|
|
毎日新聞2026/7/1 東京夕刊有料記事868文字
どの国にも「始祖」をめぐる神話ってものがありますな。
イギリス、すなわちグレートブリテンには、ギリシャ神話の時代、その名も「トロイのブルータス」なる人物がやってきて、王となって「ブリテン」を建国した、なんて話がある。
朝鮮半島に伝わる神話では、4000年以上前、神々の血をひく檀君(だんくん)なる英雄が国を建てたという。
Advertisement
どちらも実在した考古学的証拠はなく、神話上の人物とみなされている。
……はずなのだが。
その檀君の骨を見つけた、と主張するのがお隣の北朝鮮。1993年、「平壌で檀君の遺骨が発見された」と国営メディアが大々的に報じ、翌年には金日成氏の肝いりでピラミッド型の「檀君陵」まで造ってしまった。
もちろん世界の学術界は相手にしなかったのだが、国内向けには金氏の権威づけや自国の「偉大性」誇示に大いに利用されたらしい。
本邦も負けていない。
神話上の存在である神武天皇である。奈良県橿原市の一角が「墓」に選ばれ、明治政府などが壮麗な「神武天皇陵」に仕立てた。さらに、神武天皇が即位したとされる地には、巨大な橿原神宮まで建てている。やはり、どれも考古学的証拠はない。権威主義国家のやることは、いずこも同じだ。
その神武天皇の男系の血を継ぐとかで、右派の論者らが、戦後に一般市民になった旧皇族の男系男子に限って皇族にする、というのが今回の皇室典範改正案の中核である。その問題点は本紙「特集ワイド」でも指摘した。養子の子孫は、やがて皇位継承の候補者になるのだろう。
右派と書いたが、つまりは皇国史観である。生理学的には、男性の染色体は「XY」、女性は「XX」だ。なぜ男系男子でないとダメかといえば、神武天皇の「Y染色体」を絶やさないためだ、という論も養子論を支えている。神話と科学の破綻必至のマリアージュ。Y染色体教の誕生である。
養子案は、天皇・皇族の人格ではなく、染色体こそが大切なのだ、という主張と捉えたほうが理解しやすい。XだYだといった物理的存在ではない、生身の人間である皇族の方々こそ迷惑だと思う。(オピニオン編集部)