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毎日新聞2026/9/1 東京朝刊有料記事629文字
土石流で泥に覆われた街=ネパール・ヌワコット郡トリシュリで8月27日、ドローンから撮影・ロイター
中国チベット自治区・カイラス山での巡礼中に起きた土石流で足止めされた後、カトマンズから帰国したインド人グループ=インド・ムンバイの国際空港で8月29日、ロイター
「須弥山(しゅみせん)汁」は豆腐と青菜を細かく切ったみそ汁だ。須弥山は仏教の教えで世界の中心にある天文学的高さの霊峰で金銀や宝石から成る。仏僧たちが栄養たっぷりの汁にありがたい名をつけたらしい▲仏典によれば、仏神が住む霊峰の周囲に「九山八海」が広がり四つの大陸がある。南側の大陸が人間界だ。北にヒマラヤ山脈を仰ぎ見た古代インドの宇宙観を反映している。名もサンスクリット語の音訳だ▲チベット仏教では中国チベット自治区西部のカンリンポチェ(カイラス山・標高6656メートル)を現世の須弥山とあがめる。ヒンズー教でも最高神のシバ神が住むと信じられてきた。古くからの聖地、霊場である▲ネパールと中国の国境地帯で起きた未曽有の土石流。数千人規模の死者・行方不明者には多くの巡礼者が含まれているという。インドでは中国との国境争いで5年間停止されていた巡礼を昨年復活させたばかりだ▲「天然の曼陀羅(まんだら)」。明治時代にネパールからチベットに潜入した河口慧海(えかい)は霊場一帯をこう表現した。登山は許可されず未踏峰だが巡礼路が整備され、欧米からの観光客も多いらしい▲温暖化の影響でヒマラヤでは氷河の溶解が一因となった災害が相次ぐ。今回の土石流も巨大な氷河の崩壊が原因らしい。一瞬で国境検問所を吹き飛ばす映像は人知を超えた天変地異を思わせる。日本人家族も行方不明だ。須弥山に由来する言葉を使えば「三千世界」を危機にさらす温暖化を「金輪際」進ませてはならないと痛感する。