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毎日新聞2026/5/15 東京朝刊有料記事1961文字
「PIXムービング」が開発した「ロボバス」。車内には運転席やハンドル、ペダルが存在しない=中国南部・貴州省で2025年10月、鶴見泰寿撮影
車の価値とは何だろうか。その疑問に向き合ったのが連載「クルマを超えて」(4月15日朝刊1面など)だ。自動車業界は近年、「100年に1度」と言われる変革期にある。人工知能(AI)による自動運転や電気自動車(EV)などの電動化が、これまでの車に対し根本的な問いを突きつけている。私は昨年度、自動車担当としてメーカー、下請け、自治体、ユーザーなど異なる立場の現場を取材した。車を超えた先の未来像の一端を私なりに伝えたい。
痛感したのは都市部と地方における価値観の二極化だ。移動手段としての車は公共交通機関が少ない地方では欠かせない。10年以上地方で勤務した私はその重要性を肌身で感じてきた。
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一方、都市部では公共交通機関が充実し、マイカーがなくても支障はないと思った。東京都世田谷区の教習所では、無作為に声を掛けた十数人全員が車を持とうとせず、ある女子大学生は「仕事で必要だから免許を取りに来た。身分証としてはマイナンバーカードがあるから本当は要らないのだけど」と言っていた。
警察庁などによると、20~24歳の人口に占める運転免許保有者数の割合は、1999年の81・8%から2024年の72・1%と、ここ四半世紀で10ポイントほど低下している。地方における車の需要が高い傾向にあることを踏まえると、都市部の若者の保有割合は更に低い可能性がある。
国内の新車販売台数は90年の約780万台をピークに下がり、25年は約450万台だった。国の統計では、平均年収が過去25年間400万円台後半でほぼ横ばいなのに、コンパクトカーは1・5倍に値上がりしている。
シェアサービス 選択する若者ら
免許証取得の魅力を失い、車の値段も高い。車を所有しても都市部では高額な駐車場代や維持費が重荷になっているのが実態だ。
こうした中、若者らは車でなく、Luup(ループ)社の電動キックボードやドコモ・バイクシェアの電動アシスト自転車のシェアサービスを選び始めている。「目的地が駅から離れていてもアクセスしやすい」「終電を気にしなくなった」。取材した若者は口々に利便性を語った。ループ社の担当は「都心のポート(乗降場所)はコンビニ大手3社の合計店舗数より多い」とアピールする。
ループ社は今年、座って運転する電動三輪車の実証実験も始める。狙いは高齢者を含めた幅広い層への浸透だ。将来的には自動運転を見据え、目的地で乗り捨てても近くのポートに自動で戻る構想さえある。
運転手不足など社会問題解消も
ここまで発展すると車は必要なのかと考えてしまう。ヒントになるのは、中国南部・貴州省で取材した自動運転の6人乗りEVバス「ロボバス」だ。地元の新興企業PIXムービングが開発し、移動式の診察室やオフィス、観光バスなど用途は自在。最高経営責任者の喩川さんは「労働力不足や都市と農村の二極化問題を解決したい」と、日本での展開も見据える。専門家は自動運転社会が日本で実現するのを20年以上先と予想するが、ロボバスは未来社会を予感させてくれた。
PIXがわずか5年で自動運転機能を備えるEVを実用化させたように、中国の自動車業界は目覚ましい進化を遂げている。政府主導で産官学が連携し、生成AIを活用して加速度的に開発・生産力を上げ、コスト競争力を高めている。
一方、日本は企業ごとの自由競争が基本だ。日本自動車工業会(自工会)は、各社間で部品調達や一部の自動運転技術の開発などの共通化を探り、競争力を高めようとしている。だが、部品の共通化で仕事がなくなる下請けには痛みが及ぶだろう。「クルマのスマホ化」と呼ばれる、ソフトウエアの更新で機能を高めるSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)やAIの自動運転が導入される次世代車の開発で中国勢に対抗できるのか。自工会幹部は「30年代には新しい交通システムを作り世界をリードしたい」とするが、他産業や官民連携がどこまでできるのかが鍵を握る。
車を売り切る従来のビジネスでは自動車関連産業に携わる550万人の生活を支えることは難しい。近い将来、スマホで呼ぶ自動運転車が目的地に連れて行ってくれるなら車を持つ意味はなくなる。バスやタクシーの運転手不足も解消される。ループのような小回りが利く乗り物も増えて個人の需要に対応できるなら、都市部と地方の二極化さえ消えるかもしれない。
その時、日本の自動車産業は生き残れるのか。まずは強みの壊れない品質と交通事故を防ぐ安全性に磨きをかけることが重要だ。最先端技術を詰め込んだ車と交通システムをパッケージとして輸出することができるかが試金石になる。車の在り方が変わっても世界をリードし続けることはできるはずだ。