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毎日新聞2026/8/9 東京朝刊有料記事1718文字
=小林努撮影
「この度の熊本地震により、ご不便やご苦労を強いられていることに、深くお見舞い申し上げます。何よりも安全と健康が最優先と存じます。くれぐれもご無理なさらず、ご自愛ください。一日も早く平穏な暮らしに戻りますよう、お祈りしております」
このように丁寧な文面のメールを、この1週間、多く受け取り続けている。当欄では書いていなかったが、筆者は今年1月から、熊本市に在住しているからだ。3年半前に熊本の市街地外れに買っていた土地に、昨年自宅を建て、家賃が高騰する一方の東京都渋谷区から引っ越した。
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それはともかく筆者からも、被災された皆さま、そしてこの猛暑の下で救援作業や復旧作業に身を砕いておられるすべての皆さまに、冒頭の文面の通りの思いを申し上げたい。
他方で、筆者にメールをくださった方には、このように返信する。「いえいえ、熊本市内の大部分では、窓が割れた建物なども見当たらず、電気も上下水道も都市ガスも止まっていません。地震の翌日からは、市内の小売店や飲食店も多くが営業しています」と。
阿蘇から熊本市直下にかけての断層は、10年前の熊本地震の際に動いており、今回震源となった日奈久(ひなぐ)断層は、その南南西の続きだ。「熊本城の天守閣は大丈夫でしたか」という問い合わせもいただいたが、今回損傷は限定的である。
だが今回の震源の直上の、熊本市と熊本県八代市の間に広がる平野部では、厳しい被害が生じ、40人近くの方が命を落とされた。
とはいえ、同じ震度7を観測した10年前の地震と比べれば、今回の被害家屋の数はまだ全容が把握されていないにせよ、全壊・半壊・一部損壊のいずれも1割未満にとどまっている。被災地の人口密度の違いもあろう。だがそれとは別に、この10年間に熊本県民が、発生が想定され警告されていた次の地震に向けて、家屋の補強や家具の固定などを進めていたことも、大きかったのではないか。
いくら耐震化しても、直下の断層が動けば、無事には済まない。だから今回も、高速道路や新幹線軌道の損壊が起きた。亡くなった方、負傷した人にも、そのような状況だった人は多かろう。ただ、この間の対策が実って、10年前なら受けただろう被害を免れた人もさらに多かったはずだ。
筆者個人も、日奈久断層の危険は承知しており、10年前も被害のなかった地盤の固い場所を選び、棚などはすべて作り付けで建てたので、家の中では皿一枚落ちずに済んだ。全国の皆さまにも申し上げたい。「自分の場所は大丈夫だろう」などと甘く見ず、事前の対策を惜しまないことで、逆に地震を怖がらずともよくなると。
だが被災地周辺では、報じられないもう一つの被害が深刻化しつつある。風評を受けての、観光客の減少だ。地震の数日後、米国より多年の友人の一家が来訪したので、西の天草や東の阿蘇に連れて行ったのだが、どちらも道路の破損一つなく普通に行けたのに、観光施設はすいていた。
彼らを連れて泊まった温泉旅館の経営者は「いくら大丈夫と説明しても、キャンセルが相次いでいる」と嘆いた。「無事なので来てほしい」と発信したら「被災者の気持ちを考えないのか」と、匿名の中傷を受けたとも。何をか言わんやで、この旅館主こそ真の被災者だ。10年前の地震で施設が全壊し、2年間仮設住宅で暮らした後に、ようやく再建を果たしたのだから。そんな彼を、再び「被災者」にしてしまっていいのだろうか。
被災地のさらに南の熊本県球磨(くま)地方や水俣周辺、鹿児島県や宮崎県西南部でも、熊本との間の高速道路や新幹線が止まったことで、観光集客や1次産品の出荷に大きな支障が出ている。こちらにも何か応援が必要だ。
「ネットには、偽情報があふれていますが、本当のこともどこかにすべて書かれています。それに対してマスコミは、うそは言わないが、事実も一方向からしか報じない。冷静に全体像を示すことがないという点に、この10年間進歩がないことは、改めて残念です」
こう静かに語った旅館主の思いを、今度こそ受け止め、真剣に反省して改善しなくてはならないのではないか。次の大天災が、大都市地域を襲うその前に。=毎週日曜日に掲載