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再審制度見直し問題で持論を述べる自民党の稲田朋美元政調会長=国会内で2026年4月27日、小林努撮影
稲田朋美元防衛相ら自民党議員が、冤罪被害を助長する「検察抗告」の禁止を訴え、法務省側と痛烈バトルを繰り広げている。国会提出が予定されている刑事裁判のやり直しを定めた「再審制度」の改正案をめぐるものだ。その深層について稲田氏が語り尽くした。(ジャーナリスト・鈴木哲夫/サンデー毎日5月10・17日号掲載)
「マスコミが退出するまでに私、ひとこと言わせてもらいたいんですよ!」
再審制度見直しの法案について審査する自民党の部会=自民党本部で2026年4月6日、岩本桜撮影
4月6日、自民党の法務部会と司法制度調査会の合同会議。いつものように冒頭のみのテレビカメラや記者などの取材が許可され、「ここからはご退席ください」と司会者が言ったまさにその瞬間だった。立ち上がって強い声で語ったのは、弁護士資格を持つ稲田朋美元防衛相だった。
「1ミリも私たちの言うこと聞かないじゃないですか。ほとんどの議員が抗告禁止って言っているにもかかわらず、まったく無視している!」
テレビ各社は稲田氏が激怒した訴えを撮影し、ニュースで放送。これが再審法改正へ世間の関心を大きく引き寄せるきっかけとなった。
揺れているのは冤罪(えんざい)など裁判をやり直す「再審」制度を見直す改正案だ。現在、再審が決まった後にも検察が不服申し立て、つまり抗告することができるため、最終的に無罪になっても裁判は異常に時間がかかる。
1966年、静岡県で起きた一家4人殺害事件で再審無罪となった袴田巖さんのケースでは、2014年に地裁で再審開始決定が出たが、検察側の抗告で再審開始までに9年かかった。無罪を勝ち取るまで58年という歳月がかかったのだ。
稲田氏らは、「抗告」は人間の尊厳や法の精神の観点から禁止すべきとして、再審の制度改革を目指し超党派の国会議員連盟で改正案をまとめようと動いていた。一方、法務省側は職務に過ちはないとする検察の立場から「抗告」は守りたい。そのため議連の動きなどを察知して先手を打ち、法制審に諮問して今国会で改正案を通そうとしている。
記者会見で再審法改正案の論点について質問に答える自民党の柴山昌彦氏(右から3人目)。左は同党の井出庸生氏=国会内で2026年4月21日午後4時21分、平田明浩撮影
今回、政府提出法案として国会に提出するためには、自民党の事前審査を通過する必要がある。このため、法務省による6日の自民党合同会議での法案説明となったのだ。だが、出てきた内容は予想通り検察抗告は残したまま。それで稲田氏らの怒りの発言となった。
そもそも再審法改正の問題の本質は何か。私は、レギュラー出演している東海テレビの「ニュースONE」(4月21日)のコーナーで稲田氏に単独インタビューした。その概要は以下だ。
――法務省案が抗告を残すことにそれでいいのかと感じていたが、稲田さんが6日の合同会議でやっと言ってくれたなと。その経緯は?
稲田 「抗告の議論の盛り上がりはすごくて、(参加者の)ほぼ全員が抗告を禁止すべきだと言っている。にもかかわらずスルーして、(法務省側は)次の証拠開示に行くっていう日だった。それまで4回合同会議があって、1回3時間くらいありました。私が毎回言っていたのは、袴田さん事件の関係者、福井事件の関係者、抗告禁止すべきと言っている有識者のヒアリングをやってください、議連の案を席上に配布して今出されている法制審の案を対比できるようにしてくださいと。それをまったく聞かないで次の論点にいくことについて、マスコミがいる前で異議を言おうと立ち上がったんです」
再審制度見直しを議論する自民党の部会でヒアリングに臨む袴田秀子さん(中央)=東京都千代田区で2026年3月25日午後3時9分、巽賢司撮影
稲田氏が挙げた「福井事件」とは、40年前に福井市で起きた女子中学生殺人事件をめぐる冤罪だ。当時21歳だった前川彰司さんが殺人容疑で逮捕。一貫して無罪を訴えていたが服役した。2011年に再審決定されたが、検察が抗告。再審開始は13年後の24年だった。抗告の問題だけではない。再審では、捜査機関による供述の誘導、無実を証明する証拠を隠していたことなども明らかになった。
稲田 「抗告の禁止や証拠開示は、弁護士たちがすごく悔しい思いをしている。袴田さん事件の場合、無罪を証明するために5点の衣類とかネガを出してくれと弁護人が言ってから20年もかかった。何回も抗告された」
――法務省諮問案はどこが問題か。
自民党の法務部・司法制度調査会合同会議で、報道陣が退席を求められた直後、声をあげる稲田朋美元防衛相(手前左)。奥右は鈴木馨祐司法制度調査会長=同党本部で2026年4月15日午後3時3分、平田明浩撮影
稲田 「自民党で発言している人は、全員抗告を禁止すべきだと言っている。法務省は抗告が必要だと言っている。埋められないこの溝は結局、立法事実とは何かってことなんです。私たちは、誤った有罪判決で冤罪被害に遭っている人をどうやって早く救済できるかということをやろうとしている。法務省案はその意識が非常に低い。単に今、再審法の規定がないので規定を作りましょうというくらいの感覚。そこにすごくギャップを感じます」
人権侵害、社会正義に反している
――これまでの法務省との闘いの構図とは?
稲田 「袴田さん事件の再審開始決定が出た後、3年くらい前に党内で小さな勉強会を立ち上げ、その後に議連ができて議連案の骨子がまとまりました。これから法案にして出そうという時、法務省が法制審にかけた。法務省は私たちの動きを知っているんです。議連案の抗告禁止を潰したい気持ちがあって、法制審への諮問をした。その有識者メンバー6人が全員抗告禁止に反対の人。また、“抗告はおかしい”という有識者も150人近くいらっしゃる。元裁判官もいる。そういう方々が一人もいない会議体はおかしくないですか」
――今、稲田さんの思いは?
再審制度見直し問題で持論を述べる自民党の稲田朋美元政調会長=国会内で2026年4月27日、小林努撮影
稲田 「こんな理不尽はない。福井事件で前川さんは自白もしていない。血の付いたシャツを着た前川さんを見たという虚言癖のある男性の証言があったのですが、それは自分の覚醒剤の罪を軽減してもらうための嘘の証言だった。21歳の青年が今60歳、人生を丸ごと奪われて今さら無罪と言われても……。彼は殺人犯とずっと思われてきた。中学生の被害者も、たとえばお姉さんも早く真犯人を見つけてほしかったはず。結局、みんなを不幸にしている。袴田さんだってそう。最大の人権侵害だし、社会正義の実現という原点に反している。イデオロギーに関係なくこの問題は取り組むべきです」
稲田氏の6日の発言をきっかけに、メディアもこの問題を積極的に取り上げるようになった。また、抗告禁止の自民党議員の声が多数を占めていることから、法務省は4月15日に修正案を提示した。ところが、この修正案は抗告を実質維持。《十分な理由があると認められる場合でなければ検察官抗告してはならない》との文言を付け加えたが、「逆に言えば十分な理由があると言って抗告できる」(部会メンバー)。さらに、検察官抗告があった場合は《抗告から1年以内に裁判所が決定を出せるよう努めなければならない》とする努力義務規定などを加えたが、「あくまで努力義務。これも抜け道だ」(同)。
稲田氏らは、15日の説明の合同会議で再び受け入れられないと反発した。法務省は再修正案の提示を迫られる形で4月24日現在、膠着(こうちゃく)状態のまま。次号までにどんな決着を見るか。
首相官邸に入る高市早苗首相=2026年4月24日午前8時13分、平田明浩撮影
今回の改正案は重要広範議案とされ、高市早苗首相が質疑に出席する予定だが、別の部会メンバーは語る。
「政府案だから首相が決断すれば抗告禁止にできる」
果たして、人権や人間の尊厳を高市内閣は示せるか。
すずき・てつお
1958年生まれ。ジャーナリスト。テレビ西日本、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。豊富な政治家人脈で永田町の舞台裏を描く。テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活躍。近著『シン・防災論』『戦争は、ひとつの「狂気」からはじまる』