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皆さんは、人生の中で幾度となく「今年こそ運動を続けよう」「お酒を控えよう」「早起きを習慣にしよう」のように、強い決意とともに何かを始めてきたことと思います。そして、気がつけば翌月には元の生活に戻っている。
私たちは、なぜ、こんなにも続かないのか。多くの人は「意志が弱いから」と自分を責めます。でも、それは少し違います。続かない本当の理由は、脳の仕組みの中にあるのです。(堀田秀吾・明治大教授)
行動の約半分は「考えずにやっている」
米デューク大学のニールらによる研究(※1)では、人々が日々繰り返す行動の多くが、特定の場所・状況と結びついた自動的な反応であることが示されました。それによれば、私たちが毎日行っている行動のうち、約45%は「習慣化」されたものだというのです。
朝起きてトイレに行き、歯を磨き、コーヒーをいれる。通勤路を歩く。スマホを手に取って、なんとなくSNSを開く。これらは「今日はどうしようか」と考えた末の選択ではなく、状況が引き金になって体が自動的に動いているのです。
これは脳の「省エネ戦略」とも言えます。毎回すべての行動について意識的に考えていたら、脳のエネルギーがいくらあっても追いつかない。そこで脳は、繰り返した行動を「自動化」することで、限られた意識的エネルギーをより重要なことに使えるよう工夫しているのです。
この自動化を担うのが、脳の奥深くにある「大脳基底核(だいのうきていかく)」と呼ばれる部位です。
思考・感情のパターンも習慣化
大脳基底核は、かつては手足の動きをコントロールする場所だと考えられていました。ところが、米マサチューセッツ工科大学のバーンズらの研究チームによる長年の研究(※2)によって、それだけではないことが明らかになりました。大脳基底核の中核的な機能のひとつは「習慣の自動化」であり、体の動きの習慣だけでなく、思考や感情のパターンもここで習慣化されると考えられています。
=ゲッティ
バーンズらの研究チームは、T字形の迷路でラットに実験を行いました。迷路の片側にチョコレートの報酬を置き、ラットが学習していく過程で、大脳基底核の神経細胞がどう変化するかを記録したのです。
学習の初期段階では、迷路の走行中、ずっと神経細胞が活発に活動していました。「どこを曲がるか」「次は何が起きるか」を絶えず判断していたわけです。ところが訓練を重ねて迷路を覚えるにしたがって、神経細胞の発火パターンは劇的に変わりました。迷路の「初め」と「終わり」だけに強く反応し、途中はほぼ静かになったのです。
つまり、「最初から最後まで」だった行動全体が、ひとつの塊(チャンク)として脳に登録されたのです。自転車の乗り方をいったん覚えると、「次に右足でペダルを踏んで……」とわざわざ考えなくなるのと、同じ仕組みです。
習慣の「3ステップ」を知る
習慣には一定のパターンがあります。心理学・行動科学の分野では「習慣ループ」と呼ばれ、「きっかけ→行動→ご褒美」の3ステップで成り立っています。
たとえば、こんな場面を想像してみてください。夕食後にソファに座ると(きっかけ)、テレビをつける(行動)、リラックスできる(ご褒美)。最初は「テレビを見たら落ち着く」と意識していたかもしれないけれど、繰り返すうちに「夕食後」という「合図(きっかけ)」が来るだけで、考えるまでもなくリモコンに手が伸びるようになります。
マサチューセッツ工科大学のグレイビエルのレビュー論文(既存のいろいろな研究をまとめたもの、※3)は、こうした行動の自動化が、大脳基底核を基盤とする神経回路の「経験に依存した可塑性(かそせい)」によって生じると論じています。「可塑性」とは、粘土のように形が変わりやすいという意味で、脳が経験によって変化する能力のことです。繰り返しという刺激が、脳の配線を少しずつ書き換えていくわけです。
「21日で習慣ができる」は都市伝説
ところで、習慣についてよく言われている話で、「21日間続けると習慣になる」というものがあります。どうやら、アメリカの形成外科医が1960年代に書いた本が情報の出どころのようですが、実は、これには実証的な根拠がありません。
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のラリーらは、96人の参加者が自分で選んだ健康的な行動(食後に水を飲む、夕食前に散歩するなど)をおよそ12週間にわたって続けながら、その行動がどのくらい「自動的」に感じられるかを毎日記録しました(※4)。
その結果、習慣が形成されるまでにかかった日数の中央値は66日でした。しかも個人差が大きく、最短で18日、最長では254日という幅があることも示されています。
「21日で変われなかった自分はダメだ」と感じていた方、その考えは手放して大丈夫です。上述の研究によると「平均でも2カ月以上、場合によっては8カ月以上かかることがある」と言っています。続けようとしていること自体が、正解なのです。
途中でやり忘れてもいい
さらにこの研究には、もうひとつ大切な発見が含まれています。「途中で1日やり忘れてしまっても、習慣化のプロセスに大きな影響はなかった」というのです。完璧に続けることよりも、「同じ状況でほとんどの日にやること」のほうがずっと大切で、一度休んだからといって振り出しに戻るわけではない。やれなかったらまたやり始めればいいのです。これは、多くの人が陥りがちな「全か無か思考」への重要なメッセージだと言えるでしょう。
=ゲッティ
ですから、習慣を変えるコツはまず「意志力への過信をやめる」という発想の転換です。
デューク大学のウッドとニールの研究(※5)によると、強い習慣は意識的な目標や意志によって制御されているのではなく、過去にその行動をとった「場所」や「状況」などの文脈的な合図によって、自動的に引き起こされることが示されています。
つまり、「毎朝ジョギングをしよう」と強く決意するよりも、「起きたらすぐ目に入る場所にランニングシューズを置いておく」という環境の工夫のほうが、習慣化への近道になるということです。意志の力で自分を動かすのではなく、脳が自動的に動き出す「きっかけ」を、あらかじめ用意しておく。それが行動科学の示す正攻法です。
これは、人間の意思決定は「自分が置かれた環境への最善の妥協」という側面が強いからです。何となくそうしちゃう、そうなっちゃう、そうしたくなっちゃうという環境に身を置くようにすることが大切なのです。
毎日やっていることにくっつける
ここまでで、意志力より環境・仕組みを変えることが大切だということはわかりました。もうひとつ、おすすめの習慣化の方法があります。「ハビットスタッキング」という考え方です。すでに毎日やっている行動の直後に、新しい習慣を「積み重ねる(スタック)」ようにつなげるというものです。
たとえば、「コーヒーを飲んだ後に、1分間ストレッチをする」「歯を磨きながら、感謝していることを五つ思い浮かべる」といった具合です。なぜこれが有効なのかというと、習慣は「きっかけ→行動→ご褒美」のループで動いているからです。すでに毎日自動的にやっている行動は、脳にとってこれ以上ない安定した「きっかけ」です。そこに新しい行動をくっつけることで、新たな合図をゼロからつくり出す手間が省けます。また「〇〇したら、△△をする」と事前に決めておくという手法は、米ニューヨーク大学のゴルウィッツァーと英シェフィールド大学のシーランのメタ分析で、実際の行動に移る確率が大幅に高まることが示されています(※6)。
新しい習慣をゼロから始めようとすると大きな意志力が必要ですが、ハビットスタッキングを使えば、既存の神経回路の力を借りて、脳の省エネ機能をうまく利用できるのです。
「また続かなかった」という自己嫌悪を少しでも少なくするために、ぜひここで紹介したようなことをまずは実践してみてください。
(※1)Neal,D.T.,Wood,W.,&Quinn,J.M.(2006).Habits—A repeat performance.Current Directions in Psychological Science,15(4),198–202.
(※2)Barnes,T.D.,Kubota,Y.,Hu,D.,Jin,D.Z.,&Graybiel,A.M.(2005).Activity of striatal neurons reflects dynamic encoding and recoding of procedural memories.Nature,437,1158–1161.
(※3)Graybiel,A.M.(2008).Habits,rituals,and the evaluative brain.Annual Review of Neuroscience,31,359–387.
(※4)Lally,P.,van Jaarsveld,C.H.M.,Potts,H.W.W.,&Wardle, J.(2010).How are habits formed:Modelling habit formation in the real world.European Journal of Social Psychology,40(6),998–1009.
(※5)Wood,W.,& Neal,D.T.(2007).A new look at habits and the habit–goal interface.Psychological Review,114(4),843–863.
(※6)Gollwitzer,P.M.,& Sheeran, P.(2006).Implementation intentions and goal achievement:A meta-analysis of effects and processes.Advances in Experimental Social Psychology,38,69–119.