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毎日新聞2026/9/1 東京朝刊1691文字
熊本地震で、熊本県八代市内の体育館に集められた支援物資。被災者の元にいかに迅速に届けるかが、大災害のたびに課題になっている=2026年8月7日午前11時24分、和田大典撮影
多くの人命を奪う災害が相次ぎ、巨大地震などの脅威も迫る。一方で、少子高齢化により社会の支え手は減っていく。きょうは防災の日。転換期にある災害対応のあり方を考えたい。
7月の熊本地震で改めて浮かんだのは、「ラストワンマイル」と呼ばれる支援物資輸送の課題だ。
発生直後から、被災自治体には国や企業から食料や衛生用品が大量に届いた。だが、避難所に運ぶ最後の工程が滞った。
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震度7を記録した熊本県宇城市は、市役所の隣の屋内施設が集積拠点だった。当初、十数人の市職員が仕分けに当たったが、手が足りなくなった。トラック不足などで搬出も進まず、満杯になった施設は発生5日後から計8日間、受け入れ中止を余儀なくされた。
当時はまだ3000人前後が避難所に身を寄せていた。簡易ベッドが届かず、雑魚寝が続いて体調を崩した被災者もいた。
市町村任せはもう限界
防災庁設置準備室の看板を掛ける石破茂首相(左)と赤沢亮正経済再生担当相(いずれも当時)=東京都千代田区で2024年11月1日午後2時52分、宮武祐希撮影
こうした問題はなぜ繰り返されるのか。菅野拓・大阪公立大准教授(人文地理学)は「行政が得意なのはハード整備だ。その意識のまま、土建国家的な災害対応が基本となってしまっていることが、背景にある」と指摘する。
自治体は、インフラ整備をはじめとする公共事業や、生活・産業などを支える制度作りと運用には通じている。だが、大災害が起きれば、物資の調達、避難所の開設、建物の危険度判定など、慣れない業務が急激に増える。多くをノウハウの蓄積が乏しい市町村が担わなければならない。
多数の職員が被災したり、庁舎が損壊したりする場合もある。混乱の中、結果的に被災者支援が不十分となり、災害関連死を食い止められない。
自然災害の脅威は増している。災害救助法が適用された災害はこの15年で100件を超え、その前の15年間からほぼ倍増した。南海トラフ地震、首都直下地震、富士山噴火といった国難級の災禍のリスクも指摘される。
その一方、阪神大震災以降の約30年で、人口減や合併により市町村の職員数は1割以上減った。高度成長期以降に整備された水道や道路などのインフラは老朽化が進み、災害への耐性が弱まっている。市町村任せの対応では、もはや立ち行かないのは明らかだ。
国の司令塔となる防災庁が、11月に発足する。内閣府の防災部門を格上げし、各省庁に分かれていた対策の窓口を一本化する。自治体の広域連携も進め、被災市町村の負担軽減を図るとしている。とはいえ、それで現場のマンパワー不足が解消されるわけではない。
欠かせないのは、民間の力のさらなる活用だ。
物資の仕分けや搬送なら運送会社、建物調査なら損保会社、避難所運営なら経験豊富なNPOなどに業務を任せ、自治体は全体の管理に当たる。そうした仕組みを広げたい。実現には平時からの官民の連携が重要になる。
平時からの連携が重要
佐賀県で実施された「イタリア型避難所運営」の実証実験。少人数用のシェルターやシャワー、キッチンカーなどを配備した=同県伊万里市で2025年10月29日午後1時11分、石川貴教撮影
愛媛県宇和島市は昨年、市内の約20団体が参加する子ども食堂連絡協議会と、災害時に避難所などで食事を提供してもらう協定を結んだ。調理器具やガスボンベは市が備蓄しており、普段から貸与する。子ども食堂の運営を助けるだけでなく、日常の活動が炊き出し訓練になる利点もあるという。
子ども食堂は全国に1万2000カ所以上ある。それぞれが持つきめ細かい食材の調達ルートは、災害時にも役立つだろう。
こうした地域の貴重な資源を掘り起こすことが肝要だ。防災庁に求められるのは、モデルとなる事例を紹介し、自治体などに連携を促す役割である。
民間の活動を広げるには、資金面の援助も欠かせない。
災害対応の先進国として知られるイタリアでは、ボランティア団体の役割が法律で明記され、活動に公費から報酬が出る。従業員を派遣した企業への補償制度も設け、支援に加わりやすくしている。
日本でも大災害時には企業や個人から多額の義援金が集まり、被災者に生活再建の資金として分配されている。ボランティアの被災地支援にも対価が支払われるよう、寄付などを原資にした基金の創設を求める声もある。
「数十年に1度」の危険を示す特別警報が、千葉や北陸で立て続けに発表された。災害への備えは待ったなしだ。命を守る体制の再構築を急がねばならない。