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毎日新聞2026/7/2 東京朝刊有料記事1287文字
北見工業大教授・保健管理センター長の奥村貴史さん
新型コロナウイルス禍で、私たちは何を学んだだろう。過酷な行動制限、職場や学校の閉鎖、ワクチン予約の混乱、マスクをめぐる衝突。社会は疲弊し、対応に当たる医療機関や行政も混乱した。パンデミック(世界的大流行)は、必ず再び訪れる。どうすれば、あの混乱を繰り返さずに、多くの教訓を次のパンデミックへの備えとして生かせるだろうか。
感染症危機管理にかかわってきた専門家は、2009年の新型インフルエンザによるパンデミックから多くのことを学んでいた。しかし、その教訓を今回の危機に生かしきることができなかった。感染者の情報を集約し、分析し、必要な対策へつなげる。そうした基本的な業務でさえ十分に効率化できなかった。この反省を今度こそ危機に生かすには、何が必要か。
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その鍵となる事例が、結核である。結核は、明治や昭和の病気と思われるかもしれない。しかし、現在も全国各地で発生し続けている。ひとたび患者が発生すれば、保健所は接触者を調査し、必要な検査につなげる。つまり、コロナ禍の初期に社会全体が経験したような対応が、結核対策では日常的に行われている。さらに近年では、外国出身の住民が増え、輸入症例や多言語に対応する必要性も高まっている。マンパワーが限られ、通訳確保にも苦労する地方の保健所にとって、その負担が増えている。つまり、この平時の対策から鍛え直すことが、いざパンデミックが生じたとしても動じない体制を作り上げる突破口となりうる。
保健師の仕事は、新規の結核患者が届け出られると始まる。感染性のない潜在性結核であれば、対応は内服治療の支援が中心となる。だが、感染性のある活動性結核であれば、患者が誰と、いつ、どこで、どれくらい接触したかを丁寧に聞き取る。家族、職場、学校との連携も必要となる。そこに「言葉の壁」が加われば、業務負担はさらに増す。
それにもかかわらず、こうした疫学調査には、コロナ禍を経てもなお効率化の手段が乏しい。現場の献身に支えられてきた結核対応を、より正確に、より負担の少ないものへ変えていくこと。それは、そのままパンデミックへの対応力を高めることに直結する。
そこで取り組んできたのが、結核対応を支える情報技術の研究だ。多言語で問診を行い、聞き取った情報を整理し、感染状況を明らかにして、保健師の業務を支援する。急速に発達した人工知能(AI)技術を活用することで、従来は人手に頼るしかなかった情報処理を機械が担えるようになった。我々は、北海道の各地における結核対応にこの技術を実利用すべく、行政と連携しながら研究を進めてきた。
このモデルは、結核を基点としつつ、新型コロナのような新興感染症、はしか、インフルエンザといった従来の感染症にも応用できる。今後、北海道で育てたこの革新的技術を、日本全国へ、そして世界へと広げたい。パンデミックへの備えは、未来の疫病ではなく、眼前にある感染症への取り組みから始めるべきだ。それが、我々が得た教訓である。
■人物略歴
奥村貴史(おくむら・たかし)氏
米ピッツバーグ大大学院修了、計算機科学博士、医師。元厚生労働技官。