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毎日新聞2026/8/7 東京朝刊有料記事1911文字
新シェルターに覆われたコンクリート製の「石棺」。周囲の放射線量はいまだに高い=ウクライナ北部のチョルノービリ原発で2026年3月13日、岡大介撮影
旧ソ連時代の1986年4月にウクライナ北部チョルノービリ(チェルノブイリ)原発で起きた事故から40年となる直前の今年3月、現地へ足を運んだ。痛感したのは、事故の影響が今なお深刻であることに加え、ロシアによる全面侵攻がさらなる原子力災害をもたらしかねない危険性だった。活用の機運が高まる原発だが、その前提として存在する「戦争リスク」について議論を尽くすべきだ。
取材中に反すうしていた、過去のやり取りがある。ウクライナに全面侵攻したロシア軍が、チョルノービリ原発と欧州最大規模の南部ザポリージャ原発を立て続けに占領した2022年3月ごろ、日本の経済産業省幹部と議論になった。
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私が「原発はテロだけでなく『戦争』にも備えなければならなくなったのでは」と問うと、官僚は色をなして反論した。「そもそも原発を攻撃すること自体が許されない。ロシア軍は病院も狙っているが、では狙われるリスクがあるから病院も運営すべきではない、ということなのか?」
これは極論だとしても、実際にどれほど戦争リスクがあるのか、現場で答えを見つけたいと思っていた。
原発内では、事故直後にコンクリートブロックを積み上げて作った「石棺」に対面した。今も中には約200トンもの核燃料を含む溶融物が眠るとされる。周辺の放射線量はいまだに高く、滞在は10分に限られた。
この石棺は老朽化により、崩落して外部に放射性物質が排出される可能性がある。そこで16年から巨大な金属製の新シェルターで石棺ごと覆い、その下で解体プロセスを始める算段だった。
無人機攻撃受け、石棺解体できず
しかし、25年2月にロシア軍のものとみられる無人機(ドローン)が新シェルターに衝突し、内部に放射性物質をとどめる機能が損なわれた。作業中に放射性物質が飛散する石棺の解体はできなくなった。かといって手をこまねいているうちに石棺が崩落すれば、放射性物質は外部に漏れかねない状況に陥っている。
ロシアの同盟国ベラルーシとの国境近くにある原発の上空はミサイルやドローンが首都キーウを目指し頻繁に飛ぶ。偶発事故も含めて原発に衝突する懸念は消えない。
ロシア軍は、ウクライナの送電網を度々攻撃しているが、実はこれも原発を危険にさらす行為だ。原発は内部の核燃料を外部からの電力を使い冷却する必要があるが、送電線が機能しなくなれば、非常用のディーゼル発電に頼らざるを得ない。
ウクライナではザポリージャの他に南部と西部の3カ所で計9基の原発が稼働する。環境NGO「グリーンピース・ウクライナ」の専門家ショーン・バーニー氏は「稼働している場合は核燃料が高温のため炉心溶融が起こりやすい」と警告する。送電網は攻撃の度に電力業界の努力で復旧を繰り返してきたが、複数の変電所など、潜在的な「弱点」を抱えているという。
経産官僚の反論は、一部は正しいと思う。まず批判されるべきは、原発を攻撃・占領するという、自らをも危険にさらす行動をやめないロシアであるのは確かだ。続く国が出てこないよう国際社会は決然と対処する必要がある。
一方で、現実の脅威を踏まえれば、原発が今後も軍事目標となる事態を想定した防衛策や外部電源喪失時の対応強化、そもそも原発に依存しないエネルギー政策のあり方について考えるべきだ。
チョルノービリ原発の半径30キロ圏内は今も立ち入りが制限される。住民5万人が去った町を歩くと、風に吹かれた葉の音が異様にはっきりと響いた。
私と同じ40代の原発所長は「我々が生きている間に事故処理の終わりを見ることはない」と言う。収束に果てしない時間がかかる原発事故が、戦争により再び起これば悪夢としか言いようがない。
特有の危険性 議論を尽くせ
破壊されれば放射性物質が拡散する原発は病院と同列に語れない。戦禍のウクライナで目の当たりにした原子力特有の危険性は、議論した経産官僚の想定をはるかに超えていると、今なら言い切れる。
気になるのは高市政権下で原発推進に傾く日本の状況だ。日本は海岸沿いに原発を建設する。川沿いに建設する欧州よりも攻撃を受けやすいかもしれない。
日本で原発の戦争リスクを語ることは唐突だろうか。しかし、事故から20年後の06年、本紙で掲載された連載企画で当時の経産官僚はこう豪語していた。「日本の原発にチェルノブイリ原発事故から学ぶ教訓はほとんどない」。その5年後、福島でチョルノービリと並ぶ史上最悪レベルの原発事故が起きた。
原子力事業ではあらゆる危険を想定する必要がある。我々は高い代償を払い、そう学んだはずだ。