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毎日新聞2026/7/19 東京朝刊有料記事2418文字
盧武鉉元大統領の墓。大勢の人が追悼に訪れていた=韓国南東部・慶尚南道金海市で6月24日、福岡静哉撮影
<Sunday Column>
韓国の大統領経験者は悲しい末路をたどる人が多い。その墓を巡っても、あまり知られていない逸話がある。
ソウルから高速鉄道などで約2時間半。南東部・金海(キメ)市郊外の農村にある盧武鉉(ノムヒョン)元大統領(任期2003~08年)の墓地を6月下旬、訪ねた。
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観光バスから降りてきた大勢の市民が墓前に花をささげていた。「今も大ファン。とても会いたい」。釜山市の朴ハヌルさん(49)が目を潤ませた。そばには盧氏の生家もある。元大統領はソウルに住む人が多いが、盧氏は古里に戻り、住民たちと触れあった。
苦学して弁護士となり、民主化運動に参加後、政界へ。愚直に理想を語る姿と草の根の選挙運動で人気を博し、大統領に上り詰めた。だが退任後、親族の不正資金疑惑で自身も検察の聴取を受け、生家に近い山中で命を絶った。
歴代大統領の人気ランキング調査では1位となることが多い。「親しみやすく庶民的な姿が今も人々の心をつかんでいるからでは」。墓地などを管理する盧武鉉財団の千鎬喆(チョンホチョル)さん(41)はそう話す。千さんも学生時代に盧氏と接し、その魅力にひかれた。
墓地周辺には盧氏の等身大パネルや銅像と一緒に記念撮影できるコーナーや、人生を紹介する記念館があり、年間約35万人が訪れる。
国立墓地で最大
実は、故郷の土に返る元大統領は異例だ。大統領経験者は通常、国立墓地に埋葬されるが、盧氏は「古里に小さな墓を作ってほしい」と遺言を残していた。
最も多くの元大統領の墓があるのは、国立墓地「ソウル顕忠院」である。ソウル市内を流れる漢江(ハンガン)のほとりにあり、戦死者や独立運動家ら約16万人が共に眠る。
約143万平方メートルの広大な敷地の中で周囲を圧倒するのが、初代の李承晩(イスンマン)元大統領(任期1948~60年)夫妻が眠る墓だ。広さは約360平方メートル。顕忠院で2番目に大きい。保守層から「建国の父」と高く評価されるが、独裁体制を敷いたとの批判も根強い。
その李氏を上回る最大の墓の主が、朴正熙(パクチョンヒ)元大統領(任期63~79年)夫妻だ。敷地の奥の高台にそびえ、広さは李氏夫妻の約1・6倍もある。朴氏は「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長をけん引し、保守層が高く評価する。暗殺で死去し、盛大な国葬が催された。元大統領の人気ランキングで上位の常連だ。ただ、民主化運動を厳しく弾圧したため、進歩系勢力の評価は低い。
90年に死去した尹潽善(ユンボソン)元大統領(任期60~62年)は国立墓地への埋葬を固辞し、一族の人々が眠る墓に葬られた。
一方、ソウル顕忠院が手狭となったため、中部・大田(テジョン)市に2カ所目の国立墓地「大田顕忠院」が建設された。元大統領用の8人分の敷地は06年に完成。崔圭夏(チェギュハ)元大統領(任期79~80年)と妻はここに葬られた。
人気なのは結局
09年に死去した金大中(キムデジュン)元大統領(任期98~03年)も本来は大田顕忠院に葬られるはずだった。当時の報道によると、政府の担当者も「大田に埋葬されるだろう」と述べている。ところが、遺族がソウル顕忠院への埋葬を希望したという。政府は急きょ、ソウル顕忠院に1人分のスペースを確保した。
金氏は民主化運動の闘士として活動した後、大統領となった。初の南北首脳会談を実現し、ノーベル平和賞を受賞。進歩系勢力の精神的支柱の一人だ。今も多くの政治家らが節目に墓参りに訪れる。
15年に死去した金泳三(キムヨンサム)元大統領(任期93~98年)の墓も、ソウル顕忠院にどうにか敷地を確保し、造成された。せっかく大田に国立墓地を作ったのに、やはり人気があるのはソウルのようだ。
21年に盧泰愚(ノテウ)元大統領(任期88~93年)が死去した時は新たな問題が起きた。盧泰愚氏は80年、全斗煥(チョンドゥファン)元大統領(任期80~88年)が政権を奪った軍事クーデターで中心的な役割を担った。同年に軍が民主化運動を弾圧し多数の市民が死傷した光州事件にも関与した。退任後、内乱罪や贈収賄罪などで懲役刑が確定した。
全氏の遺骨、今も自宅に
元大統領の警備や年金などを定めた法律は、禁錮以上の刑が確定した人や弾劾された人は特別待遇が受けられないと定める。国立墓地への埋葬者について定めた法律にこうした規定はないが、当時の政府は、盧泰愚氏に埋葬される資格はないと判断した。
その判断を予想していたのか、盧泰愚氏は遺言で、北朝鮮が見える場所への埋葬を望んだ。在任中、南北関係の改善に努めた盧泰愚氏の遺骸は北朝鮮との軍事境界線に近い坡州(パジュ)市の墓地に葬られた。
盧泰愚氏の死去から28日後、全氏が世を去った。全氏も光州事件などで内乱首謀罪に問われて無期懲役罪が確定している。
全氏も回顧録に「北朝鮮が見える場所で統一の日を迎えたい」と記しており、遺族は坡州市での埋葬を準備した。だが「殺人犯は坡州に来るな」と訴える反対運動が起き、計画は頓挫した。全氏は光州事件の首謀者であり、盧泰愚氏と違って最後まで遺族に謝罪もしなかったため、強い批判を浴びている。全氏の遺骨は今も妻がソウルの自宅に安置したままだ。
存命者のうち、李明博(イミョンバク)元大統領(任期08~13年)は横領罪などで有罪が確定した。朴槿恵(パククネ)元大統領(任期13~17年)は弾劾で失職したうえ収賄罪などで有罪となった。24年に「非常戒厳」を宣布した尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領(任期22~25年)も弾劾された。3人は国立墓地には入れないとの見方が強い。現時点で「無傷」なのは文在寅(ムンジェイン)元大統領(任期17~22年)くらいだ。
大田顕忠院の元大統領用の敷地には崔氏夫妻の墓だけが建ち、7人分が広々と空いている。当分の間、この景色は大きく変わらないだろう。