「政治とカネ」の問題にけじめをつけられない自民党に「ノー」を突きつける有権者の審判だ。変革を望む国民の期待を裏切る形となった石破茂首相への失望感の表れでもある。
衆院選で、自民は単独では過半数議席(233)を維持できなかった。公明党も振るわず、与党としても過半数を割り込むことが確実となった。
旧民主党に政権を奪われた2009年以来15年ぶりの事態である。「与党で過半数」を勝敗ラインと定めた首相の責任を問う声が出るのは避けられまい。
自民の最大の敗因は、第2次安倍晋三政権以降に深刻化した政治のゆがみやおごりを、根本から正そうとしなかったことだ。
刷新できぬ首相に失望
自民は不透明なカネを使って党勢を維持し、政権の座にあぐらをかいてきた。その象徴が派閥の裏金問題である。
政治資金パーティー券収入のノルマ超過分を議員に還流させていた。政治資金収支報告書に記載せず、11人が立件された。使途公開の義務がなかった政策活動費も改めて問題視された。
批判の高まりを受けて政治資金規正法が改正されたが、自民は改革に後ろ向きで、多くの抜け道が残された。
数の力を頼みとして異論に耳を傾けない姿勢は、安倍政権時代に極まった。国論を二分した安全保障関連法の制定をはじめ、国会を軽視する独善的な政権運営が目についた。
森友・加計両学園問題などの疑惑が表面化し、安倍氏の死去後には、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関わりも明るみに出た。
岸田文雄前首相は当初、「丁寧で寛容な政治」を掲げて軌道修正を図ろうとしたが、アベノミクスの継続など「安倍路線」に回帰した。だが、裏金問題で追い込まれて退陣した。
後任の石破氏は党内野党的な立場だったことから、自民政治の旧弊を改めることが期待された。
にもかかわらず、国会で予算委員会を開かず、十分に議論する場を設けないまま衆院を解散した。支持率が高いうちに選挙を乗り切ろうとする党利党略に走った。
「政治とカネ」の問題でも消極的な姿勢が目立った。裏金に関与した前職らの一部を非公認としたものの、大半は公認した。非公認候補が代表を務める党支部に政党交付金から2000万円を支給していたことも発覚した。
自民はこれまで、表紙をすげ替えて刷新感をアピールすることで危機を乗り越えてきたが、今回はそうした「疑似政権交代」にさえ当たらないと、国民から見透かされたのではないか。
野党第1党の立憲民主党が躍進したのは、反自民の民意の受け皿となったからだろう。
与野党伯仲で緊張感を
立憲は安定感を重視し、旧民主党時代の首相経験者である野田佳彦氏が代表に就任した。従来の支持層であるリベラル系だけでなく、中道や保守層の支持獲得も狙う現実路線を打ち出した。
「政権交代こそ、最大の政治改革」とのスローガンを掲げ、「政治とカネ」の問題を争点に据える戦術が奏功した。自民の敵失に助けられた面は否めないが、国会での存在感の高まりに見合った責任を果たすべきだ。
今回の総選挙では、暮らしの不安を解消する議論は深まらなかった。各党の物価高対策は具体性を欠いたままだ。
自民や立憲は最低賃金の引き上げや給付の拡充に言及したが、中小企業の生産性を高める方策や財源の裏付けは明確ではない。社会保障制度の持続性を高める道筋も示されなかった。
11月の米大統領選の結果が国際情勢に及ぼす影響は見通せず、外交・安保戦略も問われる。
課題が山積する中、求められているのは政治の機能回復である。
12年衆院選から続いてきた「自民1強」の構図が一変し、与野党伯仲の状況が生まれる公算が大きい。緊張感のある国会を求める民意の表れだろう。
自民は独善的な振る舞いを改めて野党の意見に耳を傾ける。野党は監視機能を果たしつつ、実効性ある対案を示す。そうすれば国会論戦が活発化するはずだ。
政治への信頼を回復し、国民の不安を取り除く。それこそが与野党に課せられた責務である。