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毎日新聞2025/6/22 東京朝刊有料記事946文字
横須賀市の北見万幸・特別福祉専門官(左端)は報告のあと、パネルディスカッションにも加わった=東京・霞が関の弁護士会館で、滝野隆浩撮影
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
日本弁護士連合会主催のシンポジウムが5月末、東京・霞が関の弁護士会館であった。神奈川県横須賀市の北見万幸(きたみかずゆき)・特別福祉専門官が登壇。「墓地埋葬法、特に9条は時代に合ってない」と指摘した。とても興味深い話だった。
弁護士は自治体の条例づくりに専門的立場で関わっており、シンポはその啓発が目的。11回目の今回は「終活支援のための条例」がテーマ。同市は2015年、低所得で身寄りのない人の葬儀契約を市役所が見守る「エンディングプラン・サポート(ES)事業」を始め、全国から視察が相次いでいる。発案者の北見さんが事業化までの経緯などを発表した。
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単身世帯の急増や家族関係の希薄化もあいまって、孤立死した人の身元が判明しても引き取られないケースが増えた。こうした遺体の火葬は、死亡地の市町村長が行うことが墓埋法9条で決められている。葬送費用約20万円も当該自治体の負担となる。その対策として北見さんが考え出したのがES事業である。
生活苦でも多くが「葬式代くらいは自分で」と貯金を残して亡くなっていた。ならば生前、葬儀社と契約してもらい市役所がその履行を見守ればいい。そんな発想だった。さらに北見さんはいう。「9条で火葬、合葬されたら、自分の宗派のお経を読んでもらえません。これは信教の自由の問題です」
事業開始から10年。登録者も増え、ここ数年は9条適用が想定されたケースで、2割の市民の生前の意思が尊重されることになった。
ただ根源的な問題は残る。周辺のまちから大きな都市の病院に搬送されて亡くなる患者のケース。本来なら住民票のある自治体が責任を持つべきなのに、火葬費用は9条規定で病院のある自治体の負担となる。年に数億円になることも。広域搬送などなかった1948年にできた法律の盲点なのだ。
死亡地で責任自治体が決まるから、生前の相談業務に身が入らない現場の職員もいるらしい。だとしたら、9条はなんとも罪つくりな条項である。「忙しいことはわかる。でも、目の前で、いま困っている人の相談に乗らないなんていう福祉はありえない!」。ふだんは穏やかな北見さんが、講演で怒っていた。「私、墓地埋葬法が嫌いです」。そんな言葉が思わず漏れた。(客員編集委員)