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毎日新聞2026/3/24 06:00(最終更新 3/24 06:00)有料記事2167文字
開発した英語辞書アプリについて説明する中田涼介さん=東京都港区で2025年9月17日、平塚雄太撮影
高校2年生のときに会社を作り、さらに通信制のN高校に移った経験を持つ中田涼介さん(18)は、人工知能(AI)を活用した英語辞書アプリを販売している。自らの受験勉強にこのアプリを活用し、この春に第1志望の慶応大経済学部に合格した。起業後に有名校をやめるなど高校生CEO(最高経営責任者)として独自の道を歩んできたが、大学で挑戦を続けるつもりだ。
D判定からの逆転
中田さんは起業やアプリ開発に忙しく、高3の途中までは、面接や小論文などを中心とした総合型選抜(旧AO入試)での受験を考えていた。しかし2025年10月、総合型選抜で慶大を不合格になった。そこから本格的に受験勉強を始め、約4カ月後の慶大経済学部の一般入試に合格した。
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「浪人も覚悟していたから、驚きも喜びも大きかった。自分でも『奇跡の逆転合格』だと思う」
高3になったばかり、25年4月の模試で慶大経済学部はD判定で、それから模試は受けていなかった。塾には通わず、他の大学や学部は受験しなかった。
出遅れたのに志望校を一つに絞って一般入試で合格できた要因に、中田さんが挙げたのがAIだった。「学習の『望まないタスク』をAIに代替させ、本当に学びたいことに集中できるようにした」と説明する。
失恋、そして開発へ
中田涼介さんが開発したアプリ「AI Dictionary」の画面=中田さんがCEOを務める会社「Artivation」のプレスリリースより
受験で役立ったというAIの一つが、自身が開発して25年4月に発表した辞書アプリ「AI Dictionary」だ。
英和、和英、英英の辞書機能を持ち、普通の電子辞書のように、単語の意味を調べられ、類義語や使用例、ニュアンスなども表示される。チェックリストや練習テストができる機能もある。リスニングでも使えるよう、聞いた音を日本語のカタカナで入力すると推測される英単語を表示する。
中田さんは以前から、英単語一つを調べるにしても、類義語や使用例をより知りたいと思いつつ、調べるのに時間がかかると感じていた。そこで調べる手間をAIに任せ、整理して一括で見られるようにすれば、より本質的な英語を学べると考えた。その自主学習のために開発したプログラムがアプリの基だった。
高2の時に経験した失恋も、アプリ開発のきっかけの一つになったという。中田さんは当時、交際していた年上の女性とうまくいかなくなって別れた。その女性は英語が得意で、海外留学の夢があった。追いつきたいと思った中田さんは、より本格的な英語を身につけたいと勉強を始めたという。
ただ、効率的に学びたいとも考えた。決してプログラミングは得意でなかったというが、チャットGPTを活用し、辞書のように英単語の意味を調べつつ、類義語や使用例も表示できるようなプログラムを構築していった。チャットGPTとの対話を重ねてコードに生かす作業を100回ほど重ね、練習テストもできるようにした。中田さんは「元カノに追いついてやろうというテンションで頑張りました」と振り返る。
完成後、他の高校生の学習にも役立つと確信してアプリにし、起業して売り出した。アプリは100回の検索まで無料で、月額100円の登録料で検索の制限がなくなる。使用した友人からは「英語のニュアンスの違いを学ぶことができるし、テストもできるのがいい」と好評だった。
成功の裏に行動力
AIの活用について語る中田涼介さん。以前の取材時には英語辞書アプリ以外のアプリも開発していた=東京都港区で2025年9月17日、平塚雄太撮影
大学とは違って、ビジネスとしては「合格」に至っていないのが現状だ。アプリ開発のプレスリリースをインターネット上に出したものの利用は広まらず、実際の収益につなげられていない。今のところは小規模の利用にとどまっている。
しかしアプリの開発で、AIの生かし方や「商品」の考え方を学び、短期間で大学入試の本番での精度を高めることに役立った。中田さんは「受験勉強はAIで負担を減らし、人間が本当に向き合うべき理解と思考に集中することで、困難だった成果を実現できた」と胸を張る。
入試の小論文対策でもAIを活用し、過去問や例題の解答を自分で考えた後、AIの添削やフィードバックをもとに改善点を考えた。学習の遅れていた数学もAIを活用して効率化し遅れを取り戻したという。
中田さんはもともと中学受験で人気がある中高一貫校、芝国際中学・高校(東京都港区)に通っていた。起業してビジネスを広げたいと思って学校をやめ、通信制のN高校に移った。
芝国際高1~2年のころ、企業の協賛を得てバルーンを高度約3万メートル上空の成層圏まで飛ばすプロジェクトに取り組んだ。記者はこのプロジェクトを取材して中田さんと知り合ったが、当時の担当教員もその行動力に感心していた。
「受け身のままの人間だと、これからの時代はAIに淘汰(とうた)される」。中田さんは、かつて通っていた塾の先生からそう言われたという。
失恋、そして一度の受験失敗を行動する力に変え、AIを自分を生かすためのツールにしていった。中田さんは辞書アプリについて「利用は振るわなかったが、自分が頑張った証しとして、(さまざまなアプリを購入できる)アップストアなどに残るようにしたい。今後も塾などから活用の申し出があれば全面的に協力したい」と話した。
AIの活用について語る中田涼介さん=東京都港区で2025年9月17日、平塚雄太撮影
その上で「大学進学後もさまざまな業種の方と関わり、AIの活用法を探っていきたい。ゆくゆくは日本をけん引する企業を育てたい」と夢を描く。挑戦する若者の道は、この先も続く。【千葉支局・平塚雄太】