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毎日新聞2026/2/27 東京朝刊有料記事980文字
<kin-gon>
法の上に立つ者はいない。その具体例としてしばしば紹介される司法判断がある。米連邦最高裁判所が1952年、時の大統領トルーマンの決定に待ったをかけたケースである。
第二次世界大戦に勝利した米国では、労働者によるストライキが頻発していた。そんな中、朝鮮戦争は起きる。50年6月だった。
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米国は国連軍の主力として参戦する。戦いには鉄鋼が欠かせない。その生産現場でも労使対立が深まっていた。主要製鉄企業の労働組合は51年、大幅な賃上げ要求を経営側に拒否され、ストも辞さない構えだ。
戦線への影響を危惧したトルーマンはスト開始前日の52年4月8日、大統領令で製鉄所の接収と操業継続を決めてしまう。管理権を奪われた企業側は「(ドイツの)ヒトラーや(イタリアの)ムソリーニと同じだ」と猛反発し、提訴した。
最高裁判事9人のうち長官を含む4人がトルーマンに任命されていた。他の5人も同じ民主党政権時代の任命だったため大統領は「勝てる」と踏んだらしい。
ただ、判事たちは任命者よりも法に従った。接収命令から2カ月後、「大統領の決定は憲法上の権限を逸脱している」と判断した。最高権力者であっても法の上には立てなかった。
判決後のストで製鉄所は7週間操業を停止した。それでもすでに十分な鉄鋼が生産されていたため戦況に影響はほぼなかった。
それから74年の歳月が流れた。最高裁はトランプ大統領による「相互関税」発動を違法と判断した。「大統領にその権限はない」と考えた判事6人のうち2人はトランプ氏に任命されている。大統領は「ばかげた決定だ」「恥だ」と批判し、さっそく別の法律で関税をかけた。
トルーマン政権は中国、北朝鮮を相手に戦っており、差し迫った脅威があった。一方、現在の米国は大規模戦争に参加していない。平時に法を軽視するやり方は、異常である。
独立宣言の起草者の一人で、第3代大統領のジェファーソンは政治権力の横暴を危惧した。憲法の骨子を作った第4代大統領マディソンに宛てた手紙(1789年3月15日付)にこう記している。
<立法府の専制は現在最大の脅威で、長きにわたって続くはずだ。いずれ行政府の専制が現れるだろうが、それは遠い先になる>
米国は今年7月4日、独立から250年を迎える。かつて「遠い先」とされた時代が今、その姿を現している。(論説委員)