|
|
毎日新聞2026/10/30 東京夕刊有料記事909文字
福田康夫元首相=竹内紀臣撮影
福田康夫元首相が90歳で亡くなった。私は政治記者としては、福田氏と縁が薄かった。官房長官時代は特派員として米国に駐在し、首相在任時は地方支局で勤務していた。しかし、首相退任後は時折、東京都内の事務所で話を聞く機会があった。
日米・日中関係、アジア外交に始まり、日本の民主主義、マスメディアの役割が主な話題だった。力ではなく、話し合いに基づく問題解決を追求する姿勢は一貫していたと思う。マスメディアよ、しっかりしろ、萎縮するな、責任を果たしていないではないか、とお叱りを受けることも多かった。
Advertisement
それでも、偉そうなそぶりを見せることは一切なく、むしろ厳しいことや正しいことを言う時ほど淡々と控えめに話すような感じすらあった。自然とこちらの背筋も伸び、真摯(しんし)に話に耳を傾けざるを得なくなる。そんな政治家だったと思う。
一連の行事を終え、首相官邸を後にする中国の胡錦濤国家主席(右)と言葉を交わしながら見送る福田康夫首相=2008年5月7日、藤井太郎撮影
福田氏の功績はさまざまあるが、外交では首相退任後も含めて日中関係の安定に尽くしたことを挙げたい。安倍晋三政権下の2014年、尖閣諸島や歴史認識を巡り悪化した両国関係の改善が図られた時、福田氏の水面下の交渉が大きな役割を果たしたことは、安倍氏側近も認めるところだ。
昨年11月の高市早苗首相による台湾有事発言をきっかけに、今また日中関係の悪化が深刻度を増している。11月には中国・深圳でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が控えている。
岩屋毅前外相の訪中など議員外交がようやく動き出す中、あまり大きく報道されなかったが、高市首相が今国会の所信表明演説で、中国側に何らかのメッセージを送るかどうかが注目された。
福田康夫元首相が死去したことを受け、報道陣の取材に応じる高市早苗首相=首相官邸で2026年10月26日、平田明浩撮影
しかし、結果は関係者を失望させた。「戦略的互恵関係の推進」を目指すという基本路線は維持しながらも、今年2月の施政方針演説に続き、具体的な中国批判が盛り込まれた。「東シナ海・南シナ海問題、日本周辺での軍事活動、威圧的措置、邦人の安全、人権上の懸念」が列挙された。
中国の行動が懸念事項であることは間違いない。だが、国際情勢を俯瞰(ふかん)し、どのタイミングでどうしたメッセージを発信すべきか、日本は戦略的外交ができているだろうか。2年目に入った高市外交が問われる。(専門編集委員)