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毎日新聞2025/10/17 東京朝刊有料記事998文字
<kin-gon>
国家指導者は軍に忠誠を求める。兵士や武器をほぼ独占する組織である。厳しく管理しなければ、危なっかしくて仕方がない。
問題は「何に忠誠を誓わせるか」である。第一次世界大戦(1914~18年)に敗れたドイツでは、対象はワイマール憲法だった。軍人たちはこう宣誓した。<憲法に忠誠を、(中略)大統領と上官に服従を誓います>
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ヒトラー率いるナチスが政権を取った33年、それが変化する。対象から「憲法」が消え、翌年になると兵士はこう宣誓させられた。<帝国及び総統であるヒトラー国防軍最高司令官に無条件で服従をささげることを神に誓います>
米南部バージニア州で先日開かれた軍の集会がこれと関連付けて論じられた。世界各地に駐留する将官らが一斉に招集されるのは異例だった。
幹部を前にヘグセス国防長官は「太った将官」らを非難し、興奮しながらこう演説する。「アイデンティティー月間やDEI(多様性、公平性、包摂性)部局はもうたくさんだ。社会的性差への妄想もいらない。これで終わりだ」
強まる多様性重視の潮流や深まる性的少数者への配慮が、よほど腹立たしかったのだろう。最後には「くそったれ」とまで口にしている。
この集会に疑問を呈したのが、アフガニスタンなどに駐留経験のある米国の駐欧州陸軍元司令官のホッジス氏だ。交流サイト(SNS)にこう投稿した。
<1935年7月。ドイツの将官たちは突然、ベルリンに集められ(ヒトラー)総統に個人的忠誠を求められた>
ヘグセス氏の主張はトランプ大統領の考えと共通している。ホッジス氏は長官の演説から、トランプ氏個人に忠誠を求めるメッセージを嗅ぎ取ったようだ。それではナチスと同じではないかと。
ドイツではナチスによる強制に抗して、宣誓を拒否する兵士がいた。よく知られているのがカトリック神父のライニッシュである。42年4月に徴兵され、悩んだ末に決意する。「国民には忠誠を誓うが、ヒトラーには誓わない」
神父が死刑判決を受けたのは4カ月後の8月20日夜だった。翌日午前3時半、処刑室に移され、斬首された。ナチスに処刑された唯一のカトリック司祭である。
今年はナチスが倒れて80年だ。神父はこんなメッセージを残している。<自由で強い人格を持ち、祖国の山々のごとく揺るぎない者となりなさい>。組織が個人に重くのしかかる時こそ、覚えておきたい言葉である。(論説委員)