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コーヒーショップで読書や作業を行うことが増えた。気持ちが落ち着き、集中力や作業効率が高まるからだ。
周囲の会話や物音が「ちょうどよい雑音」として作用し、人の目がある環境では、かえって集中力が高まることがある。さらに、コーヒーの香りやカフェインは意識水準を覚醒させる。こうした刺激が重なり合うことで、快適で生産的な作業空間が形づくられているのだろう。
コーヒーには、これ以外にもさまざまな生理作用がある。近年、健康に対する好影響が報告されているのでご紹介したい。
心房細動は脳梗塞のリスクを高める
今回、取り上げるのは、2025年11月9日に「米国医師会誌(JAMA)」に掲載された「DECAF試験」だ(※)。
これは、コーヒーの摂取が、不整脈の一つである心房細動にどのような影響を与えるか検証した国際共同臨床試験である。
従来、コーヒーは不整脈を引き起こすとみなされ、医師は患者に対して摂取を控えるよう助言してきた。私も外来診療で「コーヒーは飲みすぎないようにしてください」と言ってきた。しかし、このような助言は通説に基づくもので、明確な根拠があるわけではなかった。
この通説の妥当性を科学的に検証すべく、米国、カナダ、オーストラリアの五つの病院で、平均年齢69歳の持続性の心房細動の患者200人を対象に調査が行われた。
人は、心臓の洞結節という部位が発する電気信号が心房や心室に正しく伝わり、正常なリズムで拍動している。これを洞調律と呼ぶ。この洞調律のリズムが失われ、心房がこまかく震える状態の不整脈が心房細動だ。脈が不規則になり、脳梗塞(こうそく)のリスクが高まる危険な状態といえる。
コーヒー飲むと心房細動の再発低下
調査の対象は、心房細動のあるコーヒー常飲者。除細動術により洞調律が回復した後、対象者を、カフェインを含むコーヒーを1日1杯以上摂取し続ける群と、コーヒーとカフェイン摂取を完全に中止する群とに無作為に振り分け、6カ月間追跡した。主要評価項目は、心房細動、あるいは同じく心房性不整脈である心房粗動の再発率である。
=ゲッティ
この研究では、心房細動または心房粗動の再発率はコーヒー摂取群で47%、中止群で64%であった。コーヒー摂取群は中止群と比較して、再発リスクが39%も低かった。この差は統計的に有意である。一方、心筋梗塞や死亡などの有害事象の発生率については両群の間に有意な差は生じなかった。
この研究では、コーヒーの継続が心房性不整脈の再発を予防したことが示された。コーヒーを継続することがよかったのか、コーヒーを中止したことが悪かったのかは、この研究からは結論はできないが、コーヒー愛好家は心房細動の除細動後にコーヒーを飲み続けたほうが良さそうだ。無理に止める必要はない。
これはコーヒーの不整脈予防効果を、最もエビデンスレベルが高いランダム化試験で示したものだ。その結果は信頼できる。だからこそ、権威ある「JAMA」が掲載した。コーヒーが健康に好影響を与えることは、どうやら確からしい。
1日4~5杯で死亡リスクが1割以上も低下
実は、コーヒーの健康への好影響が指摘されたのは、これがはじめてではない。世界各地から同様の研究成果が報告されている。2012年には、世界最高峰の臨床医学誌である「ニューイングランド医学誌」に米国国立衛生研究所(NIH)の研究チームによる臨床研究の結果が掲載された(※2)。
この研究は、50〜71歳の男女約40万人を約14年間追跡した前向きコホート研究だが、コーヒー摂取は全死亡リスクの低下と有意に関連していた。1日4〜5杯飲む群は、非摂取群と比較して死亡リスクが男性で12%、女性で16%低かったという。この関連は心血管疾患、呼吸器疾患、脳卒中、糖尿病、感染症による死亡で一貫して認められていた。
心血管疾患や2型糖尿病、脳卒中にも好影響
特記すべきは、コーヒー摂取は、カフェインの有無を問わず同様の有益性が示されていることだ。コーヒーに含まれる多様な化合物が寄与している可能性があると議論された。
=ゲッティ
コーヒーが健康にいいことは、すでに医学的には一定のコンセンサスとなっている。2025年8月、「Nutrients」誌に発表された総説(※3)では、1日3〜5杯程度の適度なコーヒー摂取は、害よりも益が明らかに上回ると結論している。この摂取量は全死亡リスクの低下に加え、心血管疾患、2型糖尿病、脳卒中、呼吸器疾患、認知機能低下、さらには肝がんや子宮体がんなど特定のがんのリスク低下と一貫して関連していたという。
かつて懸念されていたがん、高血圧、不整脈のリスク増加については、近年の大規模疫学研究によって否定されている。
一方、妊娠中はカフェイン摂取量を1日200mg未満(1日2杯以内)に抑えること、砂糖やクリームの過剰な添加を避けることが推奨されているが、このあたりはまだ研究が進んでいない。
含有成分に抗不整脈作用の可能性
では、なぜ、コーヒーは健康にいいのだろうか。どの成分が貢献しているのだろうか。それは、カフェインと、クロロゲン酸を代表とするポリフェノールである。
カフェインの役割は、アデノシンの働きを抑制することだ。アデノシンは神経活動を抑制し、眠気や疲労感を誘発する物質である。カフェインは、脳内のアデノシン受容体を競合的に遮断することで、覚醒水準を高め、注意力や作業効率を向上させる。
さらに近年、カフェインは心血管系において抗不整脈作用を示す可能性が報告されている。前出の「JAMA」掲載研究において研究チームが心房細動への影響に着目した背景には、カフェインがこうした生理作用を持っているとの知見があったためである。
抗酸化・抗炎症作用を持つ成分も
一方、ポリフェノールは強力な抗酸化・抗炎症作用を持っている。植物がポリフェノールを多く含むのは、進化の過程で獲得された自己防衛の結果である。植物は外敵から逃げることができない。このような外敵としては、紫外線、酸化ストレス、病原体、昆虫や草食動物などさまざまなものが含まれる。植物が生き残るには、外敵が嫌がる物質、あるいは外敵から我が身を守る物質を自ら作り出すしかない。それがポリフェノールである。
ポリフェノールが果皮、種子、葉、樹皮に多く、果肉や地下部に少ないのは、前者が外界に直接さらされ、後者は動物に食べられることが期待されているからである。
高日照や高地など過酷な環境で育つ植物ほどストレスは強いため、合成能が発達する。お茶、カカオ、コーヒー、ブドウなどが代表例である。茶、チョコ、コーヒー、赤ワイン(白ワインはブドウの皮を含まず、ポリフェノールは少ない)などの嗜好(しこう)品が大量のポリフェノールを含み、アンチエイジングなどの観点から注目を集めているのは医学的に合理的である。
「苦み」は有益な刺激!
このような嗜好品の問題は、摂取すると苦みや渋みを感じさせることである。現に、タンニンや一部フラボノイドは舌の苦み受容体や唾液たんぱくと結合し、収れん味や不快感を生じさせる。進化論的には、この苦みは、草食動物に有害性の可能性を警告し、捕食を防ぐ役割を果たしてきた。
しかし、人間は成長とともに、この苦みを受容し、やがて好むようになるから面白い。経験を重ねることで「苦み=危険」という単純な連想は弱まり、苦みの背後にある健康効果や文化的価値を学習するようになる。加齢に伴う味覚感度の変化や、抗酸化・抗炎症作用への生理的欲求の高まりも、この嗜好変化を後押しするようだ。結果として人は、植物の防御信号であった苦みを有益な刺激として再解釈し、生活に取り込んできた。今や、コーヒー、ワイン、お茶、チョコは大人の嗜好品として、人類の文化の一翼を担っている。
以上、コーヒーの健康への影響について、現時点でわかっていることだ。コーヒーは現代の「健康食品」として再認識されつつある。ぜひ、適量をお楽しみいただきたい。
(*)Caffeinated Coffee Consumption or Abstinence to Reduce Atrial Fibrillation The DECAF Randomized Clinical Trial/JAMA. 2025 Nov 9:e2521056
(*2)Association of coffee drinking with total and cause-specific mortality/N Engl J Med. 2012 May 17;366(20):1891-904
(*3)Coffee’s Impact on Health and Well-Being/Nutrients 2025, 17(15), 2558
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上昌広
医療ガバナンス研究所理事長
かみ・まさひろ 1993年東京大医学部卒。99年同大大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンター、同大医科学研究所をへて、2016年より現職。医療ガバナンス研究に従事。現場からの医療改革推進協議会事務局長。