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健康診断の結果票の中に、「eGFR(イー・ジーエフアール:推算糸球体ろ過量)」という項目があるのに気づいていますか? 「クレアチニン(Cr)」などと並んで記載されていることを知っていても、アルファベットの見慣れない項目に「特に何か言われていないから」と見落としている人も多いかもしれません。ところが、このeGFRは腎臓の機能が低下し始めているサインを早期に伝えてくれる非常に大切な指標なのです。
腎臓は肝臓や膵臓(すいぞう)と並ぶ「沈黙の臓器」です。eGFRは自覚症状がなく気づきにくい「慢性腎臓病(CKD)」に早期に気づく手掛かりになる情報でもあります。
今回は健診結果で見逃しがちなeGFRと生活習慣病との関係や腎機能低下の予防・改善に役立つ生活習慣について説明します。
腎臓のフィルター機能の目安
腎臓は、全身の細胞から出されたゴミといえる血液中の老廃物や、余分な水分、塩分を尿として排出し、体内の血液をキレイにしてくれる「高性能フィルター」の役割を担っています。 この働きの中心にあるのが糸球体という微細な毛細血管の塊で、一つの腎臓に約100万個も存在しています。一つ一つの糸球体は毛細血管を毛糸玉のようにクルクル巻いた形のため「糸球体」と言われるわけですが、毛細血管を血液がくねくねと流れる間に、いるもの、いらないものをより分けて血管の壁から捨ててくれています。この仕事を1分間にどれくらい行えているのかを表すのがeGFRで、血清クレアチニンから推算されます。基準値は60ml/分/1.73m²以上ですが、毎日使っているため、亡くなるまで60ml/分/1.73m²以上を維持できることは少なく、年齢とともに低下します。加齢によって目のピントを合わせるのに必要な毛様体筋などが衰えて徐々に視力が低下する老眼と同じことです。
eGFRの単位が「ml/分/1.73m²」というのはわかりにくいかもしれません。「ml/分」は先ほど説明した「1分間にどれくらい仕事ができているか」の割合。「1.73m²」は標準的な体表面積を表しています。
eGFRをわかりやすくイメージできるよう、私は「単位を%に置き換えて考えてください」と説明しています。eGFRが90ml/分/1.73m²以上だと「正常または高値」とされるので百分率でとらえるとわかりやすくなります。20代の頃にeGFRが100ml/分/1.73m²、つまり腎機能が100%であったものが、最近の健診で60ml/分/1.73m²まで低下していたとすると、腎機能が60%程度で頑張ってくれていることになります。
加齢とともに低下するのは避けられませんが、できればeGFRを低下させずに長く腎臓を使いたいものです。どうすれば腎臓は大切に使えるのでしょうか。言い換えれば、どうして糸球体は傷むのでしょうか。
入り口と出口 どちらが傷んでも糸球体損傷
心臓から送り出された血液は、おなかにある太い血管である腹部大動脈を経て腎動脈に入り、さらに輸入細動脈を通って糸球体にたどり着きます。
糸球体内の血圧は約50~60mmHg(ミリメートル水銀柱)に保たれています。これは一般的な毛細血管の血圧(15mmHg程度)の3~4倍に相当し、この高い圧力が血管壁から不要物をこしだすのに重要な働きを果たします。この圧力は、健常な状態では、「入り口(輸入細動脈)」と「出口(輸出細動脈)」の直径の差によって調整され、十分な圧力が保たれる構造になっています。
しかし何らかの原因で、輸入細動脈が拡張していると、糸球体にどんどん血液が流れ込むようになってしまいますし、ろ過処理が済んだ血液の出口にあたる輸出細動脈が狭くなっていると、糸球体から血液が流れ出せないため糸球体内圧は高まります。つまり、この「入り口(輸入細動脈)」と「出口(輸出細動脈)」の直径のバランスが崩れるとeGFRが悪化するのです。
糸球体の微細な血管が傷つくと、ろ過機能に直接ダメージを与えますが、実は「入り口と出口どちらの血管に問題が起きるか」によっても、糸球体の傷み方は異なります。
輸入細動脈が拡張していると糸球体に流れ込む血液量が増えてしまい、糸球体内圧が上がり過ぎて糸球体の微細な血管が傷むことは既に説明しました。内臓脂肪の蓄積によって循環血液量が増加している場合や降圧薬の種類によっても糸球体は傷つきます。
逆に、輸入細動脈に動脈硬化がある場合は、血管が狭くなり、糸球体に流れ込む血液の量が減少し、糸球体内圧が低下します。これにより腎臓のろ過機能が十分に発揮できなくなり、eGFRは低下します。動脈硬化の原因には高血圧や高血糖、高LDLコレステロール(脂質異常)があります。また、加齢による脱水でも血液の量は減少するため、同じように腎機能が低下する一因になります。これらが、入り口側の問題に関連する腎機能低下です。
一方、高血糖や糖尿病などによって出口側の輸出細動脈が硬くなって流れが悪くなると、糸球体内圧が過剰に高まり、血液をこし出す糸球体の血管壁にあるフィルターが傷つき、たんぱく尿や慢性腎不全へと進行する原因の一つになります。
高血糖だと「過剰ろ過」に
糖尿病のある方では、早期から「糸球体過剰ろ過(ハイパーフィルトレーション)」と呼ばれる状態が見られます。つまり、糸球体にたくさん仕事をさせてしまっている状態です。
糸球体によってろ過された原尿は、いきなりぼうこうにいくわけではなく、尿細管という細長い管を通過しながら、こし出した後でもう一度、塩分(ナトリウム)やカリウムなどのミネラル(電解質)など、必要な物質を取り戻したり、水分を再吸収したりして、調整します。この尿細管は、糸球体からこし出されたばかりの尿が通る近位尿細管とさらに先の遠位尿細管とに区分されています。近位尿細管には、SGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体)というたんぱく質があり、血液中のブドウ糖を再吸収する働きを担っています。ここで、再取り込みする糖が多いと同時にナトリウムも多く再吸収してしまいます。そうすると、さらに先にある遠位尿細管のセンサー(マクラデンサ)が「原尿中のナトリウム量が少ない」と反応してしまいます。
腎臓の内部構造=出典・テキスト「医療通訳」一般財団法人日本医療教育財団
マクラデンサは本来、尿中のナトリウム量を感知して糸球体の血流(ろ過量)を調整する「フィードバック装置」のような働きをしています。届くナトリウムが少ないと、「ろ過が足りていない」と誤解し、輸入細動脈を拡張する命令を出します。その結果、糸球体内の血圧が上昇してろ過量が増えるため、eGFRが増加するのです。
この状態が続くと、糸球体が高圧状態にさらされて損傷し、やがて尿中にたんぱくが漏れ出す「糖尿病性腎症」の初期変化につながります。高血糖の人ほど、健診でeGFRや尿たんぱくをしっかり確認し、腎臓に余計な負荷がかかっていないかを点検する必要があります。
eGFR低下したらどこを点検するか
健康診断の結果で、eGFRの数値を確認してみましょう。 次のような段階に分けられます。
G1でも高血糖状態であれば過剰ろ過が起こっているかもしれません。G2でも、尿たんぱくや血圧、血糖、体重、貧血などの状態と組み合わせて、見ることが大切です。毎年の健診結果を比べてみて、どんどん低下しているようなら、原因を振り返ることが重要です。
水分不足や脱水を起こしていると腎機能が下がることは既に説明しました。夏場はもちろん、冬でも暖房を利かせすぎて脱水気味になることがあります。また、夏場は血管が緩むため、降圧薬が効きすぎて血圧が低めになっていることがあります。これもeGFR低下につながります。
eGFR低下の原因として次の項目を点検してみてください。
・高血圧、糖尿病、高血糖、高LDLコレステロール血症、高尿酸血症
・腎毒性のある痛み止めなどの薬剤(NSAIDs)の常用、造影剤を使った検査など
・腎疾患(一次性腎疾患)がある場合
・脱水、水分不足
・血圧低下
これらの要因を複数持っている方ほど、腎臓は静かに傷みやすく、定期的な健診データの確認が不可欠です。
腎機能低下を防ぐ生活習慣は
腎機能の低下が一度進むとなかなか元に戻せません。すべての糸球体を大切にするための生活習慣をぜひ取り入れてください。
【1】塩分を減らす
腎臓に負担をかけない食事の基本は「減塩」です。1日の塩分摂取目安は男性7.5g未満、女性6.5g未満。カップ麺やカップうどんはひとつ食べると塩分を5g程度取ってしまうことになります。干物やハムなども生や自分で調理する場合と比べると塩分が多くなります。さらに、加工食品や外食の“隠れ塩分”にも注意してください。
【2】血圧・血糖・血中脂質をコントロール
内臓脂肪の過剰蓄積は血圧や血糖の上昇、脂質異常を引き起こします。腹囲が男性85㎝、女性90㎝を超えている場合は、体重の3%減量を目安に、身体活動量を増やしたり、糖質や脂質の量の取りすぎがないか食生活を見直したりしてみましょう。
【3】たんぱく質の取りすぎに注意
全身の細胞で使われた後に「燃えカス」が出ない糖質と異なり、たんぱく質は必ず老廃物が出るため、腎臓での処理が必要になります。したがって、プロテイン中心の生活など、たんぱく質を取りすぎる生活が腎臓の仕事に負担をかけているかもしれません。たんぱく質の摂取目安は体重1kgあたり1g程度で大丈夫。特に、eGFRが60を下回っている方は、それ以上に腎機能を低下させないためにも、取りすぎていないか食事内容を振り返りましょう。
eGFRは「腎臓の余力」を測るものさし
私たちは、日々の生活習慣によって知らず知らずのうちに腎臓へ負荷をかけているかもしれません。eGFRは「今の腎臓がどれくらい頑張れているか」を教えてくれる重要な指標です。もし、健康診断でeGFRが基準値より低めだったり、尿たんぱくを指摘されたりしたら、それは「腎臓からのSOS」。その小さなサインを見逃さず、早めに生活を整えることで、将来の透析や心臓・脳の病気を防ぐことにもつながります。
まずは健診結果の「eGFR」に目を向けてみてください。そして、今できることから――減塩、体重管理、食事の見直しを始めてみましょう。腎臓は“沈黙の臓器”ですが、私たちの生活次第で、長く元気に働き続けてくれる臓器でもあります。
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野口緑
大阪大大学院特任准教授
のぐち・みどり 1986年兵庫県尼崎市役所入庁。2000年から独自の保健指導で実績を上げ、「スーパー保健師」として注目される。20年退職。13年より大阪大大学院招へい准教授、20年より現職。医学博士。