11 東京朝刊611文字
除染にともなって出た土などが保管されている中間貯蔵施設=福島県大熊町で2025年2月18日午後2時19分、渡部直樹撮影
東京電力福島第1原発=2025年2月15日午後3時41分、本社ヘリから
米国でこの半世紀に市民権を得た言葉に「NIMBY(ニンビー)」がある。「ノット・イン・マイ・バックヤード(私の裏庭ではイヤ)」の頭文字をつなげた。必要な施設も近くにできるのは困る。ゴミ処理場や道路の建設で起きやすい住民の反応だ▲近年、ノットをイエスに変えて「裏庭でもOK」とする「YIMBY(インビー)」も使われる。深刻な住宅不足を背景に近所に住宅地ができる規制緩和を支持する運動が一例である▲不動産のプロであるトランプ米大統領は従来、規制緩和に前向きだったが、支持者には住環境の変化を嫌がる人が多い。独断専行の人もこの問題では優柔不断になるらしい▲国土の狭い日本は米国以上にNIMBYを生みやすい。福島第1原発事故で生じた除染土の処理もその一つ。東京ドーム11杯分もの土を福島県外に移すメドは立っていない▲中間貯蔵施設のある福島県双葉町が町内での再利用を検討するという。原発や核廃棄物処理を離れた地方にお任せにしてきた電力消費地の住民には考えさせられることが多い問題提起だ▲もっとも東京電力旧経営陣の刑事責任が問われず、いつの間にか原発回帰の動きが進むことにも違和感がある。原発をめぐる国民合意がないままYIMBYを求められても納得できない人が多いだろう。法律が20年後に義務づける除染土の県外搬出をスムーズに進めるにはもっと議論が必要になる。東日本大震災から14年。一世代で終わらぬ原発事故被害の罪深さを改めて思う。