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健康のためにと、たんぱく質を積極的に取っている方は少なくないかもしれません。ご飯やパンなどの糖質を控えた結果、たんぱく質の摂取比率が上がっている方や、筋肉を作るためプロテインから日常的にたんぱく質を取り入れている方もいるでしょう。たんぱく質は確かに重要な栄養素。しかし、取り方によっては逆効果になりかねないことをご存じですか? 脳の健康を守るには、適切な摂取量や適切な食材があるのです。
かつては筋肉のために
ここ10年ほどで糖質制限という食事法はすっかり市民権を得ました。私が医師になった二十数年前には考えられなかったことです。米やパンを減らし、代わりにたんぱく質をしっかり取る食事法で、コンビニでも「たんぱく質○g」と表示された食品や飲料が多数販売されています。
=ゲッティ
かつてたんぱく質といえば、スポーツ選手や筋肉増強を目指す一部の人たちが意識するものというイメージがありました。それがここ数年で、大きく変わりました。ダイエット目的で糖質を減らした結果、相対的にたんぱく質の比率が上がった方もいれば、健康情報を学んでいるうちに「たんぱく質こそが重要だ」という認識を持つようになった方もいます。この流れをいち早くとらえた食品や飲料のメーカーが、高たんぱく質をうたった商品を次々と市場に投入したことで、たんぱく質に対する意識はさらに高まっているようです。
さらに筋トレブームが拍車をかけました。ユーチューブやインスタグラムなどを見ると、筋肉ムキムキの投稿者がたんぱく質を取るべき理由を熱心に話しています。また、フィットネスジムが増加し、トレーニングの習慣が広がる中で、プロテインサプリメント市場も急拡大しているそうです。競技に出るようなボディービルダーになると1日あたり4gを超えるたんぱく質を取っているというデータがありますし、そうでない人でも、たんぱく質補給のために食事に加えてプロテイン製品を摂取するケースが珍しくなくなりました。実は私もその一人です。
65歳を境に変わる適切な摂取量
確かにたんぱく質は、私たちの体にとって最も重要な栄養素の一つであり、少なすぎるのは問題です。一方で、すでに腎機能が低下している方などの場合は、過剰なたんぱく質の摂取が進行を早めるリスクがあります。日本ではたんぱく質の「推奨摂取量の上限」を公式に設定していませんが、健康維持を目的とした場合の適切なたんぱく質の量はどのくらいなのでしょうか? まずはここからデータを見ていきましょう。
米国のある研究では、たんぱく質の適切な摂取量が年齢によって変わる可能性を示しています。50歳から65歳の年齢層では、総エネルギー摂取量の20%以上をたんぱく質から取っている高たんぱく食の人は、10%未満の人と比べて全死亡リスクが75%高く、がんによる死亡リスクは4倍に上りました。
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この理由として、たんぱく質の過剰摂取がインスリン様成長因子(IGF-1)というホルモンの分泌を促し、腫瘍の発生や進行を後押しすることが挙げられています。IGF-1は細胞の増殖を促すホルモンで、若い頃は成長に役立ちますが、中高年以降に過剰になると、正常な細胞だけでなく、特定のがん細胞の増殖も速めてしまう可能性があるのです。
一方、65歳を超えると結果は一変します。高たんぱく食を摂取している人では全死亡リスクが28%低く、がんによる死亡リスクに至っては60%低下するという結果になりました。高齢者においてIGF-1が低すぎると、体重減少や筋肉量の低下(サルコペニア)を招き、それが身体の脆弱(ぜいじゃく)性や、がんのリスク要因となる炎症を引き起こしてしまうのではないかと考えられています。
必要なのは体重1㎏あたり1.0~1.5g
こういった背景もあり、欧州連合老年医学会が中心となって取りまとめられた国際研究グループ(PROT-AGE研究グループ)は、高齢者には体重1kgあたり1.0〜1.2g、場合によっては1.5g程度のたんぱく質が必要だと提言しています。これは体重50kgの人であれば1日あたり50gから75gのたんぱく質摂取が必要ということになります。1個あたり7gほどのたんぱく質を含む卵だけで言えば、1日あたり、およそ8個から11個にあたるため、なかなか大変な量になります。
とはいえ実際には、さまざまな食品にたんぱく質が含まれていますから、こんなに卵を食べる必要はありません。例えば、ご飯1杯だったら約4g、食パン1枚であれば約5gのたんぱく質が含まれています。想像するより多いのではないでしょうか。
認知症のリスクはたんぱく質の「質」が左右する
ポイントは量だけではありません。何からたんぱく質を取るかも大事な問題で、それによって体への影響が異なる可能性があります。
認知症に関して言えば、65歳以上の約7000人を対象とした中国の研究で、観察期間中、植物性たんぱく質を多く取っている人は、そうでない人に比べて認知症発症リスクがおよそ20〜40%低かったことが示されています。
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また、13万人以上の中高年を対象とした米国の研究では、牛肉や豚肉などの赤肉、ハムやソーセージといった加工肉を長期にわたって多く取ることは認知症リスクを高める方向に働くことが報告されました。赤身肉や加工肉に含まれる飽和脂肪酸や、加工肉の製造過程で生成される物質や添加物などが炎症を引き起こし、それが脳に影響を与えると考えられています。
動物実験では魚のたんぱく質が短期記憶の低下を予防
ちなみに同じ動物性食品でも、魚はどうでしょうか? 実はつい最近、関西医科大学から興味深い報告がありました。この研究では、老化しやすいマウスと通常のマウスを用い、スケトウダラの魚由来たんぱく質を摂取することでどのような変化が起こるかを詳しく調べました。結果は大変興味深いもので、魚由来たんぱく質は短期記憶の低下を予防し、腸内環境を改善し、脳における炎症を抑制することが報告されたのです。
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これまで魚の健康効果は、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などに代表されるオメガ3不飽和脂肪酸によるものとされていましたが、この研究は、魚のたんぱく質そのものにも健康効果があることを示した点が斬新です。実験では、老化しやすいマウスが魚由来たんぱく質を取ると、腸内で炎症を促す菌が減り、酪酸を産生する有益な菌が増えました。酪酸は腸の粘膜細胞のエネルギー源となり、腸のバリア機能を高める働きがあります。腸のバリア機能が正常であれば腸から有害な物質が体内に入り込みにくくなり、全身の炎症が抑えられます。
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これにより、脳の海馬においてミクログリアやアストロサイトと呼ばれる免疫細胞の過剰な活性化が抑制されます。これらの細胞は通常、脳内の免疫調整に関わっていますが、過剰に働きすぎると神経細胞を傷つける方向に働くのです。しかし、魚のたんぱく質を取ることで、この過剰反応が抑えられ、神経細胞へのダメージが軽減された結果、短期記憶の低下が予防されることが示唆されました。マウスを用いた実験結果ではありますが、今後ヒトでの臨床研究にも大きな期待が寄せられています。
DHAやEPAに加え、魚のたんぱく質そのものにも脳を守る可能性があると考えると、より積極的に魚を食べたいと思えるようになりますね。
加工肉から植物性に変えると死亡リスクが大幅減
このようなデータから、私は健康維持のために以下のようなたんぱく質の食べ方をお勧めしたいと思います。ただし、すでに腎臓の問題等を指摘されている方は、必ず主治医の指示に従ってください。
まず量について。基本的には体重1kgあたり1g程度のたんぱく質を1日に摂取するようにします。50歳から65歳の間は動物性たんぱく質を控えめにして、大豆やナッツなどから植物性たんぱく質を積極的に取り、週に数回は魚も食べること。豆類や全粒穀物に含まれる食物繊維と魚のたんぱく質が腸内環境を整え、脳に悪影響を及ぼす炎症の抑制も期待できます。
=ゲッティ
実際、2019年に発表された日本の研究によれば、赤肉由来のたんぱく質をわずか3%分だけ植物性に置き換えるだけで全死亡リスクが34%低下し、さらに加工肉から置き換えた場合は46%の低下が示されています。食品の健康効果を最大限に引き出すために、できるだけ加熱しない調理法がお勧めです。そして65歳を過ぎたら、たんぱく質の種類もさることながら、1日の摂取量が減らないように気を付けてみてください。
たんぱく質も万能選手ではありません。まず意識を変えて、上手に摂取することが脳の健康を後押ししてくれると考えています。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療を代替するものではありません。情報の活用にあたっては、個人の体質や持病に合わせて医師や管理栄養士にご相談ください。
<参考文献>
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・Xu,X.et al.Association between changes in protein intake and risk of cognitive impairment:A prospective cohort study.Nutrients 15, 2 (2022).
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・Murakami,Y.et al.Fish (Alaska Pollock) protein intake attenuates age-related short-term memory decline through gut microbiota modulation.Sci.Rep.1–22 (2026).
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今野裕之
ブレインケアクリニック名誉院長
こんの・ひろゆき 2001年日本大医学部卒。15年順天堂大大学院修了。日大板橋病院などを経て現職。一般社団法人・日本ブレインケア認知症予防研究所所長。精神科専門医。近著に「ボケたくなければ『寝る前3時間は食べない』から始めよう」