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毎日新聞2026/5/18 東京夕刊有料記事933文字
「命をみつめて」をテーマに半世紀以上にわたり、世界各地で撮影を続けてきたフォトジャーナリストの小林正典さん(76)=大阪府=が4月からインスタグラム(photographer_kobayashi.m)に毎日1枚、作品を投稿している。争いや分断が広がる社会に関心を向けてほしいという思いからだ。
小林さんが現場を見つめる原点になったというかけがえのない写真がある。貧者の救済に尽くしたマザー・テレサ(1910~97年)が幼い子の腕に手を重ね、やさしく語りかけている一枚だ。
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79年のノーベル平和賞受賞後、世界各地から取材希望が押し寄せたが、彼女はほとんど応じていなかった。それでも小林さんは81年、マザー・テレサが活動の拠点とするインド・コルカタへと向かった。特別な取材許可証を得て、修道会「神の愛の宣教者会」が運営する市内の施設を拠点に撮影を始めるも、施設には「(マザー・テレサ)不在」の表示がいつも掛けられたままだった。
3週間が過ぎたある日、行き倒れた人たちを収容する施設「死を待つ人の家」で、「患者たちが待っているから話しかけてみて」と一人のシスターに声をかけられた。路上の物乞いには冷たい態度なのに撮影時、ベッドに横たわる患者には優しい言葉を掛けている。そんな自分の不自然さに気づいた。
「ついにはシャッターが切れなくなってね。写真を撮るのをやめて、食事の配膳や介助などを手伝っていました。患者に触れると見た目よりずっとガリガリで、死と隣り合わせにある深刻さがこれまでにないほど伝わってきました」
滞在1カ月半を超え、帰国が迫る頃、マザー・テレサが姿を見せた。「カメラを置いた写真家」の様子が耳に入ったのかもしれない。その日の終わりに小林さんにほほ笑んだ。夢中でシャッターを切った。「『写真は心で写すもの』と教えられた気がしました」
インスタには、小林さんが80年から20年間、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のカメラマンとして撮影した飢餓や貧困にあえぐアフリカやアジアの難民や避難民の写真も並ぶ。日々の写真には、英語と日本語による短いメッセージや撮影エピソードが添えられている。子どもたちが幸せを感じられる世界への願いが込められている。(専門記者)