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急に暖かくなってきましたが、花粉症の方にとってはいやな時期になりました。今年は東日本や北日本で花粉の飛ぶ量が例年に比べて多いみたいで、鼻水や目のかゆみ、くしゃみに悩まされそうですね。特に慢性副鼻腔(びくう)炎(蓄のう症)のある方は要注意。「鼻水がいつもより多めに出るくらいでしょ」なんて軽く考えていると、強烈な頭痛とともに最悪、命を落とす危険にさらされるかもしれません。たかが鼻水、されど鼻水。鼻水と侮るなかれ、です。
花粉、今年は例年以上
日本気象協会のホームページによれば、2月中旬までに九州から東海の一部、関東南部、東北南部の一部で花粉が飛び始めたそうです。
花粉の飛散量も今年は多そうで、西日本ではおおむね例年並みですが、東日本と北日本は例年より多く、非常に多い所もある見込みとのことです。
花粉症で悩まされるのが、鼻水や目のかゆみ、くしゃみなどの症状。さらに、慢性の副鼻腔炎で普段から鼻水(しかもドロドロしていて汚い!)に悩まされている方にとって、この時期は憂鬱でしかないでしょう。
鼻水の量が多少多くなるけど、まあなんとかなるさ――。そう思っていると、実はとんでもない事態に見舞われる恐れがあります。先日も、こんな方がクリニックにやってきました。
市販の痛み止めが効かない頭痛
「先生、頭がい、いたい……」
今月初旬、IT企業に勤める40代の男性会社員は診察室に入ってくるなり、顔をしかめました。マスクをつけた男性は鼻声で、鼻はぐじゅぐじゅ、目は真っ赤。
「この時期だめなんです。花粉症で」
男性はいかにもつらそうです。
ただ、話を聞いていくと、気になる症状も。
「毎年頭が痛くなるんですが、こんなに痛いのは本当に久しぶり。頭の奥から湧き上がるような、そんな痛みです。昨日は吐き気までしました。
「耳鼻科に行きましたか」と尋ねたところ、男性は「はい。花粉症の薬をもらったのですが、頭が痛いのは取れません」といいます。あまりの頭の痛さに、市販の痛み止め薬を1日に5錠も飲んだにもかかわらず、痛みは治まらなかったそうです。
鼻水が副鼻腔の奥に
頭に何か悪い病気でもあるといけません。念のため磁気共鳴画像化装置(MRI)で男性の頭部を撮影したのですが、脳腫瘍や脳梗塞(こうそく)といった病気の所見は見当たりませんでした。
しかし、画像をよく見ていると、ある病気が頭に浮かび、こう男性に告げました。
「あなた、副鼻腔炎があるでしょ。それが、そんじょそこらにある副鼻腔炎の程度をはるかに超えて、脳の中の脳下垂体に近い、深い部分まで汚いものが入り込んでいるのが見えますよ」
Paranasal sinus(副鼻腔)のイメージ。Frontal sinusは前頭洞(ぜんとうどう)、Ethmoidal sinusは篩骨洞(しこつどう)、Sphenoidal sinusは蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、Maxillary sinusは上顎洞(じょうがくどう)=ゲッティ
副鼻腔は鼻の穴の奥(鼻腔)の周りにある骨に囲まれた空洞のことで、4対(計8個)あります。その一つ、蝶(ちょう)形骨洞は、眉間(みけん)から深さ5㎝くらいのところにある、ホルモンを分泌する大事な脳下垂体と骨を隔てて接しています。
この副鼻腔の粘膜でウイルスや細菌が炎症を起こし、膿(うみ)がたまる病気が副鼻腔炎です。黄色や緑色をした粘り気のある鼻水が特徴で、悪臭を感じることもあります。
男性の画像からは、脳下垂体とその周辺に白い影のようなものが見えました。蝶形骨洞から脳下垂体近くまで、膿というか、鼻水が充満していることは明らかでした。おそらく副鼻腔炎の鼻水に、花粉症の鼻水が合わさり、副鼻腔の奥の方まで膿がたまってしまったのでしょう。こうなってしまうと、市販の痛み止めくらいでは頭痛は治まりません。
死の危険すらある「脳膿瘍」
ところで、本当に怖いのはこのあとです。
副鼻腔と脳下垂体を隔てている骨は薄いので、放っておくと、やがて骨が溶かされ、細菌を含んだ膿が脳の中に侵入し、脳への細菌感染を広げてしまいます。すると、細菌が脳内で繁殖し、脳の組織を破壊して膿がたまり、腫瘍状の塊ができます。これがいわゆる「脳膿瘍(のうよう)」という病気です。
こうなると大変です。死亡したり、重篤な脳性まひに似た後遺症が残ったりするリスクが高くなるからです。手術で開頭し、抗菌薬を入れながら、膿をかき出さなければならなくなります。ガーゼを交換しながら、おそらく1~2カ月は入院しなければならなくなるでしょう。もちろん、ここまで進行することはめったにありませんが、なってしまったことを考えると、決して軽く見てはいけないのです。
その後、男性は蓄のうの手術をすることになりました。通常、蓄のうは飲み薬の抗菌薬で改善が見込めるため、手術をするということは重症だということでしょう。幸い、男性は脳膿瘍にまで進展していなかったのですが、このまま放っておくと、さらに重症化していた危険性がありました。
副鼻腔炎ならこの時期、受診を
ところで、慢性副鼻腔炎の患者は国内にどのくらいいるのでしょうか。
=ゲッティ
2015年の日本耳鼻咽喉科学会会報(藤枝重治ら)によれば、慢性副鼻腔炎の新規患者は年100万~200万人と推定されています。およそ100人に1人の割合なので、決して少ないとは言えません。
肥満や糖尿病、高血圧症など慢性的な炎症を伴う病気がある人はなりやすいため要注意です。黄色や緑色をした粘り気のある鼻水が出て、頭が重くなる(頭重感)のが特徴です。慢性の場合、2~3カ月以上も症状が続きます。
治療も抗菌薬を適正に使えば、かなり改善できます。薬が効かなくても、内視鏡で手術をして鼻の通りをよくすれば劇的に改善が見込めます。会社勤めの方などは時間が取れない、しばらく放っておけば自然に治ると思い込み、病院に行かない人も少なくないかと思われますが、これに花粉症が加わると、危険な目に遭う可能性が否定できません。
気になる症状のある方はぜひ一度、花粉症シーズンを迎えるこの春の時期、耳鼻咽喉科に行くことをおすすめします。
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工藤千秋
くどうちあき脳神経外科クリニック院長
くどう・ちあき 1985年島根医大卒。英国バーミンガム大、鹿児島市立病院などで脳神経外科を学ぶ。95年に東京労災病院脳神経外科副部長。2001年に東京都大田区にクリニックを開設。脳神経外科専門医。日本アロマセラピー学会認定医。