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毎日新聞2026/4/15 東京夕刊有料記事897文字
亡き映画監督の大島渚さんによるドキュメンタリー番組「忘れられた皇軍」(1963年)を見た。日本の植民地支配下で、「日本人」として日本の戦争に徴用された韓国人傷痍(しょうい)軍人・軍属らを描いた作品だ。
視聴をすすめてくれたのは戸籍研究の第一人者の遠藤正敬さん。昨秋に出した著書「戸籍の日本史」が好評だ。
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遠藤さんが子供だった70年代、家族で東京・上野公園に行くと、白衣の傷痍軍人が募金への協力を呼び掛ける姿があった。子供ながらに「国が戦争犠牲者を放置するはずはない」と信じていたから、募金の意味がよく分からなかった。
「それで大人になって『忘れられた皇軍』を見る機会があって、大変な衝撃を受けて……」
国は日本人傷痍軍人には戦後、障害年金や恩給を手厚く給付した。だが、元「日本人」である朝鮮・台湾出身の傷痍軍人には一切が与えられなかった。その差別を生んだ元凶が戸籍である。
52年のサンフランシスコ平和条約発効時に、日本政府は戸籍が「内地」にあるかどうかで、一方的に国籍を線引きした。朝鮮や台湾に戸籍があった人々は「日本人」ではなくなり、戦争犠牲者として受けるべき当然の補償からも切り離された。
大島作品では、韓国籍となった彼らが街頭で、あるいは首相官邸前などで、懸命に日本政府の理不尽を訴える姿が胸に刺さる。
「自分が見た傷痍軍人もあるいは韓国人だったのでは、と思い至りました。一体戸籍とは何か。そうして研究が始まりました」
先行研究は皆無に近かったが、2017年にサントリー学芸賞を受賞するまでに業績を積んだ。
家族単位で名前や出生地などを登録する日本独自の戸籍は、前近代的な家制度や差別と深く結びついている。詳しくは遠藤さんの著書を読んでほしいが、高市早苗首相が「世界に誇れる見事なシステム」(「日本の息吹」21年5月号)とホメたところで、戸籍にもはや実用性はない。
各国は戸籍がなくても問題なく社会を運営している。家制度の残滓(ざんし)たる戸籍を多大なカネを使って維持する意味は何か。実は高市氏も過去、条件付きで廃止を認めるような発言をしたのだが、それはまた後日。(オピニオン編集部)