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毎日新聞2025/10/6 東京朝刊有料記事1014文字
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きょう6日から、ノーベル賞の発表が始まる。受賞する研究成果は、その時代を反映する。第二次大戦が終わった1945年に生理学・医学賞に選ばれたのは、「医学史上、最も重要だった」とも語られる抗生物質「ペニシリン」の発見だった。
パンなどに生える青カビが作る物質は、肺炎や破傷風などの感染症の特効薬となった。大戦末期には数多くの傷病兵の命を救った。
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受賞者の一人の細菌学者、フレミングの伝記によると、発見は偶然の産物だったらしい。黄色ブドウ球菌の培養時、青カビを混入させてしまった。よく見ると、その周辺の細菌が溶けているのに気付いた。青カビの培養液はさまざまな病原菌に効果があった。
この伝記に感銘を受けたと語っていたのが、同じく青カビから健康に役立つ物質を見つけた東京農工大特別栄誉教授の遠藤章さんだ。血中コレステロールを低下させる効果がある「スタチン」は、動脈硬化の予防・治療薬として世界中で使われている。
秋田県の自然豊かな農村で育ち、母のこうじ作りを手伝った。カビやキノコといった菌類は身近な存在だったという。
スタチン発見の業績で「ラスカー賞」など権威ある国際賞を次々と受賞した。ノーベル賞の有力候補とも言われながら、遠藤さんは昨年、他界した。
そして今、愛弟子で同大特任教授の蓮見恵司さんが、黒カビから発見した成分で、脳梗塞(こうそく)の新しい治療薬の開発に挑んでいる。
救命には、血管を塞ぐ血の塊(血栓)を溶かす必要がある。既存の薬は発症4時間半以内に投与しなければならないが、「SMTP」という成分を使った候補薬は、人の体が備える血栓溶解の仕組みを促し、その時間を大幅に延ばせる可能性があるという。
SMTPは炎症を抑える作用も併せ持つ。これが血流再開時に起きやすい脳出血を防ぐことが、小規模な臨床試験で確認できた。
こうしたユニークな特性は、40億年にわたって生き物と共存してきた菌類に由来するからこそ持ち得たものだと、蓮見さんは考えている。今年は世界規模の臨床試験が始まり、実用化に近付いた。
バイオテクノロジーの発展で、天然の物質から新薬の種を探すことは少なくなった。だが、「自然を師として学ぶ」(遠藤さん)という姿勢は、フレミングの時代から現代にも受け継がれている。
創薬の厳しさを知る遠藤さんは生前、開発の進み具合を聞いて喜び、励ましたという。成果が花開くことを期待したい。(専門記者)