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アトピー性皮膚炎は、特に冬季に悪化しやすい傾向があります。冬季は皮膚の乾燥が進みやすく、皮膚の一番表面にある皮脂膜という保護膜が失われやすくなります。これによって、皮膚は傷つきやすくなり[1]、その保護機能が低下してアトピー性皮膚炎が悪化しやすくなるのです。
皮膚の保護機能が低下すると、皮膚に炎症が生じ、炎症が皮膚の悪化を加速させます。炎症を引き起こしている皮膚にある細胞からは、アレルギーを悪化させる信号物質が増加することがわかっています[2]。これらの信号物質は、「サイトカイン」と呼ばれています。サイトカインが増えると皮膚の保護機能はさらに低下し、かゆみが増し、皮膚をかくことで保護機能がさらに低下していくのです。
悪循環を断ち切る方法は?
最近、アトピー性皮膚炎を特に悪化させる種類のサイトカインがさまざまに特定されています[3]。すなわち、アトピー性皮膚炎が発症したり悪化したりするメカニズムについては、随分明らかになっているということです。もちろん、解決しなければならない問題点もありますが、アトピー性皮膚炎は「よくわからない病気」ではなくなってきているのです。
アトピー性皮膚炎が悪化してくると、皮膚の保護機能が低下し、アレルギー反応を悪化させるサイトカインが増え、さらに皮膚の保護機能が下がるという悪化のサイクルが加速していきます。例えるなら、時速100キロで走るダンプカーのアクセルを、さらに踏み続けるような状況でしょう。そしてダンプカーのアクセルを踏まなくても走り出していくような、アレルギー体質を獲得していくのです。
つまり、その悪循環を断ち切る必要があります。どのような方法があるでしょうか。
副作用の少ない薬は?
もし皮膚の保護機能の低下が問題であれば、皮脂膜を補強する保湿剤をしっかり塗るという対策で良いでしょう。走り出しやすいダンプカーが止まっているならば、ブレーキを軽く踏んで走り出さないようにすれば良いのでしょう。
しかし、すでに走り出してスピードが上がった車のような炎症は、保湿剤だけでは速度を抑えこむことは難しいでしょう。炎症を悪化させる信号物質を的確に抑え込む必要性がありますよね。ブレーキで抑える場所は、的確に車輪である必要性があるのです。
これまで、アトピー性皮膚炎の治療にはステロイド外用薬がもっとも使用されていました。ステロイド外用薬は現在も、炎症をしっかり抑える第一線の薬であることには変わりありません。しかし、ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎に関係するサイトカインだけでなく他の多くの働きも抑えてしまうため、副作用のリスクがあります。例えば、長期間同じ場所に塗り続けると、皮膚が薄くなるなどの副作用が生じる可能性があるのです。
治療の新しい選択肢
アトピー性皮膚炎の炎症を悪化させる特定のサイトカインが分かってきて、効果的にサイトカインを抑える新しい薬がさまざま出てきています。これには塗り薬、飲み薬、注射薬などがあります。
ただ、飲み薬や注射薬は、とても強力な薬です。100キロ以上まで上がってしまったダンプカーの速度を強力に、効果的に落とすような力強さを持っています。しかし、いつもそんな強力なパワーが必要なわけではありません。走り始めたばかりの自転車の速度を落とすのに、ダンプカーのブレーキはいらないのです。
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すなわち、症状がひどくない場合は、そこまで過剰な治療は必要ありません。そのような場合には、塗り薬が適しています。
子どもの新しい選択肢と専門医への相談
そして2021年以降、子どもにも使える新しいメカニズムの外用薬が増えてきました。当初は2歳以上でしか使用できなかった新しい外用薬は、最近、さらに低年齢から使用できるようになりました。例えば23年からは、デルゴシチニブ軟膏(なんこう)が生後6カ月から、ジファミラスト軟膏が生後3カ月から使用できます[4][5]。これらの新しい外用薬によって、子どものアトピー性皮膚炎の治療は、より選択肢が増えてきているのです。
これらの新しい外用薬を併用することで、皮膚の副作用を減らしながら、より効果的な治療が可能になりました。これらの新しい外用薬でも悪化が抑えられない場合に、強力な注射薬や内服薬を考慮することになるのです。
生後6カ月から使用できるようになったデュピルマブは、生物学的製剤というアトピー性皮膚炎を悪化させる信号物質サイトカインを直接ブロックする薬です[6]。さらに、やはり新しい強力な内服薬であるJAK阻害薬は、12歳以上の子どもに使用できるようになり、力強い効果を発揮します[7]。
これらの強力な薬は、外用薬を使用しなくていいという意味ではありませんし、すべての患者さんに適用する薬ではありません。しかし、これらの新しい注射薬や内服薬は、外用薬と組み合わせて使用することで、安全に治療を継続するための懸け橋となると考えられます。
さて、ここ数年でさまざまな新しい薬が登場しているアトピー性皮膚炎の薬に関してお話ししました。大事な点は、これらは子どもにも使用できるようになってきているということです。多くの薬は、大人が使用できるようになってから子どもに使用できるようになるまで、どうしても時間を要することが多いのですが、より低年齢から使用できるようになっているのです。お子さんのアトピー性皮膚炎に悩まれた場合はかかりつけの医師にご相談いただき、必要であれば専門医に紹介してもらうとよいでしょう。
乾燥が強く、皮膚症状が悪化しやすい冬だからこそ、お子さんの治療方法について改めて考えるきっかけになればと思います。
写真はゲッティ
[1]Kikuchi K, et al. The winter season affects more severely the facial skin than the forearm skin: comparative biophysical studies conducted in the same Japanese females in later summer and winter. Exogenous Dermatology 2002; 1:32-8.
[2]Howell MD, et al. Cytokine modulation of atopic dermatitis filaggrin skin expression. Journal of Allergy and Clinical Immunology 2009; 124(3): R7-R12.
[3]Facheris P, Jeffery J, Del Duca E, Guttman-Yassky E. The translational revolution in atopic dermatitis: the paradigm shift from pathogenesis to treatment. Cellular & Molecular Immunology 2023; 20:448-74.
[4]Q6. コレクチムは小児に使用できるのか?(鳥居薬品)(2024年1月2日アクセス)
https://www.torii.co.jp/iyakuDB/faq/cor_faq_03.html
[5]モイゼルト軟膏0.3% モイゼルト軟膏1% に関する資料(大塚製薬)(2024年1月2日アクセス)
https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20211001002/180078000_30300AMX00436_B100_1.pdf
[6]Paller AS, Simpson EL, Siegfried EC, Cork MJ, Wollenberg A, Arkwright PD, et al. Dupilumab in children aged 6 months to younger than 6 years with uncontrolled atopic dermatitis: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. The Lancet 2022; 400:908-19.
[7]Katoh N, et al. A phase 3 randomized, multicenter, double-blind study to evaluate the safety of upadacitinib in combination with topical corticosteroids in adolescent and adult patients with moderate-to-severe atopic dermatitis in Japan (Rising Up): An interim 24-week analysis. JAAD International 2022; 6:27-36.