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国民的コメディアンの志村けんさんが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎で命を落としてから6年がたちました。幼少期からのヒーローの死はショックが大きく、また医療者としての無念にもとらわれたものです。志村さんといえば笑いと音楽。実は男性ホルモンのテストステロンとも無関係ではないのです。
新型コロナにかかりやすいのは男性
2020年3月29日は、日本にとって新型コロナが対岸の火事ではなくなった日だったかもしれません。志村さんが新型コロナウイルス肺炎のため70歳で亡くなったという速報は、多くの人に衝撃を与えたことでしょう。幼い頃から当たり前のようにテレビで見てきた志村さんがあっけなく、感染を防ぐためとはいえ葬儀もできぬまま去ってしまったのですから。
志村さんは同17日に倦怠(けんたい)感の症状から自宅で静養。19日に発熱や呼吸困難を発症し、翌日、東京都内の病院に搬送されました。そこで重度の肺炎と診断され、入院。23日にコロナに感染していたことが判明します。それから1週間もたたないうちの死には、無念とともにコロナの怖さを突きつけられた思いがしたものです。
志村けんさんの新型コロナ感染と入院を発表した所属事務所のファクス=2020年3月25日
当時は医療現場も混乱し、手探りのままえたいの知れない敵と闘っていました。最近になってやっと複数の論文が発表され、少しずつ、その正体が明らかになっています。
以前の記事でお伝えした通り、新型コロナは世界的に女性より男性の方が感染しやすいことが報告されています。日本でも20年第3週から22年第6週まで、感染者数の性差はほとんどありませんでしたが、オミクロン株が流行した第6波を除き、第1波から第5波までは全て男性の方が多かったのです。
一因はホルモンにありました。詳しくは前の記事で書きましたが、男性の方が、新型コロナの受容体たんぱく質「ACE2」を発現しやすいのです。これが細胞膜にあると、どうしてもウイルスをキャッチしやすくなる。気道平滑筋(ASM)細胞をテストステロンと、女性ホルモンのエストロゲンに24時間暴露したところ、テストステロンがACE2の発現率を有意に上昇させることも分かっています。
=ゲッティ
一方で矛盾するようですが、ひとたびコロナに感染したら重症化しやすいのは、テストステロン値の低い人になります。生存例ではテストステロンが完全に回復し、致死例では機能不全に陥っていたのです。
もし、20年当時に、そのことが分かっていれば――と思えてなりません。感染直後の志村さんにテストステロンを投与する選択肢があったかもしれないからです。
お笑いの動画を見ると…
志村さんは、テレビ番組「8時だョ!全員集合」やバカ殿シリーズなどを通じ、多くの笑いを届けてくれました。笑いが健康に及ぼす好影響はさまざまに報告されてきましたが、テストステロンとも無関係でないことを示唆した論文があります。
皮膚科の木俣肇医師が健康な男性36人と、アトピー性皮膚炎の男性36人(平均年齢70歳)に英国のコメディアン、ミスター・ビーンが出演した映画と天気予報の動画を見せたところ、いずれの群もビーンの時に唾液中のテストステロン値が有意に上昇し、かつ首の後ろから水分が蒸散しにくくなることが分かりました。その傾向は、健康群よりもアトピー群で、より顕著でした。
ミスター・ビーンを演じた英国の俳優ローワン・アトキンソンさん=1998年2月4日、河内安徳撮影
また木俣医師は、アトピーで勃起不全(ED)の男性患者に3日連続でお笑いのDVDを鑑賞してもらった結果、テストステロン値が上昇し、EDが改善したことも報告しています。天気予報の動画を3日間見ても変わらなかったのに、お笑いでは変化が生じたのです。
アルツハイマーの男性が音楽を聴くと…
また、志村さんといえば「東村山音頭」ですよね。実は音楽にも造詣が深い方で、所属したザ・ドリフターズも、もともとはバンドでした。
笑いと同様、音楽も健康に寄与することが、さまざまな研究で報告されてきました。音楽を聴くとストレスが減少するのは、ストレスホルモンのコルチゾールが減少するからとされていますし、音楽鑑賞はテストステロンの増減にも関わることが指摘されています。中でも認知症の改善効果は看過できません。
例えば22年にチュニジア・マヌーバ大のサラ・シュール氏らが発表した論文では、軽度のアルツハイマー型認知症の男性に音楽療法が有効であったことが示されています。
対象は、軽度アルツハイマーを患う60代以上のチュニジア男性26人。1時間の音楽療法や理学療法を週に3回、4カ月受けてもらうことにしました。音楽療法では、1960~80年代にかけてヒットしたチュニジアの曲を聴き、理学療法では筋肉や関節の強化運動や歩行、ストレッチなどを行う。男性は①音楽療法を受ける群②理学療法を受ける群③両方受ける群④何も受けない群に分けています。
=ゲッティ
すると、何もしなかった④を除き、①~③全ての群で唾液中のテストステロン値が有意に上昇し、一方でコルチゾールの値が低下したのです。最も顕著だったのはテストステロン値が約3倍に跳ね上がった③でしたが、ただ音楽を聴いただけの①でも約2・5倍になっています。論文では、患者の認知機能や記憶能力が、④何もしていない群に比べ、有意に改善したと結論づけています。
一般にアルツハイマーの患者さんはテストステロンや、女性ホルモンのエストロゲンの値が健常者より低いものです。それらがアルツハイマー病の原因となるたんぱく質、アミロイドβ(ベータ)の沈着や分解に関わっているとされ、治療では性ホルモンを補うことも重要になってきます。シュール氏らは音楽療法と理学療法を組み合わせることで、アルツハイマーの管理や緩和に役立つ可能性があることを示唆しました。
診察室でもジャズを
もう一つ、12年に発表された興味深い論文を紹介します。奈良教育大の福井一氏らが、高齢者向け専門介護施設に入居するアルツハイマー病の67~90歳の女性6人を対象に研究したものです。6人に対し、①セラピストが健康状態と気分について質問をする②セラピストが歌を歌って聴かせる③その両方を行う――という3種類のセッションを行いました。短い人で4カ月、長い人では4年4カ月に及んでいます。
すると、6人のエストロゲンやテストステロンの値に変化が見られました。エストロゲンは②の後に上昇し、③の後にはさらに大きく上昇。テストステロンは②に比べ、③が有意に上昇したのです。かつ、問題行動も③の後に減少し、その効果はセッション後1日持続したといいます。前出のチュニジア男性しかり、音楽を聴きながら何かをすることが性ホルモンの分泌を促すと言えそうです。
=ゲッティ
僕自身、洋楽が大好きで、診察室でも手術室でも常に何かを聴いています。朝から外来の患者さんを診察していると疲労が蓄積し、精神的に追い詰められそうになることもありますが、ジャズが流れているだけでホッとする。
自宅では最近、アナログレコードを聴くのにハマっています。集めているうちに1000枚を超えてしまいました! CDに比べてレコードは圧倒的に音の情報量が違うと感じます。疲れたなと思ったら、強制的に音楽を聴いたり、お笑い番組を見たりするのもいいですよ。
ちなみにパーキンソン病を患っている80代の父にも、毎日音楽を聴くよう勧めています。クラシックに限らず、ロックでもポップスでもヘビメタでも、好きなもので構いません。ちなみに志村さんはビートルズの大ファンでしたね。
笑いや歌を通じて、多くの人を幸せに、元気にしてくれた志村さん。でも、ご本人は決してラクではなかったでしょう。実際、志村さんは売れっ子になってからも何時間もコントを練り、海外のコント動画を取り寄せては研究し、後輩の面倒見もよかったと聞きます。改めて、その人生に手を合わせる七回忌の春です。
<参考文献>
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・Derek M.Griffith,Garima Sharma,Christopher S.Holliday,PhD,Okechuku K.Enyia,Matthew Valliere,Andrea R.Semlow, MS,Elizabeth C.Stewart,Roger Scott Blumenthal,Men and COVID-19:A Biopsychosocial Approach to Understanding Sex Differences in Mortality and Recommendations for Practice and Policy Interventions.Preventing Chronic Disease.Volume 17,July 16,2020.
・国立感染症研究所感染症疫学センター 大谷可菜子 神垣太郎 高勇羅 山内祐人 鈴木基,同感染症疫学センター第六室, 第四室,東北大学大学院医学系研究科微生物学分野,新型コロナウイルス感染症クラスター対策タスクフォース・データマネージメントチーム.日本における新型コロナウイルス感染症の流行波ごとの性別・年齢的特徴の疫学的検討.IASR Vol.43 p273-275:2022年12月号.
・Rama Satyanarayana Raju Kalidhindi,Niyati A.Borkar,Nilesh Sudhakar Ambhore, Christina M.Pabelick,Y.S.Prakash and Venkatachalem Sathish.Sex steroids skew ACE2 expression in human airway: a contributing factor to sex differences in COVID-19?American Journal of Physiology-Lung Cellular and Molecular Physiology.Volume 319,Issue 5.
・Emily Toscano-Guerra, Mónica Martínez-Gallo,Iria Arrese-Muñoz,Anna Giné,Noelia Díaz-Troyano,Pablo Gabriel-Medina,Mar Riveiro-Barciela, Moisés Labrador-Horrillo,Fernando Martinez-Valle,Adrián Sánchez Montalvá, Manuel Hernández-González,Ricardo Pujol Borrell,Francisco Rodríguez-Frias,Roser Ferrer,Timothy M. Thomson & Rosanna Paciucci.Recovery of serum testosterone levels is an accurate predictor of survival from COVID-19 in male patients.BMC Medicine.2022 Mar 29;20(1):129.
・Hajime Kimata.Elevation of Testosterone and Reduction of Transepidermal Water Loss by Viewing a Humorous Film in Elderly Patients with Atopic Dermatitis.Acta Med. 2007, 50: 135-137.
・Hajime Kimata,MD,PhD.Short-term Improvement of Erectile Dysfunction by Viewing Humorous Films in Patients with Atopic Dermatitis.The Journal of Sexual Medicine,Volume 5,Issue 9, September 2008,Pages 2107–2110.
・Sarah Chéour et al.Salivary Testosterone and Cortisol Levels in Tunisian Elderly Male Patients With Mild Alzheimer’s Disease.Implications of Musical Therapy And/Or Physical Rehabilitation.Front.Physiol.05 August 2022.Volume13.
・H.Fukui,A.Arai,K.Toyoshima.Efficacy of Music Therapy in Treatment for the Patients with Alzheimer’s Disease.International Journal of Alzheimer’s Disease.26 September 2012.
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久末伸一
恵佑会札幌病院泌尿器科部長
ひさすえ・しんいち 1995年、札幌医大卒。同大助教、帝京大講師、順天堂大准教授、千葉西総合病院泌尿器科部長、国際医療福祉大教授などを経て現職。日本泌尿器科学会指導医・専門医。泌尿器ロボット支援手術プロクター認定医。