|
|
毎日新聞2026/3/4 東京朝刊842文字
京都大で開発されたiPS細胞。さまざまな臓器や組織になる能力を持つ=山中伸弥京都大教授提供
多くの患者が期待を寄せる日本発の再生医療技術である。実用化に向けて着実に歩みを進めたい。
厚生労働省の専門家会議が、人工多能性幹細胞(ⅰPS細胞)を使った2種類の再生医療製品の製造販売を了承した。近く厚労相が承認する。
心筋細胞のシートを貼って重い心臓病を治療する製品と、神経細胞を脳に移植するパーキンソン病患者向けの製品である。承認されれば、世界で初めて市販されることになる。
Advertisement
ⅰPS細胞は患者の皮膚などの細胞から作り、さまざまな組織や臓器になる能力を持つ。山中伸弥京都大教授らのチームが2006年に開発した。政府は難病治療の切り札に位置づけ、全国の大学などに巨費を投じて研究を後押ししてきた。
大きな節目を迎えたといえるが、実用化には課題も残る。
iPS細胞を活用した再生医療の主な臨床研究や治験
今回の承認は、安全性が確認できた段階で販売を認める「仮免許」の位置付けだ。市販後7年以内に有効性などを確認することが正式承認の条件となっている。開発に時間がかかる再生医療製品を、いち早く患者へ届けるため14年に導入された仕組みである。
この制度で6種類の医薬品の販売が始まったが、正式承認を受けたものはない。2種類は有効性を確認できず販売中止になった。
今回の2製品の治験(臨床試験)では、参加した患者の多くで効果が見られた。とはいえ、使用数が増えるとばらつきが出る可能性もある。症例を重ね、効果が期待できる患者を見極める必要がある。
そもそも新たな医療技術の実用化は容易ではない。
ⅰPS細胞製品の臨床試験は脊髄(せきずい)損傷や糖尿病などでも進む一方、京都大と武田薬品工業による共同研究事業が今年度で終了することになった。武田薬品が10年間で約200億円を投じたものの、開発の見通しが立たなかったためとされる。
世界では、ⅰPS細胞にとどまらず、遺伝情報を自在に書き換えるゲノム編集技術も活用するなど、再生医療研究の裾野は広がっている。
これまで積み重ねてきた知見を生かしつつ、新たな潮流にも対応する研究体制の構築が急がれる。