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前回のコラムで述べたように、薬物依存やギャンブル依存など依存症の治療は簡単には進まないのですが、生成人工知能(AI)を使うことによって大きく改善する場合があります。私自身は最近、依存症の患者さんの多くに「〇〇がしたくなったときにはAIに相談してみませんか」と助言するようにしています。これで依存症の治療が随分やりやすくなったと実感しています。そして、偶然にも、最近、依存症治療に非常に有用な薬についての研究結果が発表されました。
といっても、実はこの薬についてはすでに過去に紹介しています。糖尿病や肥満症に用いるGLP-1受容体作動薬(以下「GLP-1製剤」)です。過去の連載「『光』もあれば『闇』もある GLP-1ダイエット」(※1)では、GLP-1使用で飲酒量が大きく減ったという当院の事例を紹介し、さらにモルガン・スタンレー社がGLP-1ダイエッター300人を対象とした調査結果を引用しました。そのコラムにも載せたグラフをみればGLP-1使用により嗜好(しこう)品に対する渇望が減少するのがあきらかです。その後も、次々にGLP-1製剤が依存症に有効であることを示した研究が発表され、そして最近、ついにエビデンスレベルが高いいわゆる「前向き研究」でもGLP-1製剤の依存症に対する有用性が示されました。順にみていきましょう。
血管ボロボロ、糖尿病の愛煙家も
まずはたばこの話をしましょう。糖尿病の病態を一言でいえば「血管がボロボロになる病気」です。そして喫煙も動脈硬化を促進します。ということは、喫煙者が糖尿病を発症すれば血管へのダメージが促進され、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞、あるいは腎不全(腎臓は細い血管の塊のような臓器)や網膜障害(細い血管が重要な役割を果たしている)、さらに末梢(まっしょう)循環不全(足先の細い血管がつぶれる)で足先がえそしたりすることもあります。ところが、糖尿病に罹患(りかん)する人のなかにヘビースモーカーは少なくありません。
このような喫煙がやめられない糖尿病患者に対しGLP-1製剤は非常に有効です。血糖値が大きく下がり、体重が大きく減り、そしてたばこまでやめられることがあるのです。これは当院の患者さんでも実感できることで、そしてきちんとした論文もあります。2024年に医学誌「Annals of Internal Medicine」に掲載された「2型糖尿病患者におけるセマグルチドと喫煙習慣障害の関連性:実世界データを用いたターゲット・トライ・エミュレーション」(※2)です。
この研究の対象者は2型糖尿病かつ喫煙習慣のある22万2942人。このうちセマグルチドというGLP-1製剤を使用したのは5967人です。残りの対象者は、他の糖尿病薬(インスリン、メトホルミン、DPP4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤、その他のGLP-1製剤)のいずれかが処方されました。結果、セマグルチド使用者はインスリン使用者に比べて、喫煙関連で医療ケアを受けるリスクが32%低下していました。また、他の糖尿病薬においてもセマグルチドは喫煙関連のリスクが有意に低かったことが分かりました。
=ゲッティアルコール依存症の薬よりも効く?
次にアルコールをみてみましょう。25年1月に医学誌「Diabetes, Obesity and Metabolism」に掲載された論文「GLP-1受容体作動薬はアルコール摂取量を減少させる」(※3)を紹介します。
この研究の対象者は肥満(BMI≥ 27 kg/m²)の成人患者262人(79%が女性、平均年齢46歳)で、内訳は、飲酒しない人が31人、まれに飲酒する人が52人、常習的に飲酒する人が179人でした。各自の週当たりのアルコール摂取量が記録されました。調査期間は23年1月から24年3月までの15カ月間で、262人全員に対しGLP-1製剤の投与が開始され、うち188人が研究期間中に少なくとも2回の診察を受け、2回目の受診までの平均間隔は112日でした。残りの74人は調査から脱落しました。結果は次のようになりました。
・アルコール摂取量が増加した患者はゼロ
・アルコール摂取量が記録・比較できたのは86人で、GLP-1製剤使用前のアルコール摂取量は、週平均11.8単位から、GLP-1製剤使用により同4.3単位に減少した(「アルコール1単位」は5%のビールなら約250mL。11.8単位から4.3単位への減少はだいたい3Lから2.1Lに減少)
・このうち週当たり11単位以上を摂取していた30人は、アルコール摂取量は平均23.2単位から7.8単位に減少(5%のビールなら、5.8Lから2Lへ減少)
・同様に週当たり11単位未満の56人は、アルコール摂取量は平均5.5単位から2.5単位に減少(5%のビールなら、1.4Lから0.6Lへ減少)
・飲酒量が多い場合も少ない場合も共に飲酒量が減少していた
・大量飲酒者では摂取量の減少率は68%であった
アルコール依存症に対し、当院で最も使用している薬剤は「ナルメフェン(商品名:セリンクロ)」で飲酒量の減少率は61%とされていますから、数字だけをみるとGLP-1製剤の方が優秀ということになります。もちろん、単純な比較はできませんから直ちにアルコール依存の治療法を変更すべきではありませんが、GLP-1製剤がこれだけ有効であることが示された事実は注目に値します。
麻薬依存にも
麻薬(オピオイド)の依存に対してもGLP-1製剤は有効です。24年に医学誌「JAMA Network」に掲載された論文「2型糖尿病及びオピオイド使用障害患者におけるセマグルチドとオピオイド過剰摂取リスク」(※4)を紹介しましょう。
=ゲッティ
研究の対象者は2型糖尿病及び麻薬依存症の診断がついている3万3006人で、GLP-1製剤か他の糖尿病薬が処方されました。3034人がセマグルチドを、2万9972人が他の糖尿病薬を使用し、調査期間は17年12月から23年6月でした。結果、セマグルチドは他の糖尿病薬と比較して、1年間の追跡調査期間中の麻薬過剰摂取リスクが有意に低下していました(42~68%の低下)。各糖尿病薬との比較もされており、例えば2790人を対象としセマグルチドとインスリンを比較した場合、セマグルチド使用者で麻薬を摂取したのは42人なのに対し、インスリンは97人でした。
もうひとつ、最近発表された研究を紹介しましょう。医学誌BMJ26年3月4日号に掲載された「GLP-1受容体作動薬と2型糖尿病を有する米国退役軍人における物質使用障害リスク:コホート研究」(※5)です。
研究の対象者は2型糖尿病を有する米国退役軍人60万6434人。参加者は二つの研究モデルのいずれかに割り付けられ、最大3年間の追跡調査が実施されました。研究モデル1では「新たに依存症を発症するリスク」が検討され、GLP-1製剤服用グループ(12万4001人)とSGLT-2阻害薬服用グループ(40万816人)が比較されました(合計52万4817人)。研究モデル2では「すでに依存症を患っている患者の危険行為が調査され、GLP-1製剤グループ(1万6768人)とSGLT-2阻害薬(6万4849人)が比較されました(合計8万1617人)。結果、研究モデル1では、GLP-1製剤グループはSGLT-2阻害薬グループに比べ、アルコール、大麻、コカイン、ニコチン、オピオイド、その他の薬物の依存症発症リスクがそれぞれ、18%、14%、20%、20%、25%、13%減少していました(薬物全体では14%の減少)。研究モデル2では、GLP-1製剤グループはSGLT-2阻害薬グループに比べ、救急外来受診、薬物関連の入院、薬物関連の死亡率、薬物過剰摂取、自殺念慮または自殺企図が、それぞれ31%、26%、50%、39%、25%低下していました。
他に有効な治療法無い依存症
GLP-1製剤を糖尿病に罹患していない人が使用した場合、過去のコラム「GLP-1ダイエット「やめれば以前より太る」衝撃の欠点」でも述べたように、筋肉量が低下し、将来の骨粗しょう症のリスクが上がります。また、GLP-1製剤の効果が期待できるのは使用しているときだけですから、使用により依存症が断ち切れたとしても、中止すれば効果はなくなることが予想されます。費用の問題もあります。保険適用にならなければ高額費用を払い続けねばなりません。日本ではGLP-1製剤の依存症への効果を調べた研究が見当たらないのですが、依存症によっては(麻薬、覚醒剤、大麻などの薬物依存やあるいはギャンブル依存や買い物依存などの行動依存も)他に有効な治療法がないだけに、厚生労働省に保険適用を認めてもらいたいと最近は依存症の患者さんを診察する度に感じています。
※1 「光」もあれば「闇」もある GLP-1ダイエット
※2 Association of Semaglutide With Tobacco Use Disorder in Patients With Type 2 Diabetes: Target Trial Emulation Using Real-World Data
※3 Glucagon-like peptide-1 analogues reduce alcohol intake
※4 Semaglutide and Opioid Overdose Risk in Patients With Type 2 Diabetes and Opioid Use Disorder
※5 Glucagon-like peptide-1 receptor agonists and risk of substance use disorders among US veterans with type 2 diabetes: cohort study
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谷口恭
谷口医院院長
たにぐち・やすし 1991年関西学院大社会学部卒、2002年大阪市立大医学部卒。タイのエイズポスピスでのボランティアなどを経て、07年クリニック開設。大阪公立大非常勤講師。プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。