|
|
毎日新聞2026/4/27 東京朝刊1689文字
米ホワイトハウスで記者団の取材に応じるトランプ大統領=2026年4月16日、ロイター
核戦争のリスクが高まる今、「核兵器なき世界」への決意が改めて試される。世界的な軍縮会議が続く「時の利」を生かし、その機運を高めなければならない。
核拡散防止条約(NPT)の再検討会議がニューヨークの国連本部で約1カ月にわたって開かれる。191の国・地域が参加する最大の軍縮会議だ。
Advertisement
条約は1970年に発効した。米露英仏中に核兵器の保有を認める一方、軍縮交渉の義務を課す。5カ国以外の保有を禁じ、核は原発など平和利用に限定する。
再検討会議は条約の履行状況を検証し、非核化に向けた計画を構想するのが目的だ。議論を集約した最終文書は、今後の軍縮プロセスの指針となるのが通例だった。
ところが、2015年と22年の過去2回は最終合意が得られず、NPT体制を形骸化させた。正念場を迎える中での開催となるが、早くも悲観的なムードが漂う。
崖っぷちのNPT体制
最終文書を採択できなかったNPT再検討会議=米ニューヨークの国連本部で2022年8月26日、隅俊之撮影
「今から半世紀は核兵器の時代だ」。3月、フランスのマクロン大統領はこう断言し、核弾頭を増産するとともに欧州に「核の傘」を提供する意向を表明した。
米国のトランプ大統領は4月、「今夜、一つの文明がまるごと消滅する」とイランに警告し、「核の使用」とも受け取れる脅しをかけた。
暴論と言うほかない。ウクライナ侵攻を続けるロシアの「核の脅し」に対抗し、イランの核開発を阻止する狙いがあるとしても、核軍縮の責任を放棄したに等しい。
軍縮の機運は今や風前のともしびだ。米露間に唯一残っていた核軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)が失効し、中国は核戦力の増強を進める。
米露は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の多弾頭化を進め、新型爆撃機や原潜の配備・計画が伝えられる。中国を交えて極超音速ミサイルの開発競争も激しい。
非加盟の保有国の動きも看過できない。国境問題を抱えるインドとパキスタンが交戦し、北朝鮮はミサイル発射を繰り返す。イスラエルの閣僚は核使用を示唆した。
懸念すべきは、国際法を踏みにじる大国の横暴が繰り返される中での核軍拡であることだ。理性を欠く指導者が「核のボタン」にいつ手をかけるとも限らない現状は憂慮してあまりある。
警鐘は乱打されている。
米プリンストン大は、ロシアによる1発の警告発射が欧州の域を超えて米露核戦争に発展し、数時間で9000万人超の死傷者が出ると試算する。
インドとパキスタンが核戦争に陥れば、大量のちりによって気温が低下し、穀物の生産減を招いて飢餓が広がると米コロラド大などが予測する。
核戦争が起きた場合の影響を調べている国連の専門家パネルには被爆者の日本人医師も参加している。最終報告は27年の国連総会に提出される。
人類にとって受け入れがたい結果をもたらすことは、広島・長崎の惨劇を振り返れば明らかだ。その記憶を新たにし、世界が共有する必要がある。
時の利を軍縮の機運に
再検討会議では、保有国に対する批判が集中するに違いない。
フランスが提案する欧州での拡大抑止は新たな拡散の懸念を呼び起こす。イスラエルの核保有を棚上げにして共にイランを攻撃する米国の姿には矛盾しか感じない。
軍縮をないがしろにして身勝手な主張を繰り返す無責任な姿勢がNPT体制を危機に陥れている、という自覚が保有国にあるのか。非保有国の疑念は当然である。
11月には核兵器禁止条約の初の再検討会議が開かれる。この条約により核廃絶は人類が共有する規範となった。加盟国の拡大が国際世論を高めていくカギとなろう。
日本は6月、NPT批准から50年を迎える。この間、多くの政権が核軍縮に取り組む一方、米国との「核共有」論が与党内で公然と語られる時代状況の変化もある。
だが、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則は、平和に立脚する国造りを掲げた日本の国是である。その防波堤を崩してはならない。
「核兵器と人間は共存できない」。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の浜住治郎事務局長の被爆者としての言葉は重い。
「究極的核廃絶」の目標を確認し、実現に向けた努力を日本は国際社会とともに払うべきだ。