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「糖尿病」は“一つ”ではないことをご存じですか?
発症のきっかけも違えば、進行の仕方や治療法も異なります。実は、人によってあり方が異なる「多種多様な病」なのです。
こうした「違い」を理解するうえで重要となるのが、「病型」と「病態」という二つの視点です。それぞれどのようなものなのか。そして、代表的な「病型」と、それぞれに見られる「病態」の違いについて、詳しく解説していきます。
「病型」と「病態」ってなに?
医師から長らく、「2型糖尿病」と言われ続けていた患者さんがいました。
たくさんの飲み薬を飲んでいましたが、血糖値はなかなか下がりません。少しぽっちゃりとした体形であったので、「食べ過ぎが原因! もっと痩せなさい! 運動しなさい!」と医師からずっと言われ続けていたそうです。
ある時、風邪を引いたことがきっかけで意識がもうろうとし、救急車で私の元に運ばれてきました。
診断は「1型糖尿病ケトアシドーシス」。そう、2型糖尿病ではなくインスリンが全く出ない1型糖尿病だったのです。しかし、気づかれずに飲み薬で治療されており、良くならない理由は「本人の努力不足」だと思われていたのです。
インスリン治療に切り替え、血糖値はあっという間に良くなり、現在はすごく良い状態で通院を続けています。
糖尿病は医師でも判断が難しい場合があり、一歩間違えると死に至る可能性をはらむ病です。その上で皆さんにぜひ知っておいていただきたいことがあります。糖尿病は、大きく「二つの軸」に分けられるということです。
一つ目に「病型(びょうけい)」という概念です。自己免疫疾患などが原因でインスリンを分泌する細胞が破壊される「1型糖尿病」▽生活習慣や遺伝などからインスリンの分泌や働きに異常が生じる「2型糖尿病」▽妊娠して初めて発見、診断された、糖尿病には至らない程度の糖代謝異常の「妊娠糖尿病」▽その他の特定の病因による糖尿病――など、糖尿病を「原因の違い」で分類したものです。
続いて、「病態」です。これは、「インスリンが効きにくくなっているのか(インスリン抵抗性)」や、「インスリンが足りないのか(インスリン分泌不全)」といった、「糖尿病になった体の状態の違い」を指します。
しかも、同じ「2型糖尿病」の患者さんでも、「インスリンが効きにくい人」と「インスリンが出にくい人」では、治療のアプローチが異なります。つまり、「病型」の中でも違いがあり、「自分の糖尿病がどのタイプで、どのような状態なのか」を知ることが、適切な治療への第一歩となるのです。
前回のおさらいを少々。糖尿病は血液中のブドウ糖(血糖)の値が慢性的に高くなる病気です。食事からとった糖質は消化、吸収され、ブドウ糖として血液中に取り込まれます。このブドウ糖を細胞に取り込み、エネルギーとして使うために必要なのが「インスリン」というホルモンです。
=ゲッティ
インスリンは膵臓(すいぞう)から分泌され、血糖値を一定の範囲に保つ役割を担っています。しかし、インスリンが足りなかったり、うまく働かなかったりすると、血糖が細胞に入れず、血液中にとどまってしまいます。この状態が糖尿病です。
血糖が高い状態が続くと、血管や神経がダメージを受け、失明▽腎不全▽足の壊疽(えそ)▽心筋梗塞(こうそく)▽脳卒中――などの合併症が起こるおそれがあります。そのため、糖尿病は早く気づき、きちんと治療することがとても大切です。
国や地域によってタイプが異なる……1型糖尿病の難しさ
それでは、「病型」に沿ってご説明します。
まずは「1型糖尿病」です。膵臓の中にあり、インスリンを作る「β細胞」が、自分の免疫によって破壊されてしまうことで発症する病気です。インスリンがほとんど、あるいは全く分泌されなくなり、血糖値を自分の力で下げることができなくなります。その結果、高血糖の状態が急速に進み、放っておくと命に関わるような合併症につながることもあります。
この病型は、特に子どもや若い人に多いとされてきましたが、実際には成人になってから発症するケースも少なくありません。さらに、発症の仕方や進行スピードにも違いがあることが分かっており、現在では1型糖尿病は大きく三つのタイプに分けて理解されています。
もっとも一般的なのは「急性1型糖尿病」と呼ばれるタイプです。これは、数日から数週間という比較的短期間で、急激にインスリンの分泌が低下して発症するもので、小児から若年成人に多くみられます。多くのケースで「抗GAD抗体」などの自己抗体が陽性となり、自己免疫が関与していることが確認されています。のどが渇く▽トイレが近くなる▽体重が急に減る▽強い倦怠(けんたい)感がある――といった症状が急激に表れ、早期のインスリン治療が必要となります。
一方、日本に特徴的なのが「劇症1型糖尿病」と呼ばれるタイプです。このタイプは本当に「突然」発症し、発症からわずか数日以内に命に関わるような重症の状態に進展することもあります。
初期には風邪のような軽い症状しか見られませんが、急速に血糖が上昇し、「ケトアシドーシス」という意識障害や、脱水をともなう緊急状態に陥ることがあります。自己抗体は陰性であることが多く、発症の仕組みはまだ完全には解明されていません。成人女性に多く、発症直前まで「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー、過去の血糖の平均を示す値)」が正常なこともあるため、診断が遅れやすいという問題もあります。
さらに、もうひとつのタイプが「緩徐進行1型糖尿病」で、英語では「SPIDDM(Slowly Progressive Insulin-Dependent Diabetes Mellitus)」と呼ばれます。これは数カ月から数年という長い時間をかけて、ゆっくりとインスリンの分泌が低下していくタイプで、主に30歳以降の成人に多くみられます。
=ゲッティ
発症の初期段階では、血糖がそれほど高くなく、内服薬でコントロールできるため、2型糖尿病と診断されることが少なくありません。しかし、徐々にインスリンを分泌する力が失われていき、最終的にはインスリン注射が必要になります。自己抗体は陽性であることが多く、見た目には2型糖尿病に似ていても、実際には1型として進行していくという性質を持っています。
このように、1型糖尿病は発症の年齢も、進行スピードも、自己免疫との関わりも人によって大きく異なります。そのため、「1型糖尿病=小児の病気」といったイメージでひとくくりにせず、それぞれのタイプに応じた正確な理解が必要不可欠なのです。
さらに、1型糖尿病は国や地域によって発症頻度やタイプの分布が大きく異なることも知られています。たとえば、北欧諸国(フィンランド、スウェーデン、ノルウェーなど)や米国、カナダなどでは、年間10万人あたり30~60人が新たに1型糖尿病を発症するとされ、主に小児期に急性型として発症するケースが大多数を占めます。一方、日本では1型糖尿病の発症頻度は欧米の10分の1程度とされ、10万人あたり年間2~3人とかなり少ないことが分かっています。
また、日本では急性型に加えて、劇症型や緩徐進行型といった成人発症型の割合が欧米よりもはるかに高いという特徴があります。とくに緩徐進行型は、日本人の1型糖尿病のなかでも一定の割合を占めており、見逃されやすい傾向があります。
医師が戸惑うことも……2型糖尿病のややこしさ
2型糖尿病は、日本人に最も多い糖尿病の病型であり、全体の9割以上を占めます。中高年に多くみられる一方で、最近では若年層や子どもにも増加しており、まさに“国民病”といえる状況です。その背景には、運動不足、過食、ストレス、肥満、睡眠障害など現代的な生活習慣の乱れが深く関係しています。
一方で、2型糖尿病は「最も多い」病型であると同時に、「最も多様な」病型でもあります。そのため、専門家の間でも、2型糖尿病という診断名の下には非常に異なる体の状態(病態)が混在しているという認識が広がっています。
本来、1型糖尿病のような「自己免疫の異常でインスリンが分泌されなくなる」といった「明確な原因」がある病型とは異なり、2型糖尿病には「これが原因」と一言で特定できるような明確な分類基準がありません。インスリンは出ているものの効きが悪いのか(インスリン抵抗性)、そもそも出る量が足りていないのか(インスリン分泌不全)、あるいはその両方なのか一人―人によってその組み合わせや程度はまったく異なります。
さらにややこしいことに、現在の医療現場では、診断の段階でそうした病態の違いを正確に見極める明確な「分類基準」や「診断基準」は存在しません。つまり、「2型糖尿病」と診断された人の中には、実は遺伝性の糖尿病(たとえば「MODY(家族性若年糖尿病)」)や、緩徐進行型の1型糖尿病が含まれていることもあるのです。また、肥満がないのにインスリンが効きにくい人もいれば、肥満があっても血糖は安定している人もいます。
=ゲッティ
このような背景から、近年では2型糖尿病の中をさらに細かく分類しようとする研究が進んでおり、病態に応じて「サブタイプ」に分ける動きも始まっています。
たとえば、肥満や脂肪肝を伴ってインスリン抵抗性が強いタイプ▽インスリン分泌が年齢とともに減少する高齢発症型▽膵機能が生まれつき弱い遺伝型――などが提唱されています。ただし、こうした分類はまだ研究段階であり、日本において日常診療で標準的に使われているわけではありません。
そのため、現在のところ2型糖尿病は、「病名」としては一つであっても、「中身」は非常に多様で、一人一人にまったく異なる背景があるという理解が重要です。言い換えれば、「2型糖尿病だからこの薬」「この人は食事制限だけでよい」という一律の対応は適切ではなく、病態に応じた個別の対応が不可欠です。
また、糖尿病が進行するにつれて、インスリン抵抗性が強かった人でも膵臓が疲弊してインスリンが出にくくなるなど、時間とともに病態が変化していくこともあります。この点も、2型糖尿病を複雑にしている大きな要因のひとつです。
従って、2型糖尿病と診断された後も、「自分の病態はどこに特徴があるのか?」「今の治療方針はその病態に合っているのか?」という視点を持つことが、治療を長く続ける上で非常に大切になります。
糖尿病は名前こそ同じでも、その中身は一人一人まったく違うという前提で向き合っていく必要があるのです。
妊娠糖尿病の診断基準、なぜ厳しい?
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見される高血糖状態のことを指します。妊娠中は、胎盤から出るホルモンの影響でインスリンの効きが悪くなりやすく、また母体が赤ちゃんに栄養(ブドウ糖)を送り出すために血糖が上がりやすくなる仕組みになっています。誰にでも起こる可能性があり、特に高年齢妊娠や家族に糖尿病がある人、肥満傾向のある人ではリスクが高いとされています。
この妊娠糖尿病の診断には、一般の糖尿病と異なる基準が使われます。診断には「75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」が行われ、空腹時、1時間後、2時間後の血糖値が一定の基準値を超えているかどうかで判断され、この基準は他の糖尿病より厳しいです。HbA1cや空腹時血糖だけでは診断ができない点も、この病型の特徴です。
妊娠糖尿病の治療目標は、通常の糖尿病と大きく異なります。一般的な糖尿病では、先に挙げた合併症を防ぐことが長期的な治療目標となりますが、妊娠糖尿病ではそうした合併症より、「母体と赤ちゃんの安全な出産」が最優先の目標です。
=ゲッティ
血糖値が高いまま妊娠が進むと、胎児に必要以上の糖分が送られてしまい、「巨大児(出生体重が4000g以上)」「羊水過多」「肩甲難産」「低血糖」「新生児黄だん」といった周産期トラブルを引き起こすリスクが高まります。母体側も「妊娠高血圧症候群」や帝王切開の確率が上がるため、妊娠糖尿病は母子ともに注意が必要な状態なのです。
そのため、治療の基準もやや厳しく設定されており、一般的な糖尿病での血糖コントロール目標よりもさらに低めの血糖値を維持することが推奨されています。これは、合併症を防ぐためというより、「赤ちゃんに余計な糖を送らないようにするため」と考えるとわかりやすいでしょう。
妊娠糖尿病の治療では、まずは食事療法と運動療法から始めます。妊婦さんの状態に応じて、必要なエネルギーや栄養素を確保しつつ、血糖値を安定させるバランスの良い食事が重要です。また、散歩などの運動も、血糖値の改善に役立ちます。
しかし、それだけでは血糖値の目標を達成できない場合には、薬物治療が検討されます。注意しなければならないのが、妊娠中に使える血糖降下薬はインスリンしかないという点です。一般的な2型糖尿病では、「DPP-4阻害薬」や「SGLT2阻害薬」などの内服薬が多く使われますが、妊娠中に用いた場合の胎児への影響が完全には明らかになっていないため、内服薬の使用は原則として認められていません。インスリンは胎盤を通過しないため、赤ちゃんへの影響が非常に少なく、安全性が確認された唯一の薬剤として広く使用されています。
また、出産後も一定の確率で糖代謝異常が続くことがあるため、妊娠糖尿病と診断された方は、出産後も継続的に血糖値のチェックを受けることが勧められています。将来的に2型糖尿病へ移行するリスクもあるため、定期的なフォローアップがとても大切です。
はっきりした原因がある糖尿病「MODY」とは?
1型や2型、妊娠糖尿病とは異なり、比較的まれではありますが、明確な原因が特定できるタイプの糖尿病があります。これらは「その他の糖尿病」や「特定の機序・疾患による糖尿病」と呼ばれます。糖尿病全体の数%程度とされていますが、見逃されやすく、治療方針が通常の糖尿病とは異なることが多いため、正確な診断が非常に重要です。
2型糖尿病の説明でも触れましたが、「MODY(モディ)」は「Maturity Onset Diabetes of the Young」の略称で、思春期から30歳代くらいまでの比較的若い年齢で発症する糖尿病です。見た目は2型糖尿病のように見えますが、インスリン分泌に関わる遺伝子の異常が原因で発症する、はっきりとした遺伝性の糖尿病です。
この病気は「常染色体優性遺伝」といって、片親から遺伝子を受け継ぐだけで発症する可能性があるため、親子やきょうだい間で複数人が若いうちに糖尿病を発症している場合にはMODYを疑います。しかし、その多くが2型糖尿病と診断され、適切な治療が受けられていないことも少なくありません。
MODYには複数のタイプがあり、現在までに14種類以上の原因遺伝子が同定されています。MODYの診断には遺伝子検査が必要ですが、日本では保険適用ではないため、検査費用が高額になるケースもあります。それでも、正しく診断されることで、治療を見直し生活の質が向上することもあるため、若年発症で家族歴のある糖尿病を持つ方では、MODYの可能性を考慮することが重要です。
MODYが「遺伝子異常」による糖尿病であるのに対し、何らかの明確な病気や薬剤の影響によって発症する糖尿病は「二次性糖尿病」と呼ばれます。このタイプは、発症原因が明確なため、その原因となっている病気や薬を治療・調整することが、血糖値の改善にもつながる事があります。
誰にでも起こりうる病気だからこそ……
▽「膵性糖尿病(膵臓の病気による糖尿病)」
膵臓はインスリンを分泌する中枢であるため、膵臓自体にダメージがあるとインスリンが出せなくなり、血糖値が上がります。このようなケースは「膵性糖尿病」と呼ばれます。
原因となる病気には、「慢性膵炎(すいえん)」、「膵石(すいせき)症」、「膵がん」、「自己免疫性膵炎」、膵臓の外科手術後などがあります。このタイプでは、インスリン分泌も消化酵素の分泌も低下していることがあり、インスリン治療とともに膵酵素補充療法が必要になることもあります。
▽「肝性糖尿病(肝臓の病気による糖尿病)」
肝臓は糖の貯蔵や放出、インスリンの分解にも関わる臓器であり、肝機能の低下が糖代謝に影響することがあります。「慢性肝炎(特にC型肝炎)」、「肝硬変」、「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」などが、肝性糖尿病の背景となる疾患です。
これらの病気では、インスリン抵抗性が高まりやすく、食後血糖の異常や空腹時の高血糖が目立つことがあります。肝疾患の進行とともに糖尿病の管理も難しくなるため、肝臓の状態を評価しながら治療法を選択する必要があります。
▽薬剤性糖尿病(薬の副作用による糖尿病)
特定の薬剤が血糖値を上昇させることもあります。代表的な薬剤には、「副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)」、「免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリン)」、「抗精神病薬(オランザピンなど)」、抗がん剤などがあります。
たとえば、リウマチや膠原(こうげん)病でステロイドを長期使用している人、移植後に免疫抑制剤を使っている人などでは、治療により血糖値が一時的に高くなることがあります。こうした場合には、薬剤の中止や減量、または一時的な糖尿病治療が必要となることがあります。
薬剤性糖尿病は、薬をやめることで改善することもありますが、長期間使用していた場合は、糖尿病がそのまま残ってしまうこともあります。したがって、定期的な血糖モニタリングが重要です。
糖尿病には複数の「病型」があり、さらにその中にも人それぞれの「病態」があります。それぞれに合った治療を行うためには、「どの病型なのか」「どんな病態があるのか」を医師とともに理解していくことが重要です。
糖尿病は決して特別な人だけの病気ではありません。誰にでも起こり得る病気だからこそ、正しい知識を持ち、自分に合ったケアを続けることが大切です。健康診断で血糖の異常を指摘された方や、気になる症状がある方は、内科や糖尿病専門医に早めに相談してみてください。
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大坂貴史
綾部市立病院内分泌・糖尿病内科部長
おおさか・たかふみ 京都府立医大卒業後、京都南病院と京都第二赤十字病院を経て、同大大学院で医学博士を取得。2018年から現職。同大大学院客員講師。糖尿病専門医・指導医。糖尿病と筋肉、糖尿病運動療法が専門。