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毎日新聞2026/7/24 東京朝刊有料記事1962文字
早朝から山頂を目指す登山者ら=富士山吉田ルート(山梨県側)登山道で2026年7月1日午前5時2分、杉本修作撮影
日本は自然災害の多い国だ。自然災害は発生するたびに想像を超える被害をもたらす。そして私たちは、その経験を教訓として、同じ被害を繰り返さないように防災対策を重ねてきた。
例えば近年では、阪神大震災(1995年1月)で地震に弱い建物の倒壊と住民の圧死が相次ぎ、建物の耐震化が進められた。東日本大震災(2011年3月)では津波によって多数の人的被害や東京電力福島第1原発事故が生じ、原発の地震津波対策や津波避難が強化されてきた。古い話だが、今の防災対策の大本となる災害対策基本法ができたのは、約5000人の死者・行方不明者が出た伊勢湾台風(59年9月)による名古屋市などの高潮被害がきっかけだった。
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こんな日本でも、近代に入ってから一度も見舞われたことのない災害がある。それが富士山の噴火だ。教訓とできる例が近代以降にない災害は、ひとたび発生すれば甚大な被害を及ぼすのではないか。そう考えて、火山研究の第一人者である藤井敏嗣・山梨県富士山科学研究所長に話を聞き、5月22日朝刊「論点」で紹介した。私たちは、あらゆる被害の可能性に想像力を働かせて備える必要がある。取材を通じて改めてそう感じている。
生活に不可欠な電気の確保重要
中でもとりわけ備えが必要なのは、電気が途絶えないようにすることだと思う。現代はスマートフォンをはじめ電子機器が欠かせなくなった。より一層電気に頼った生活をしており、途絶すれば影響は計り知れない。そして、富士山噴火による火山灰は首都圏の広範囲で降ると予測され、電気への影響が心配されている。阿蘇山(熊本県)が16年10月に噴火した時には、変電所の「碍子(がいし)」という絶縁体に火山灰が降り積もったためショートして停電が起きている。
医療でも不可欠だ。電気が途絶した災害として、18年9月の北海道胆振東部地震が思い出される。午前3時過ぎの発生で、約20分後に道内全域が停電するブラックアウトが起きた。
地域の中核病院、JCHO北海道病院(札幌市)では、非常電源が動き始めるまでの間に、電子カルテのサーバーを保つ無停電電源装置が切れ、サーバーが一時ダウンした。夕方に電気が通じて被害にはつながらなかったが、患者の診療情報を普段のように確認・入力できなくなった。インターネットも使いづらく、院長は地震2カ月後の私の取材に「停電の影響が非常に大きかった」と振り返り、対策を始めたと話していた。
火山灰が降ると、病院などで停電に備えて置いている自家発電機が使えなくなる恐れもあるという。自家発電機は、外から空気を取り込んで燃料でエンジンを動かして電気をつくる仕組みだが、火山灰を吸い込むと故障する場合がある。他にも鉄道、自動車、飛行機などが火山灰の影響で使えなくなる可能性が高い。
富士山は、江戸時代・宝永年間の1707年から約300年間、噴火していない。当時は、今の東京である江戸に火山灰が降り積もったと記録が残るが、大きな被害はなかったとされる。当時は電気や交通機関はなく、それらの被害も起こりようがなかった。だが、現代はどうだろうか。藤井さんは「江戸時代とは比べものにならない被害が起こるだろう」と指摘する。
社会全体で備え まずは防災教育
一般の人が未知の災害への想像力を持つ上で、大事なのは防災教育だろう。
内閣府は、コンピューターグラフィックス(CG)やドラマを交えた約15分間の動画「富士山の大規模噴火と広域降灰への対策」を作製し、3月に公開した。降灰の量に応じてどんな被害が生じるのかや、食料備蓄の方法などを紹介している。動画は内閣府のサイトやユーチューブにあるので、一度見てもらいたい。
また山梨県では、富士山の登山者を駐車場から登山口へ運ぶバスの中で、火山の教育ビデオを見てもらう計画が進んでいるという。たくさんの登山者に少し時間を割いてもらい、火山災害の知識を身につけてもらう狙いがある。
各地の学校の防災訓練や授業でも、火山について触れる機会を作ってもらいたい。さまざまな所で啓発をして、その一部でも人々の記憶にとどまれば、災害への備えが社会全体で前へ進むのではないかと思う。
最後に、心構えとして一つ紹介したい言葉がある。
この春まで私は毎日小学生新聞のデスクで、読者の質問に記事で回答するコーナーの担当だった。そこへ小学2年生から届いたハガキの質問が目に留まった。「ふじさんは、むかしはふんかしたけど、いまはなぜふんかしないのですか?」。小山真人・静岡大名誉教授への記者の取材を基にした回答の記事につけた見出しが、紹介したい言葉だ。
「300年間は『一瞬』 常に噴火の恐れあり」。もちろん私も心に留めておきたい。
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