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過去のコラム「夏になると、血糖値が急上昇? 原因は「健康によいから」「夏バテ防止に」と飲み続けていた〇〇〇だった!」で述べたように、ポカリスエットを代表とするスポーツドリンクや、リポビタンDをはじめとする栄養ドリンクには「砂糖が大量に使われている」という落とし穴があります。そのことに無関心で、大量に摂取した結果「体重が増えた」、「血糖値が上昇した」という話は枚挙に暇(いとま)がありません。大量の砂糖が含まれている食品は他にも多数あります。しかし、長年の間、「健康に悪い」とされていた“悪役”は砂糖よりもむしろ「脂肪」や「コレステロール」でした。例えば、脂肪が多いからという理由で肉類を控える人や、コレステロールが多く含まれているからという理由で卵を食べない人もいました。最近になって、ようやく砂糖の有害性が注目を浴び、そして海外、とくに欧州では国を挙げて国民の砂糖摂取減少に取り組んでいる地域もあります。今回は「砂糖の有害性の実態」そして、「有害性がいかに隠されてきたのか」について述べたいと思います。
有害性の警告と隠蔽
砂糖の有害性についてはこれまで全く指摘がなかったわけではありません。虫歯のリスクになるという指摘に加え、1950年代あたりからは肥満や血糖値上昇の要因であるという声はあったそうです。1972年には英国の栄養士John Yudkinが『Pure, White and Deadly』(未邦訳)という書籍を上梓(じょうし)し「砂糖の有害性」を世界中に警告しました。
しかし、その警告を否定する意見が相次ぎ、さらに砂糖を使った製品を製造する企業がロビー活動などをおこない、砂糖の有害性を隠蔽(いんぺい)しようとしました。
1943年にアメリカの砂糖業界のメンバーが「Sugar Research Foundation (=SRF=砂糖研究財団)」(以下、SRF)という団体を設立しました。この団体が砂糖の有害性を隠そうとしていたことが、今でははっきりしています。それを暴いたのが医学誌「JAMA Internal Medicine」に、2016年に掲載された「砂糖産業と冠動脈性心疾患研究:業界内部文書の歴史的分析(Sugar Industry and Coronary Heart Disease Research A Historical Analysis of Internal Industry Documents)」(※)という報告です。
この報告はSRFの内部文書などを調査。1965年に医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された「心疾患の原因は脂肪とコレステロールだ」とした論文について、砂糖が心疾患のリスク要因であるにもかかわらず、その悪影響を軽視する内容なのは、SRFから論文著者への働きかけがあったためであることを明らかにしました。論文には、著者らがSRFから資金提供を受けたことは書かれていませんでした。当時は利益相反開示の規則が整備されていませんでしたが、今なら到底受け入れられないような出来事です。
砂糖擁護の研究に資金提供
SRFの隠蔽活動を暴いたこの報告が公表される前年の2015年、The New York Times が「コカ・コーラが資金提供する研究グループが解散へ(Research Group Funded by Coca-Cola to Disband)」(※2)というスクープ記事を掲載しました。
記事によると、「Global Energy Balance Network(世界エネルギーバランスネットワーク)」という団体が米国公衆衛生当局の圧力を受け、解散を発表したとのこと。この団体は、2014年にコカ・コーラ社からの多大な資金援助によって設立され、「清涼飲料水と肥満の関連性を軽視すること(甘い飲み物と肥満には関係がないと主張すること)」、つまり、コカ・コーラ社にとって都合の悪い話を消すことを目的としていました。
この団体の会長は、コロラド大学の肥満研究者のJames O. Hill医師でした。Hill医師は、「肥満の原因は(砂糖ではなく)運動不足」とする研究の支援や費用の負担を、コカ・コーラ社に求めていたことも分かっています。要するに、砂糖を大量に含むコカ・コーラが肥満をもたらすこと、砂糖が人体にとって有害なものであることを隠すために、コカ・コーラ社はJames O. Hillという(カネに目がくらんだ)研究者と手を組んで、「砂糖は有害ではありません。肥満は運動不足が原因です」という正確でない情報を広める団体をつくっていたというわけです。
=ゲッティ
米国小児科学会や栄養士会などもコカ・コーラ社から数百万ドルの資金提供を受けていたものの、同時期にコカ・コーラ社との関係を解消することを発表しました。
次々明らかになるリスク
では、砂糖はどのように人体をむしばんでいくのでしょうか。いくつかの研究を紹介しましょう。
・砂糖入り飲料水を1日に2杯以上摂取すると、心血管疾患による死亡リスクが30%以上増加する(※3)
・砂糖入り飲料水の摂取量が(わずか)250mL増加するごとに死亡リスクが4%増加する(※4)
・砂糖入り飲料水は全てのがん、特に乳がんのリスクと関連している(※5)
・砂糖入り飲料水は、それが炭酸飲料、加糖茶、フルーツドリンク、エナジードリンク、スポーツドリンクのいずれであっても認知機能の低下と有意に関連している(※6)
・砂糖の摂取量が多ければ認知症のリスクが増大する(※7,※8)
つまり、砂糖や砂糖入り飲料水は、寿命を短くし、特に心血管系疾患のリスクを上昇させ、がん(特に乳がん)のリスクを上げ、さらに、認知症のリスクも押し上げる、というわけです。
=ゲッティ
砂糖ががんのリスクを上昇させるのは、おそらく砂糖による炎症促進作用でしょう。炎症は細胞内のDNAに損傷を与え、遺伝子変異を引き起こし、結果としてがんを引き起こすのです。また、砂糖はインスリンやインスリン様成長因子の分泌を刺激しますから腫瘍の増殖と進行を促進すると考えられます。
それにしても不運なのは、砂糖のとりすぎには注意を払わないまま、脂肪やコレステロールを含む食品を避けてきた人たち、それから肥満解消のために過剰な運動を強いられてきた人たちです。「自分はかなり運動量が多いはずなのに、血糖値が下がらない」と嘆く人は、もしかすると運動後に飲んでいるスポーツドリンクがその原因だったのかもしれません。そのために、「さらに運動量を増やさなければ」というプレッシャーを感じていた可能性もあるでしょう。「砂糖の真実」がもっと知られていれば、人々は脂肪を気にせずに食事を楽しみ、過度な運動を強いられるプレッシャーから解放されていたのではないか、とも思います。
では、少しずつとはいえ、「砂糖の真実」が明らかになってきているのに、人々はなぜ砂糖の大量消費を止められないのでしょうか。なぜ、砂糖よりも脂肪やコレステロールが悪者だと考える人がいるのでしょうか。次回に続きます。
※ Sugar Industry and Coronary Heart Disease Research A Historical Analysis of Internal Industry Documents
※2 Research Group Funded by Coca-Cola to Disband
※3 Long-Term Consumption of Sugar-Sweetened and Artificially Sweetened Beverages and Risk of Mortality in US Adults
※4 Sugar and artificially sweetened beverages and risk of obesity, type 2 diabetes mellitus, hypertension, and all-cause mortality
※5 Sugary drink consumption and risk of cancer
※6 Sugar-sweetened beverages consumption is associated with worse cognitive functions in older adults
※7 Dietary Sugar Intake Associated with a Higher Risk of Dementia in Community-Dwelling Older Adults
※8 Association of sugar intake with incident dementia in the UK Biobank
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谷口恭
谷口医院院長
たにぐち・やすし 1991年関西学院大社会学部卒、2002年大阪市立大医学部卒。タイのエイズポスピスでのボランティアなどを経て、07年クリニック開設。大阪公立大非常勤講師。プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。