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現代人にとって、「まとまった運動時間を確保できない」という課題に対する新たな解決策が注目されている。
1月28日、英科学誌「ネイチャー」が「ほんのわずかな運動がもたらす、驚くほど大きな健康効果」というニュース記事を掲載した(*)。最近の臨床研究を取り上げ、短時間であっても一定の強度を伴う運動を繰り返すことが、健康維持に有効であると指摘している。
このような運動を英語では「エクササイズ・スナック」という。英語のスナック(間食)に由来する言葉で、「少量・短時間・1日に複数回」を意味する。日本でいえば「chocoZAP」のイメージだろうか。従来のように30分以上まとめて運動する必要はないため、多忙な現代人に好都合だ。
日本で報じられる機会は多くないが、「エクササイズ・スナック」はすでに国際的な医学界で注目を集めている概念であり、現代人の運動習慣そのものを変えつつあるといっても過言ではない。
強めの運動を短く1日3回するだけで
この領域の研究で最も注目を集めたのは、豪シドニー大学を中心とした国際共同研究チームが、2022年に「ネイチャー・メディシン」誌に発表したものだ(*2)。
ジム「chocoZAP」=兵庫県養父市で2023年6月2日午後3時34分、浜本年弘撮影
本研究は、英国の大規模疫学研究であるUK Biobankに参加した約2万5000人の成人を対象とし、特に「運動習慣のない人」に焦点を当てた前向きコホート研究である。身体活動は自己申告ではなく、ウエアラブルな加速度計で客観的に測定され、平均約7年間にわたり追跡された。
研究チームは、日常生活の中で行われる短時間の高強度活動(VILPA:vigorous intermittent lifestyle physical activity)に注目した。具体的には、階段を急いで上る、バスに駆け込むといった、1回1〜2分程度の動きである。
研究結果は驚くべきものだった。VILPAを1日3回程度行うだけで、全死亡およびがん死亡リスクは約38〜40%、心血管死亡は約48〜49%低下していた。さらに、1日の合計が数分程度でも有意な効果が認められた。VILPAががんや心血管疾患の予防、寿命延長と関連していたことになる。
この研究は「前向きコホート研究」と呼ばれる信頼性の高い手法で行われている。だからこそ、権威ある「ネイチャー・メディシン」誌が論文を掲載したのだが、観察研究である以上、限界もある。
関連はあるが、限界も
データの基盤となったUK Biobankは、英国在住の40〜69歳の一般住民約50万人が参加する大規模研究で、生活習慣や健康状態を長期間追跡している。ただし、こうした研究に参加する人は、もともと健康意識が高い傾向があり、その点で偏り(バイアス)が生じる可能性がある。
さらに、日常的に体をよく動かす人は、食事や喫煙、飲酒、睡眠などの生活習慣も全体的に良好であることが多い。このため、「VILPAそのものの効果」と「生活習慣の良さ」の影響を完全に切り分けることは難しい。また、加速度計という装置で体の動きは測定できても、それがどのような状況で行われたかまでは分からない。
こうした点を踏まえ、この研究結果は「強い関連を示すもの」ではあるが、「原因と結果を断定するものではない」と理解することが重要である。
最大酸素摂取量が改善
ただ、この研究結果は興味深い。現在、「エクササイズ・スナック」の有用性については、世界各地でさまざまな臨床研究が実施されており、すでに結果が発表されたものもある。
その中には、ランダム化比較試験(RCT)も含まれる。その一つが、24年に、中国の山東大学やカナダのブリティッシュコロンビア大学などの研究チームが「アプライド・フィジオロジー・ニュートリション・アンド・メタボリズム誌」に発表した研究だ(*3)。
無人営業のトレーニングジム「chocoZAP」の店舗=大阪市内で2025年5月8日午前7時21分、斉藤朋恵撮影
この研究では、運動習慣のない若年成人42人を対象に「エクササイズ・スナック」と従来の中等度持続運動を比較した。参加者は無作為にいずれかに割り付けられ、6週間の介入が行われた。
その結果、1回30秒程度の「エクササイズ・スナック」を1日数回行う方法でも、最大酸素摂取量(VO2peak)は約7%改善し、40分程度の持続的な有酸素運動と同等の心肺機能向上が認められた。これは「エクササイズ・スナック」の有効性を支持するものである。
一方、この研究では脂肪代謝への効果は限定的であった。これは、前出の豪シドニー大学の研究と比べ、経過観察期間が短いためで、代謝機能への影響を否定するものではない。
メタ解析でも心肺機能が改善
では、「エクササイズ・スナック」の有効性について、現時点での評価はどうなっているのだろうか。
最近、この点についてまとめた研究が発表された。スペインのオビエド大学を中心とした欧州の研究チームが、今年1月19日に「英国スポーツ医学誌」に発表したものだ(*4)。冒頭にご紹介した「ネイチャー」誌の記事は、この発表を受けての解説である。
この研究は、信頼性の高い「系統的レビューおよびメタ解析」であり、過去に実施された「エクササイズ・スナック」に関するRCTを統合し、再解析したものだ。対象は11件のRCT、計414人である。
解析の結果、最も明確に認められたのは心肺機能の改善であった。特に最大酸素摂取量(VO2max)は有意に向上しており、1分間に体重1kg当たり、平均で約2~3mlの酸素を体内により取り込んで利用できることが認められた。およそ5~10%の改善だ。これは単なる持久力の向上を示すだけでなく、VO2maxの上昇が心血管疾患や死亡リスクの低下と関連することを踏まえると、臨床的にも意義の大きい結果といえる。
一方、血圧やコレステロール、体重といった代謝指標については明確な改善は確認されなかった。これは、解析対象となった11のRCTの研究期間が短いためで、前出の豪シドニー大学の研究結果を否定するものではない。ただ、代謝指標についての有効性については、コンセンサスには至っていない。
継続率は8~9割
本研究で特筆すべきは「継続しやすさ」である。各試験における「エクササイズ・スナック」の継続率は、実に80〜90%に達していた。これは、従来推奨されてきた「週150分以上の中等度運動」を実践できていない人が多いこととは対照的だ。短時間で特別な準備を要しないことが背景にあるのだろう。運動療法の最大の課題が継続性であることを踏まえれば、この点は臨床的にも大きな意義を持つ。
このような背景を知ると「chocoZAP」のような短時間利用型ジムは理にかなった仕組みと評価できる。24時間利用可能で、着替え不要など心理的ハードルが低く、運動の継続性を高めることは、利用者にとって便利だ。利用者が急増しているのも理解できる。
大切なのは運動強度の維持
我々が「エクササイズ・スナック」を実践するにあたり、注意すべき点は何か。それは運動強度を維持することだ。今回ご紹介した研究では、「短時間・高頻度・やや高強度」の運動を日常に組み込むことで、心肺機能や代謝指標の改善が示されている。これは、「短時間でも息が上がる強度」で複数回行うことを意味し、負荷が軽すぎれば、十分な効果は得られない。
では、どのように実践すればよいのか。目安は「ややきつい」と感じる強度、具体的には、階段を一気に上る、早歩きで数分間歩く、椅子からの立ち上がりやスクワットを連続して行うといった動作が有効だ。1回30秒〜2分程度の運動を、1日数回に分けて取り入れるだけでもよい。通勤や家事の合間など、日常の動作を少し意識的に「強める」ことが現実的な方法である。
重要なのは、特別な時間や場所を設けることではなく、「日常の中で無理なく続けること」である。短時間でも強度を意識した運動を積み重ねる――その小さな習慣こそが、将来の健康を大きく左右する。
(*)The surprisingly big health benefits of just a little exercise/nature 28 January 2026
(*2)Association of wearable device-measured vigorous intermittent lifestyle physical activity with mortality/Nat Med. 2022 Dec;28(12):2521-2529.
(*3)Exercise snacks are a time-efficient alternative to moderate-intensity continuous training for improving cardiorespiratory fitness but not maximal fat oxidation in inactive adults: a randomized controlled trial
(*4)Effect of exercise snacks on fitness and cardiometabolic health in physically inactive individuals: systematic review and meta-analysis/Br J Sports Med.2026 Jan 19;60(2):133-141
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上昌広
医療ガバナンス研究所理事長
かみ・まさひろ 1993年東京大医学部卒。99年同大大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンター、同大医科学研究所をへて、2016年より現職。医療ガバナンス研究に従事。現場からの医療改革推進協議会事務局長。