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毎日新聞2026/8/6 東京朝刊有料記事2445文字
<スコープ>
時は19世紀後半の米国。大手銀行や鉄道会社の相次ぐ破綻で大不況に陥り、苦しむ民衆を救おうと2人の「反逆のポピュリスト」が立ち上がった。
一人は南部ジョージア州出身の弁護士トーマス・ワトソン。産業化のあおりを受ける農民の運動に携わり、後に政治家に転身して中央政界に躍り出るが、挫折する。
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南北戦争後に黒人に与えられた投票権がカネで売買される現実に幻滅した。ポピュリスト政党の人民党に参加した後、「白人至上主義の代表」に変節する。
「白人が米国を今の姿にした」という主張は右派ポピュリズムの原形となり、消滅した白人結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」の復活につながる。
もう一人は中西部インディアナ州出身の労働組合指導者ユージン・デブス。社会主義運動に身を投じ、左派政党・社会党を結党して「労働者階級の解放」を訴えた。
後に第一次世界大戦参戦に強く反対し、弾圧される。それでも「全人類の同胞愛」を唱えた平和主義の思想に共感の輪が広がり、超党派の尊敬に浴した。
一方で白人至上主義が台頭し、他方で社会主義の裾野が広がった右左両翼のポピュリズム。根底には格差拡大やそれを生み出した政治への煮えたぎる怒りがあった。
やがて2大政党のはざまで衰退していった。1世紀余を経た建国250年の今。インフレが暮らしを直撃し、出口の見えない戦争が続く。政治不信が高まり、再び同じ構図の旋風が米国を席巻する。
独立記念日の7月4日。白人国家樹立を目指す極右団体「パトリオットフロント」の集団が「アメリカを取り戻せ」と叫びながらワシントン市内を行進した。
白い覆面をかぶり、奴隷制擁護の象徴とされる南北戦争時の南軍旗を掲げた。差別助長を懸念する声もあったが、トランプ政権は「表現の自由だ」と擁護した。
トランプ・バンス共和党を支える「米国を再び偉大に(MAGA)」運動の主張は、専制国家のそれに近い。民主主義を排し、反移民や白人至上主義に迎合する。
その翌日。民主党系の急進左派の政治団体「米国民主社会主義者(DSA)」が交流サイト(SNS)に「会員が12万人を突破し、過去最多となった」と投稿した。
中心は熱狂的な若者たち。民主社会主義者を名乗るサンダース上院議員(民主党系無所属)を支援し、所属するマムダニ・ニューヨーク市長の当選で脚光を浴びた。
資本主義を解体して基幹産業を国有化し、新憲法の下で社会主義国家建国を目指す。異色の存在だが、サンダース氏は「現状維持の政治は終わった」と後押しする。
かつてのポピュリズムと異なり、2大政党の内部から巻き起こったうねりだ。11月の中間選挙まで3カ月と迫る中、その極論にもかかわらず、勢いは増している。
共和党内でMAGA派は6割超を占める。トランプ氏の支援を受けた候補者はほぼ全員が予備選を勝ち抜いている。
影響力を誇示するトランプ氏に上下両院の共和党議員は追従するしかないのが現状だ。刃向かってその座を奪われた議員は枚挙にいとまがない。
民主党内では社会主義を志向する人が7割に迫る。冷戦時代のイデオロギー対立は遠い昔だ。DSAの擁立候補はニューヨーク州などの予備選で有力な現職候補を次々に破る躍進を見せる。
連邦議会でも、サンダース氏が創設した「プログレッシブ(進歩派)議員連盟」は、中道の主流派「ニューデモクラット連合」と肩を並べる100人規模を擁する。
「共和党も民主党もポピュリズムに占拠されてしまう」との観測も飛び交う。その反動だろうか。無党派層が増加している。
米調査会社ギャラップによると、無党派層は過去最高の45%に達する。共和党、民主党の支持層はそれぞれ27%で、既存政党離れが際立つ。
米NPO「インディペンデントセンター」のルーラ・フォーカム代表は「現在の政治が国民のためになっていないという明確なメッセージだ」と指摘する。
無党派の投票動向は読みにくいが、「政治に無関心なのではなく、党派対立から距離を置き、問題解決できる指導者を選ぼうとしている」と分析する。
両極の増大は、裏返せば過激な主張に付いていけない主流派を党内から追い出している、という見方もできる。右と左に加え主流と非主流が対決する複雑な構図の異例な中間選挙。先は見通せない。
■ナビゲーター
資本主義と決別できるのか
東西冷戦を知る筆者からすれば、自由主義と資本主義こそ米国の価値観だと思い込んでしまう。それだけに米民主党内で資本主義より社会主義の方が人気があると聞くと、えっ、と驚く。だが、今の米国である。異常な格差拡大を資本主義の失敗とみなすことは不思議ではない。冷戦を知らない若い世代には社会主義・共産主義への抵抗もないのだろう。
米国で社会主義政党・社会党を結党したユージン・デブスは産業資本家と闘う一方、反戦を訴えたため、ウィルソン政権の弾圧を受け、収監された。「暗黒のアメリカ」(アダム・ホックシールド著、秋元由紀訳、みすず書房)はデブスの不屈の闘争に触れている。影響力を恐れて終戦後も恩赦を与えなかったウィルソン大統領に「恩赦が必要なのは私ではなく彼のほうだ」と反骨を見せ、自由の身になった際に「私は世界の市民だ」と人類愛の精神をのぞかせたという。
現在の米国とは対照的に左派勢力の存在感が薄い日本にあって「左派ポピュリズム」を奨励するのが経済思想家の斎藤幸平・東京大准教授だ。ベストセラー「人新世の『資本論』」の続編「人新世の『黙示録』」(集英社)で「暗黒社会主義」の未来を描いた。自由な「成長経済」ではなく、計画的な「生存経済」を目指し、「気候崩壊とテクノ資本主義が引き起こしている危機的事態に適応する」と記す。慣れ親しんだ資本主義システムと決別しない限り、人類に待ち受けるのは「終末ファシズム」だという。あまりに壮大だが、米国では「民主的な社会主義」が現に勃興する。日本に上陸する日は遠くないのかもしれない。