|
|
毎日新聞2026/5/2 東京朝刊有料記事1006文字
<do-ki>
正体不明の芸術家バンクシーの新作が4月末、ロンドン中心部に現れたのをニュースで見た。
高さ5メートル以上の立体像らしい。前を閉じたスーツにネクタイの男性とおぼしき体格のいい人物が、右手で大きな旗のポールを掲げ、勇ましく行進している。旗が顔にまとわりつき前が見えないのに、拳を握った左手を大きく振り、いかにも確信ありげだ。
国旗だろうか。スーツ姿の女性なら、高市早苗首相がモデルだと言われても違和感はない。
同じ立像が100体、大通りに並んだら、かなりの威圧感と不穏な空気が立ち上るだろう。
世界とそこに生きる私たちは、今どんな姿をしているか。黙って突きつけられた気がする。
4月27日に首相官邸で「新しい戦い方有識者会議」の初会合が開かれた。外交・防衛・経済の最高指針を定める国家安全保障戦略など安保3文書を年内に改定する。高市氏のあいさつ要旨。
Advertisement
「比較的安定した国際秩序は過去のものとなった。地政学的な国家間競争が激化している。我が国の平和と独立を守り抜くには、防衛力の抜本的強化を主体的に進めなければならない。総合的な国力を徹底的に強くする。新しい戦い方への対応や長期戦への備えを進めなければならない」
実は近衛文麿元首相、いや東条英機元首相のあいさつです、と混ぜっ返しても、誰も笑えない。
2022年に岸田文雄内閣が、反撃能力(旧・敵基地攻撃能力)の保有を認め、27年度までに防衛費をGDP比2%にするための改定を行ったばかり。当時の会議名は「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」。
改組された今回の正式会議名は「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」。消えたコトバは「防衛力」。高市氏の「主体的に」とは、守るばかりが能じゃないよという意味だろう。
「新しい戦い方」の主な論点は、最新型ドローン兵器の大量生産体制、サイバー戦争の能力向上、何年も戦い続ける弾薬・部品・燃料の調達網、初の原子力潜水艦保有、核兵器の日米共同管理に向けた非核3原則見直し……。
よし、戦闘準備万全。いや、まだ大事な論点をお忘れでは。
「日本国民は、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」(憲法前文)
安保3文書より上位の最高法規の書きっぷりが、どうも古臭い? いっそ憲法改定も「主体的に」議論なさったら。明日は施行79年の憲法記念日。(専門編集委員)