今年も読書週間を迎えた。この機に、本がある暮らしの豊かさをあらためて考えたい。
「読書離れ」が進んでいる。1カ月に一冊も本を読まない人が62・6%と、初めて5割を超えた。文化庁が16歳以上を対象に郵送で実施した「国語に関する世論調査」の結果だ。対面で調べた前回の2018年度は47・3%だった。
読書量が減ったという人も7割近い。スマートフォンなど情報機器に時間を取られることを理由に挙げる人が多かった。
社会のデジタル化が進み、スマホがあれば、さまざまな情報を即座に手に入れることができる。短い動画やネットゲームを手軽に楽しめる。
一方、読書では一枚一枚ページをめくり、一行一行たどりながら、言葉の奥にある意味を考える。作者の思想や登場人物の心情に思いを巡らせるのが醍醐味(だいごみ)だ。
一人が体験できる時間や空間は、物理的に限られている。だが、書物の中に一歩足を踏み入れれば、居ながらにして古今東西の事物に接することができる。
知識を得るだけではない。詩や小説といった文学は読み手の魂を自由な世界へといざなう。多様な生きざまに触れることで、人生の奥行きも広がるだろう。
そんな本との出合いの場となるのが街の本屋さんだ。ふらっと立ち寄り、書棚を眺めるうちに、思いもよらなかった本に巡り合う。
ネット書店は便利だが、文化庁の調査でも6割近くが「書店で実際に手に取って選ぶ」と回答している。
しかし、読書離れもあって、書店の減少が止まらない。
日本出版インフラセンターによると今年3月末時点の書店数は1万918店で、前年に比べ577店減った。1日1店以上のハイペースだ。
図書館と共に地域の大切な文化インフラでもある。出版文化産業振興財団によると、書店のない自治体は全体の27・7%にのぼる。本屋さんがなくなれば、本と接する機会もそれだけ減る。
「本の力で未来は切り開ける」。パキスタン出身の人権活動家、マララ・ユスフザイさんの言葉である。ページをめくれば、心揺さぶる一行が待っているはずだ。