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毎日新聞2026/8/16 東京朝刊有料記事898文字
「受診支援人材育成セミナー」で開催趣旨を説明する松島如戒さん。90歳を前にしてもまだ新事業に取り組み続けている=滝野隆浩撮影
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
「新しいこと、始めます」。松島如戒さん(89)に誘われ1日、東京都内であった「受診支援人材育成セミナー」に出た。松島さんは1989年、東京・巣鴨に当時は聞いたこともなかった血縁に頼らない合葬墓を建て、93年にはいち早く、単身高齢者を終身サポートする団体「りすシステム」を創設した。時代のニーズを先取りし、そのための事業を実装する行動力の人である。今回の「新しいこと」にも、強い思いがあるにちがいない。
医者にかかる患者に付き添い、意思決定を支えるのが「受診支援」。患者の症状や思いを把握して適切な医療機関につなげ、医師に正確な情報を伝える。単身世帯が急増するいま、支援する側の大事な役割なのだ。
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九州の母が1人暮らしをしていた頃のことを思い出す。何度か受診に付き添ったが、主治医の話を一切聞いていなかった。「息子がおるなら、私は聞かんでよか」。では息子がいなかったらどうしたか。長く生きれば皆、理解力は落ちる。ましてや自らの病気の話である。聞きたくないことは、聞こえない。
「りす」スタッフ向けのセミナーは、松島さんの要請で「寺下医学事務所」(寺下謙三代表)が主催。長年、患者と医療者をつなぐ「橋渡し」に取り組んできた寺下代表が、東京大医学部卒の人脈を通じて講師を集めた。全18講座で、患者の情報をいかに医師側に伝えるかを学ぶ。「皮膚病」「認知症」や「排せつケア」「薬局の活用法」などの基礎講座もある。
講演スライドを集めたA4判270ページの「公式テキスト」がいい。誰もがいつか病気と向き合うときがくる。そのとき、医者の使う言葉の真意や副作用が想定される場合のリスクの取り方、大手術の前に主治医はどうして「大丈夫」と言わないのか、など。患者側が知るべきことが丁寧に書かれている。
支える者には医療の知識が不可欠だ。単身高齢者支援の現場に三十余年いて、松島さんはそう痛感したのだ。「高齢者のいちばんの関心事は医療だけど、もう家族には頼れないからね。残りの人生をかけますよ」。母と同年齢の松島さん。目指すは「受診支援士」を国家資格にすることだ。(客員編集委員)