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毎日新聞2025/3/26 東京朝刊有料記事2912文字
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る主な経緯
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に解散を命令した25日の東京地裁決定は、長期にわたる教団の組織的で悪質な献金勧誘を厳しく批判した。教団の特異な活動実態に批判が高まる中、司法も看過できないと応じた形だが、被害者救済にはなお課題が残る。
旧統一教会に対する解散命令請求では、民法上の不法行為が解散命令の理由になるかに注目が集まった。
過去に解散命令が出された宗教法人は、いずれも幹部が刑事責任を問われたオウム真理教と明覚寺(和歌山県)のみ。旧統一教会は幹部の刑事事件は問題になっておらず、文部科学省は、旧統一教会の献金勧誘に着目して解散命令を請求した。
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この点、旧統一教会に絡んだ解散命令請求とは別の裁判で、最高裁が3日、「民法上の不法行為は解散命令要件に含まれる」との初判断を示した。いわば解散命令請求の「前哨戦」で、この論点は決着がついた。
ただ、献金勧誘は一般的な宗教活動で、旧統一教会に限らず、他の宗教団体も行っている。旧統一教会以外でも、献金トラブルが起きるケースも想定される。民法上の不法行為を理由に、国が解散命令手続きを進められるとすれば、恣意(しい)的な運用を許し、戦前のような宗教弾圧につながりかねないとの懸念もあった。
解散命令の根拠となる不法行為と、そうはならない不法行為をどう線引きするのか。東京地裁が出した決定を読み解くと「組織性、悪質性、継続性」というキーワードを軸に検討を進めたことがうかがえる。
旧統一教会では、1980年代から信者による献金勧誘が問題になり、一部は裁判に発展していた。このため「証拠」となる記録が多数残されていた。他の宗教団体では見られない現象だった。
決定は、教団の賠償責任を認めた32件の民事判決から、全国各地で行われていた献金勧誘には、共通の特徴が数多く認定されていると指摘。マニュアルが使われていたケースもあったとして「組織性」を認めた。
さらに、勧誘によって、本人や家族らが借金を原資に献金し、生活が立ち行かなくなるといった状況が生じていたとする「悪質性」にも踏み込んだ。判決だけでなく、和解や裁判外での示談で被害者側に支払われた金額も積み上げ、一連の献金勧誘が極めて異例の被害規模だったと認定した。
教団は霊感商法を巡る信者の相次ぐ逮捕を受けて出した2009年の「コンプライアンス宣言」で対策を講じ、献金を巡るトラブルは激減したと訴えていた。
しかし、決定は、教団が根本的な対策をする契機があったのに問題を解消するための方策を講じておらず、被害は現在まで続いているとし「継続性」にも言及した。
国側は3要素が満たされれば解散命令が認められると訴えており、国側の「完勝」だったと言えそうだ。
北九州市立大の山本健人准教授(憲法)は「(旧統一教会に対する)解散命令はやむを得ないと言えるかという観点を踏まえ、献金勧誘の実態や教団の対応を相当丁寧に精査した印象を受ける。(今回の決定が)他の宗教団体に波及するとは考えがたい」とみる。【菅野蘭、巽賢司】
自民と「共存関係」あらわ 安倍元首相銃撃がきっかけ
旧統一教会への解散命令請求のきっかけとなったのは、2022年7月8日に発生した安倍晋三元首相銃撃事件だった。殺人罪などで起訴された山上徹也被告(44)は、母親が家財をなげうって信仰した教団に対する恨みを挙げ、教団と近しい関係にあるとみた安倍元首相を狙ったと供述したとされる。親の信仰で人生を狂わせられる「宗教2世」の実態が浮き彫りとなり、教団に対する風当たりは強まった。
同時に事件は、自民党と教団のいびつな「共存関係」を白日の下にさらした。教団を巡っては1980年代から霊感商法や献金の強要といった被害申告が相次ぎ、90年代前半には著名な女性タレントやスポーツ選手が教団の「合同結婚式」に参加する様子が報じられ、社会問題化していた。
教団はその裏で政界に食い込み、一部の保守系議員の選挙に信者らを送り込んで運動を支援した。一方の議員側は教団の関連会合に出席し、具体的な政策について賛同を求められる「推薦確認書」に署名していたとされる。
自民議員らは教団から選挙支援を受けることと引き換えに、活動が問題視されていた教団の広告塔となって、教団の活動に「お墨付き」を与えていたのではないか――。癒着にもみえる自民と教団の蜜月ぶりは、国民の政治不信につながり、内閣支持率は急落した。
世論に動かされる形で、岸田文雄首相(当時)は22年8月、教団との関係を絶つことを党の基本方針とするとともに、所属議員と教団との関係を調査すると表明。自民は9月、党所属議員の半数近い約180人に教団との接点が明らかになったとする調査結果をまとめ、関係の清算に走った。
政府の対応も早く、22年11月から宗教法人法に基づく質問権を行使して調査を始め、22年12月には悪質な寄付勧誘行為を禁止する不当寄付勧誘防止法も成立させた。政府が23年10月に過去に例がなかった民法上の不法行為を理由とする解散命令請求に踏み切った背景には、政治的な思惑があったとの見方もある。
北海道大大学院の桜井義秀教授(宗教社会学)は「教団から虐げられてきた被害者の上に自民党政権がよって立っていた事実は国民の怒りを買った」とみる。結果として政府が動き、解散命令につながった点については「手続きにのっとり、裁判所が宗教法人として不適格と判断した。信教の自由に名を借りた反社会的な活動に対する当然の結果で、宗教団体の教義を巡る問題ではない」と分析し「教団の問題は以前から指摘されていたのに、宗教だからとタブー視してこなかったか。宗教団体との距離感を社会全体で考える契機とすべきだ」と指摘する。【飯田憲】
被害者救済、高いハードル
旧統一教会は、解散命令請求を認めた東京地裁決定を不服として即時抗告する方針で、審理の舞台は東京高裁に移る。
地裁の判断を支持する高裁決定が出れば解散命令は効力を持ち、教団は宗教法人格を失う。教団側は不服を再度申し立てられるが、最高裁の判断を待たずに裁判所が選んだ清算人が預金や不動産といった教団の財産を清算する手続きが始まる。
課題となるのは、被害者に対する救済の行方だ。
補償や賠償金は、清算人が教団の財産から支払う。ただ、解散命令確定までの間に、教団の財産が関連団体や教団信者に移されれば、救済がままならなくなる恐れがある。仮に救済が進んだとしても、清算手続きが終わってからの被害申告は認められない。清算手続きが進んだ後に、資産が教団に残っていれば、教団側が指定する他の宗教団体に譲渡されたり、国庫に納められたりして、最終的には資産がなくなる。
献金してしばらくたってから自らの意思ではなかったと気づく被害者も少なくないとされ、どのように救済を進めるかが大きな課題となる。
被害救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会はこうした懸念を解決すべきだとして、教団の財産保全▽清算人が財産を取り戻すための権限付与▽清算後の被害者救済――をそれぞれ実現する法整備を求めている。【菅野蘭】