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毎日新聞2026/4/27 東京朝刊有料記事1814文字
2025年の世界幸福度ランキングで55位、1人当たり国内総生産(GDP)は24年で24位に後退している。日本がどんどん弱い国になっていくのは、みんなが同じ方向を向いているからではないか。こんな時代こそ「変さ値」を磨く必要がある。
「変さ値」とは、人とは違う自分らしさという意味で、ぼくが作った言葉だ。20年以上前から、ボランティアで毎年中学校や高校に行き、「教科書にない1回だけの命の授業」をしてきた。その授業で一貫して伝えてきたのは、偏差値だけで生き方を決めてほしくないということ。「変さ値」という自分だけの武器を磨いていってほしいということだった。
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社会学者の上野千鶴子さんが19年、東京大学の入学式で述べた祝辞が感動的だった。がんばったら報われると思えることそのものが環境のおかげ。その環境に感謝し、努力を勝ち抜くためだけでなく、弱者や支えが必要な人のために使える人間になってほしいと、新入生に訴えたのだ。
偏差値教育を勝ち抜いてきた東大生に向けて、その能力をどう生かすかを問うたわけだが、まさにその生かし方には「変さ値」が求められる。
自分自身と向き合って、自分らしさを尊重できると、他人に敬意を払うことができる。また、自分の軸で物事を考えるので、古い価値観にしがみつかず、本当に大切なことを見極めて選択し行動することができるのではないか。変化への対応力も高くなる。
日本人女性初の国連事務次長となった中満泉さんと、ニューヨークの国連会議場とオンラインでつないで対談した。彼女のキャリアは、国連難民高等弁務官事務所に入職し、湾岸戦争やボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の最前線から始まったという。
危険と隣り合わせの状況で、まだ若者だから、あるいは女性だからという理由で難しいことがあったのではないか、率直に聞いてみた。すると、意外な返事があった。「むしろ女性という点では、マイナスよりもプラスがあった可能性がある」と中満さん。相手に脅威を感じさせず交渉することができたのではないかと推測した。
イラクに五つの診療所を造り、支援を続けている筆者
ぼくは25年前からイラクの小児がんの子どもたちの支援活動をしてきた。難民キャンプに診療所を五つ造り、イラク北部のアルビルに、白血病やがんの子どもたちが勉強しながら治療を受けられる施設を造った。過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭してからは、彼らに破壊された病院の惨状や、拉致されたヤジディー教徒の女性たちの心の傷を目の当たりにしてきた。
中満さんは、ISが破壊していったモスルの中央病院の復興を支援した。特にこだわったのは、外から医療人材を集めるのではなく、あくまでイラク全土に散ってしまっていた現地の医師を集めることだった。専門家が集まりだし、病院の復興は非常に早かった。こういう発想がすごいところだ。
今、世界情勢は混迷している。ウクライナ侵攻、ガザ紛争、イラン侵攻と戦争が相次ぎ、国際秩序を維持する国連のパワー不足が露呈している。国連事務総長は男性が務めているが、日本の女性が事務総長になり、世界の平和のために働きだしたらいいのになと、ぼくは希望を持っている。
長く続いた男社会のしがらみを破って、女性たちは「変さ値」の高い生き方を実現しようとしている。その生き方や発想は、男女を問わず、若者からシニアまですべての人の生き方のヒントになると思い、「女の“変さ値”」(潮出版社)という本を出した。
アフガニスタンに用水路を建設した中村哲さんが立ち上げた「ペシャワール会」で活動してきた看護師の藤田千代子さん、舞踊歴70年以上の現役バレリーナである森下洋子さん、シンガー・ソングライターの加藤登紀子さん、エッセイストでタレントの阿川佐和子さん、厚生労働省の官僚で誤認逮捕され、半年間、拘置所に勾留され、その後、厚労次官になった村木厚子さん……。各分野で活躍する「とんがった女性たち」に話を聞くと、「変さ値」を武器に自分の可能性を切り開いてきたことがわかった。
現在は、「男の“変さ値”」という本を書き始めている。第1回はシンガー・ソングライターのさだまさしさん。28億円の借金を30年かけて完済し、人助けのために風に立つライオン基金を立ち上げた。女も男も、おとなも子どもも、もっと生きやすくなったらいい。そのためにも、「偏差値より『変さ値』」という価値観が広がってほしい。(医師・作家、題字も)=次回は6月29日掲載