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健康診断の結果を見て、「血糖値がやや高めですね」と医師や保健師から言われたことはありませんか? 数値を見ると確かに基準値をわずかに上回っているけれど、「糖尿病ではない」と言われて、ほっと一安心――そうした経験がある方は多いでしょう。実はこの「血糖が少し高め」の状態が続く方が、合併症の発症の恐れが否定できない糖尿病の段階よりも血管障害を進めてしまうため、注意が必要です。「血糖が少し高め」はなぜ良くないのか、生活習慣の改善すべきポイントなどをお話しします。
「少し高め」は正常と糖尿病の境目
「血糖が少し高め」は医学的には「境界型」と呼ばれます。これは血液中のブドウ糖(血糖)を処理する力と処理させる量(例えば、甘いものを一度にたくさん取る、頻回に間食を取る習慣があるなど)のバランスが合っていない状態です。つまり、あなたが食べたいと思って口に入れた糖分が血液中にあふれて処理する力が追い付かず、正常範囲のブドウ糖量まで下げるのに時間がかかってしまった結果、血管の中に糖分が多い高血糖状態を持続させてしまうのです。
この「ブドウ糖を処理する力」にはいろいろな代謝機能が関連しますが、中でも、膵臓(すいぞう)のβ細胞から分泌されるインスリンの量やインスリンがきちんと効力を発揮できているか(インスリン抵抗性)という二つが大きく影響します。50〜60代になると、加齢とともにインスリンの働きが弱まるので、「血糖が少し高め」の状態になりやすくなります。
空腹時血糖とHbA1cの違いとは
健康診断を受けた方は、血糖に関する項目として「空腹時血糖」と「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」という二つの指標があることをご存じでしょう。よく似た検査項目だと思われるかもしれませんが、示している意味が少し異なります。
まず「空腹時血糖」は、血液に含まれるブドウ糖の量です。単位はmg/dLで、「100mg/dL」という結果であれば、100cc(1dL)の血液にブドウ糖が100mg含まれているという意味です。
空腹時血糖が示しているのは、前夜からの絶食状態で血糖がどれくらい下がっているかです。食事をしない時間が10時間以上続けば、膵臓から分泌されたインスリンがゆっくりと働き、血中のブドウ糖は少しずつ処理されていきます。その結果として、血糖値が一定の範囲(正常値)まで下がっていれば、「問題なし」と判断されます。
しかしこの検査はあくまでも「検査時点の血液中のブドウ糖量」を見ているにすぎません。日中や夜間、特に食後に血糖が大きく上がった場合でも、空腹状態ではうまく処理されて正常に見えることがあるため、血糖コントロールの乱れを見逃してしまうことがあります。
一方の「HbA1c」は、日々の血糖変動、特に「食後などに血糖が上がっていた履歴」を反映します。ブドウ糖は、血液中に過剰に存在すると体内のさまざまなたんぱく質に結合しやすい性質があります。酸素を運ぶ赤血球内のヘモグロビンもたんぱく質であるため結合します。そこで、このヘモグロビンにどれだけブドウ糖が結合してしまったかという割合(%)を調べる検査がHbA1cなのです。
例えば、朝食後にさらにおやつやスイーツを取ると、血糖値は急上昇します。もしインスリンの分泌がその上昇に追いつかなければ、血液中にブドウ糖が余ってしまい、たんぱく質にくっつきます。この「日々の生活の中でブドウ糖を余らせた時間」の積み重ねがHbA1cに反映されるのです。HbA1cは検査日からさかのぼって1〜3カ月間の血糖の平均を表す指標です。
糖尿病予防のために、健診で特に注意していただきたいのは、HbA1cの数値です。HbA1cは、普段の食生活を映し出す「生活習慣の鏡」とも言える検査項目。空腹時血糖が正常でもHbA1cが高めであれば、ぜひ生活を見直すきっかけにしてください。
<空腹時血糖は「絶食時の糖代謝異常の有無」、HbA1cは「日常の食習慣の影響」>
病気のリスクが高い「少し高め」の状態
健診の判定基準では、「空腹時血糖が126mg/dL以上、または、随時血糖200㎎/dL以上」「HbA1cが6.5%以上」のいずれかがあると「糖尿病型」と判定され、別の日に再検査して、再度いずれかに該当すると糖尿病と診断されます。「少し高め」は、糖尿病型ではないけれど「正常型」(空腹時血糖110mg/dL未満、または、随時血糖140㎎/dL未満)でもない「境界型」です。
「糖尿病でないならまだ大丈夫」と思いがちですが、正常型と比べるともちろん、将来の糖尿病発症リスクは高まりますし、何より境界型に該当する段階から心筋梗塞(こうそく)や脳卒中といった血管疾患のリスクが高まるのです。
糖尿病予防を啓発する「世界糖尿病デー」に合わせ、青色にライトアップされたJR奈良駅旧駅舎=山口起儀撮影
日本人の前向きコホート研究では、健診時に空腹時血糖が110mg/dLを超えていた人は、正常群に比べて脳卒中や心疾患の発症率が約1.5~2倍高かったと報告されています(注1)。また、Huangほかのシステマチックレビュー(既報の論文を集めて再評価する研究手法)では、前糖尿病状態(=境界型)は全死因・心血管イベントのリスクと関連するとの結論が示されています(注2)。そのほかにも複数の前向き研究で、HbA1cが5.7%を超えるだけでも、将来の糖尿病発症が2~3倍、さらに心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)リスクも有意に上昇することが明らかになっています。つまり、血管障害を進ませないために注意が必要なのが「血糖値が少し高め」の状態です。
ブドウ糖の糖化反応が動脈硬化の引き金
では、なぜ「血糖値が少し高め」が血管を傷つけるのでしょうか。
先に説明したように、ブドウ糖はたんぱく質とくっつく性質があります。これを「糖化反応」と言いますが、血管の内側を覆う内皮細胞もたんぱく質が材料です。したがって、血液中にブドウ糖が余った状態が続くと、糖化の促進などにより内皮細胞に微小な傷がつきます。
傷ついた内皮細胞には炎症反応が起きますが、この「慢性的な微小炎症」が継続的に血管内で発生することで、血管壁に変化が起こるのです。
また血糖が持続的に高い中をLDLコレステロールが流れてくると、LDLコレステロールもたんぱく質で覆われているため、ブドウ糖とくっつき、糖化コレステロールに変化します。こうなるとLDLコレステロール本来の役割が果たせない「ゴミ」になってしまうのですが、内皮細胞に傷があるとそこから糖化コレステロールが血管壁に取り込まれ、血管壁が分厚くなっていきます。これが心筋梗塞や脳梗塞の原因の一つになります。高血糖こそがこうした動脈硬化を進める引き金となってしまうのです。
このように、境界型にある高血糖は「見えない炎症」という形で血管に傷をつけ始めます。この時点で、高血糖の原因を探り、生活習慣を修正すれば、血管が本格的に傷つく前にブレーキをかけることが可能です。
血液中のブドウ糖を細胞内に取り込み、エネルギーとして活用するために欠かせないのが先ほど説明したインスリンというホルモンです。インスリンは筋肉や脂肪、肝臓の細胞に働きかけて血管内の余分なブドウ糖を処理します。言い換えると、インスリンはこれらの細胞に糖を取り込むために必要なドアの鍵のような役割です。脂肪や筋肉の細胞のドアが開くと血液中の余分なブドウ糖が取り込まれ、その結果、血糖値は徐々に下がる仕組みです。
ところが、このインスリンが十分な効果を発揮しないケースがあります。一つ目が「インスリン分泌量の低下」です。もともとの体質による場合や加齢による膵臓の老化、さらにインスリンをどんどん分泌させる食習慣などの結果で膵臓が疲弊してしまい分泌量が減ることもあります。
二つ目が「インスリン抵抗性」という状態です。これは、分泌はしていてもそれに見合った十分な効果が発揮されない状態です。本来なら血糖を下げられるインスリン量なのにその効果が得られず、結果として血糖値が高めに推移してしまうのです。
この原因となるのは肥満、中でも内臓脂肪の過剰な蓄積です。健診結果で腹囲が男性85㎝以上、女性90㎝以上であれば内臓脂肪が過剰に蓄積していると考えられます。内臓脂肪がたまり過ぎると、内臓脂肪の細胞からTNFαなど、インスリン抵抗性を惹起(じゃっき)させる生理活性物質が分泌される影響でインスリン抵抗性が起こってしまいます。すると、体はインスリン分泌量が足りないのだと勘違いし、追加でインスリンを分泌してしまい、血管内に必要以上のインスリンがあふれる高インスリン血症という状態を引き起こしてしまいます。これが高血圧や高尿酸の原因になってしまいます(注3)。また、運動不足などで筋肉をあまり使わない習慣もインスリン抵抗性を起こします。
この二つの病態(インスリン分泌の減少とインスリン抵抗性の増大)が重なると、血糖コントロールはさらに難しくなります。例えば、血縁者に糖尿病の人がいるなどインスリン分泌低下の素因がある上に太っているケース、あるいは、年齢とともにインスリン分泌が減っているのに、若いころと同じように糖分の多いスイーツや清涼飲料水をがぶがぶ取っているケースです。このような状態は「血糖値が少し高め」につながりやすく、持続することで今後、糖尿病に至る可能性を否定できない「黄色信号」のサインなのです。
血糖コントロールのための生活習慣のヒント
「血糖値が少し高め」であっても生活習慣を見直せば、空腹時血糖やHbA1cは改善します。
では、どのような生活習慣を選択すればよいでしょう。血液中のブドウ糖は、主に食事で摂取する「炭水化物(糖質)」が材料です。つまり、食事の中でどのような食品を選択しているかが、そのまま血糖コントロールに直結します。みなさんが繰り返し取っている炭水化物にはどのようなものがあるでしょうか。
例えば、白米やパン、中華そば、パスタ、日本そばなどの麺類、いも類、さらに、お菓子、ジュース、最近ではエナジードリンクにも糖質が多く含まれるものが多数あります。また、調理済みのお総菜の材料を見てみると、砂糖ではなく「ブドウ糖果糖液糖」という工場で作られた異性化糖が使われていることが増えています。異性化糖は、他の糖質に比べて消化吸収が速く、血糖値の上昇が急激になりやすい特徴があるので、それほど取っていないつもりでも、知らず知らずのうちに血糖を上げる材料を食べているかもしれません。
「何を」「どのくらい」「どう食べるか」がカギ
血糖値を上げにくくするには、ただ糖質を減らせばよいわけではありません。極端な糖質制限は体に必要な3大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)のバランスを崩し、脂質の摂取比率が増えて、別の観点から血管障害を進める原因にもなりかねません。また、糖質制限によって筋肉量が減ったり、代謝が落ちたりすることもあります。血糖コントロールは短期間のダイエットとは異なり、一生涯続けられる方法を身に付けておくことが大切です。以下のようなポイントを意識することが、持続可能な血糖管理の第一歩です。
①食物繊維が多く含まれるような献立を選ぶ
食物繊維が豊富な食品を糖質の多い炭水化物よりも先に食べることで、糖の吸収を穏やかにすることができ、血糖の急上昇を防ぐのに効果的と言われています。よく知られている食べ方に、野菜・海藻・きのこ類を「先に」食べる「ベジファースト」があり、心がけている方も多いでしょう。しかし、小鉢にふんわり盛られた生野菜サラダを最初に食べたからといって、糖の吸収を遅らせられるかというと疑問です。また、最初に野菜やきのこを口に入れ、そのあとすぐにご飯を放り込んでも、最初に食べた効果は低いでしょう。
そう考えると、食事の順番は重要ですが、それよりも、1食に必要な食物繊維の量が十分に含まれているのかどうかで考える方が、血糖の急上昇を防ぐには良いでしょう。ただ、必要な食物繊維量はかなり多いので、3食の中でしっかり取ることを意識してください。参考までに、日本人の食事摂取基準2025年で示されている食物繊維量目安と野菜に含まれる量を掲載します。
②よくかんでゆっくり食べる
早食いは血糖値を急上昇させます。「1口20〜30回」が目安ですが、なかなか難しいかもしれません。高血糖の方は特によくかむことを意識してください。かむ回数が増えることで、小腸までの到達時間が延び、消化・吸収が緩やかになりますし、満腹感も得られやすく、食べ過ぎが防げます。
③飲み物にも注意を
炭酸飲料やスポーツドリンク、乳酸菌飲料のほとんどが糖分を多く含み、血糖の上昇を高めるブドウ糖果糖液糖が使われているものも多いです。また、スムージーや100%ジュースなど果糖の多い果物(バナナ、リンゴ、ブドウなど)を使った飲み物は、インスリン分泌を伴わず血糖値の急上昇は起こりませんが、中性脂肪を増やします。満腹感が得られにくいため、過食につながりやすい特徴があります。のどが渇いたら、まずは水かお茶を選ぶ習慣をつけましょう。
健康診断結果から「血糖が少し高め」という結果を「まだ糖尿病ではない」と見逃さず、将来の自分の血管を守るための「生活の見直しサイン」と考え、生活習慣を振り返りましょう。いつごろから空腹時血糖やHbA1cが上がりだしたのか、その頃にどのような生活習慣の変化があったのかを点検することがとても重要です。そして、変化のあった生活習慣を元に戻すことが血糖コントロールの近道です。日々の小さな選択が、5年後、10年後のあなたの血管年齢と健康を左右するのです。
注1 メタボリックシンドロームと脳卒中罹患—18.6年間のコホート研究
注2 Association between prediabetes and risk of cardiovascular disease and all cause mortality: systematic review and meta-analysis
注3 重要なのは「おなかの出っ張り具合」ではなかった メタボ健診の本当の意味
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野口緑
大阪大大学院特任准教授
のぐち・みどり 1986年兵庫県尼崎市役所入庁。2000年から独自の保健指導で実績を上げ、「スーパー保健師」として注目される。20年退職。13年より大阪大大学院招へい准教授、20年より現職。医学博士。