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毎日新聞2026/8/24 東京朝刊有料記事616文字
赤狩りの密告者の復権に抗議し、ロサンゼルスの映画芸術科学アカデミーで記者会見する元脚本家ら=1999年、吉田弘之撮影
「るつぼ」とは物質を高温で溶かす時に使う容器のことである。現代米国演劇を代表する劇作家、アーサー・ミラーの「るつぼ(The Crucible)」は、正義の暴走や集団の狂気をえぐる傑作だ。17世紀末、米建国前のセーラムという村で実際に起きた魔女狩りに材を取った▲初演は1953年。当時のハリウッドには下院非米活動委員会による「赤狩り」、すなわち共産主義者排斥の嵐が吹き荒れていた。脚本家や映画監督らが次々と思想弾圧のやり玉に挙げられた▲ミラー自身も56年に委員会に召喚された。証言を拒否したため議会侮辱罪で1審は有罪になったが、2審で無罪を勝ち取った。だが、有罪とされた映画人は投獄され、業界から追放された。一方で自己保身のため仲間を売った者もいた▲戯曲は「20世紀の魔女狩り」を痛烈に糾弾した。「私は世界を変えようとしない演劇になど、とてもつき合う気になれない」。自伝に書かれた信念は、いかにも社会派作家らしい▲そんなハリウッドの赤狩りがテーマの舞台が、東京・パルコ劇場で上演中だ。作者は喜劇の名手として知られる三谷幸喜さんである。パンフレットにはこうつづる。「あの時代のアメリカだけの話じゃないんです」▲思えば戦時体制下の日本では、映画や演劇も自由な表現活動が許されなかった。現憲法下ではどうか。個人の良心や思想がじわじわと制約されていってはいまいか。お芝居というフィクションのフィルターを通すことで鮮明に見えてくるものがある。