2007年、アップルのスティーブ・ジョブズCEOが「携帯電話を再定義する」と発表したiPhoneが生まれて、10年が経過しました。当時、パソコン的に使える携帯電話がいくつもありましたが、いずれもペン入力やキーボードが内蔵されているなど、難しい操作性により、一部のマニアしか使わないような端末でした。
iPhoneのテレビ電話機能を披露するアップルのスティーブ・ジョブズCEO=2010年6月8日、米サンフランシスコ スティーブ・ジョブズのiPhoneが凄かったのは、タッチパネルにより、指一本で操作できる使い勝手を実現したことでした。これにより、幅広い年齢層が、携帯電話でインターネットに触れることができるようになったのです。その後、iPhoneの功績により、スマホが世界中に普及したのは周知の事実でしょう。
2007年、私は、iPhoneがどういった端末に仕上がっているのか、どうしても気になり、アメリカで発売された日に、わざわざハワイに買い出しに行きました。アラモアナショッピングセンターにあるアップルストアの行列に並び、なんとか購入できたのですが、アメリカの携帯電話会社と契約作業をするのに、とても苦労させられたのを昨日のことのように覚えています。日本でソフトバンクがiPhone 3Gを扱い始める1年も前の話です。
早速、アメリカで手に入れたiPhoneを持ち帰国。その後、日本のケータイメーカーの関係者に触ってもらう機会を得ました。当時は、いまで言うガラケーが全盛の時代。しかも、各メーカーはキャリアのオーダーに沿ってケータイを開発していました。
メーカーの開発者たちからは「タッチパネルは長い爪の女性には使いづらそう」とか「アップルは(キャリアからのしがらみなんてなく)楽しんでiPhoneを開発していそう」といった声が寄せられました。
そんななか、ある一人は「いまのケータイは、何度もリフォームした中古住宅のよう。機能が追加されていて便利だが、使い勝手は悪い。その点、iPhoneはデザイナーズ住宅でおしゃれでかっこいい。更地にイチからデザインされており、無駄がなく、住み心地は最高なはず」と指摘しました。
当時のケータイは、ネット接続に加えて、音楽再生やテレビ、決済など、機能が盛りだくさんでしたが、あれこれ詰め込みすぎて使いづらくなっていました。その点、アップルは無駄がなく、シンプルで使いやすそうというわけです。
10年前の初代iPhoneを振り返ってみると、画面サイズは3.5インチと小さいですが、画面の下にホームボタンがあり、何かあったら、そのボタンを押せば元に戻ります。この操作性が「直感的」とされ、「わかりやすい」と評判を生んだのでした。
スティーブ・ジョブズがこだわった操作性だったのか、このホームボタンは10年間、変わることなく、同じ位置に存在しています。まさにiPhoneのアイデンティティというべき、スティーブ・ジョブズのこだわりはいまのiPhoneにも語り継がれているのです。
ただ、一方で、iPhoneがこの先、10年も安泰かと言えば、決してそんなことはないでしょう。
ここ最近のiPhoneを見ると、3Dタッチという、画面を強く押すことで、サブメニューを呼び出す機能がありますが、操作性はイマイチだったりします。
またiPhoneのブラウザであるsafariではサイトを再読み込みするマークを長押しすると、パソコン用のサイトを表示できる機能が隠れています。便利な機能があるにもかかわらず、それを見つけるのが困難な操作体系となってしまっているのです。
見た目のデザインが変わらない中、操作性を進化させて、目新しさを出そうと努力をしているのですが、その進化が操作性をわかりにくくしている感があるのです。
この10年で、iPhone自体が「中古住宅」のような存在となり、あちこちにリフォームの跡が目立つようになりました。10年前は「直感的だった操作体系」も、機能が増えすぎて、複雑でわかりにくいところも出てきました。
今年、iPhoneがデビューして10年というおめでたい年ではありますが、アップルとしても、初心に返って、「iPhoneを再定義する」時期に来ているのではないでしょうか。