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「先生、5年ほど前から昼間に眠くてたまりません。日中に一瞬意識が飛ぶことがあるんです。会議中にいびきをかいて寝てしまって、ひんしゅくを買ってしまいました」
1年半ほど前、高血圧で知人の医師から紹介された40代の男性患者さんから相談を受けました。その方は身長178cm、体重122.8kgの堂々たる体格でしたが、意気消沈した様子です。私は、彼の姿を見てピンとくるものがありました。
ピクウィック症候群という病気があります。英国の作家チャールズ・ディケンズの小説「ピクウィッククラブ」の登場人物ジョーの様子から名付けられました。ジョーはとても太っていて、昼間から居眠りをする少年として描かれます。1956年にピクウィック症候群と名付けたBurwellは、肺胞低換気を伴う明らかな肥満やいびき、筋肉の不随意なけいれん、チアノーゼ、多血症など八つの特徴を挙げています。現在では、重度の睡眠時無呼吸症候群(中でも、のどが塞がって空気の通り道が閉じてしまう「閉塞(へいそく)性」)と考えられます。
=ゲッティ
私が専門とする高血圧の分野では、高血圧患者の3割が睡眠時無呼吸症候群(SAS)を合併し、逆に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)患者の5割が高血圧を合併します。さらに降圧剤を3剤以上服用しても血圧が下がらない治療抵抗性高血圧では、8割にOSASが合併すると言われるほど関係の深い病気なのです。両者はたまたま合併するのではなく、SAS自体が高血圧の原因になり、重症度が高いほど高血圧の発症リスクも高まることがわかっています。今回は睡眠時無呼吸症候群についてお話しします。
睡眠中の息苦しさが……
無呼吸とは、10秒以上呼吸が止まってしまうことです。睡眠中に、無呼吸が1時間に5回以上、または7時間の睡眠中に30回以上ある状態を重症と呼んでいます。
OSASは肥満と関係しています。肥満では外側に向かって太るだけでなく、内側(とくに舌根部)にも脂肪がつくために、気道が狭くなります。一方、日本では肥満を伴わないOSASも2~4割程度をしめていて、下顎(したあご)の小ささや鼻づまりなどが原因にもなります。他にも飲酒やあおむけでの睡眠などの原因が単独、または複合して、気道が極端に狭くなり、閉塞して換気ができなくなるのです。
OSASの症状の一つであるいびきは、睡眠中に狭い気道を通して呼吸しようと努力し続け、息苦しさから覚醒して呼吸が再開したときの換気時に発生する音です。通常、睡眠中は副交感神経が優位になり血圧が低下しますが、低酸素状態や覚醒によって交感神経が活性化し、血圧が上昇、そしてこれが一晩中繰り返されるために慢性的に血圧が高い状態になるのです。この影響は日中にも継続します。
冒頭の患者さんは、BMI38.4の高度肥満体型でした。血圧は175/110mmHgと高血圧の重症度は最も高いレベルです。 SASの重症度の指標であるAHI(無呼吸低呼吸指数)を調べると、30以上で重症とされる中、患者さんは97と最重症レベルでした。私は重症のOSASと診断し、患者さんには睡眠中に鼻に装着したマスクから空気を送り込んで呼吸を維持するCPAP(持続陽圧呼吸療法)に取り組んでもらいました。すると治療開始から1カ月後にはAHIが2.7と劇的に改善し、1年あまりたった直近では0.8と順調な様子です。「職場で『最近は寝ないね』と声をかけられました」とうれしそうに報告してくださいました。血圧はまだ薬で治療中ですが、最近では132/89と下がりつつあり、治療を継続しています。
鼻から空気圧をかけた空気を送り込むCPAP血液が異常に濃くなることも
私の外来に通院されている患者さんにもうお一人、気になる方がいました。
50代の男性で肥満傾向でしたが、最近体重が増えて、昼食後の眠気がひどくなってきました。おまけに血液を調べてみますと、血液中のヘモグロビン濃度が18mg/dLを超えて基準値(13.8~17)を上回っていました。しかも赤血球数も最高で739万個/μLと、基準値(450万~550万)を大きく上回っています。血液中の赤血球が異常に増える「多血症」の状態です。赤血球の量が極端に増えると、血管が詰まって、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞を起こす場合があります。冒頭でご紹介したピクウィック症候群の八つの特徴の一つでもあります。
=ゲッティ
多血症の中には、遺伝子の異常で赤血球が増える真性多血症と、生活習慣などが原因となる二次性多血症があります。血液の専門医に紹介して診ていただいたところ、遺伝子検査の結果は陰性でした。OSASによって低酸素状態になることで、体が酸素の運び手である赤血球を過剰に作り出すことが多血症の原因と考えられました。
この方には3月からCPAPを開始したところ、赤血球数はピークの739万個から713万個に、ヘモグロビン濃度も20.1から19.4と徐々に低下してきました。今後の経過に期待しています。
へんとう肥大で赤ちゃんも無呼吸に
OSASの原因には、肥満の他にも約2割をへんとう肥大が占めていて、子どもでは主な原因になっています。
私の息子が新生児期に血圧計を装着していたことは、過去の連載「生後0日から血圧を記録! 父親の私が40日間続け、気づいたリズムの正体とは?」でお話ししました。勤務先の病院に入院していたため、私は仕事中に時々新生児室に行って、血圧計が無事に動いているか確かめていました。
ある日、いつものように新生児室に行ってみると、息子の呼吸が止まってチアノーゼを起こし、顔が紫色になっているではありませんか。焦った私は、人工呼吸するというより、すぐに息子の顔をピタピタとひっぱたきました。すると、突然、「おぎゃあ」と強く泣いて、紫色だった顔が、見る間に真っ赤になりました。医師の私でも、自分の息子がチアノーゼになっているのを目の当たりにした時は、さすがに焦りました。見つけなかったらどうなったか、今考えてもぞっとします。
息子の場合、その後何度も無呼吸が見つかり、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診しました。息子ののどは、へんとうとアデノイドというリンパ節が大きく、気道が数ミリしか開いていない状態でした。医師から勧められて、幼稚園を卒園後の春休みに切除手術をしたところ、夜間睡眠時無呼吸は無事無くなりました。
適切な治療で血圧低下も
SASには先述したようにさまざまな原因があるので、個々に応じた治療が必要です。代表的な治療法としては、減量、へんとうや鼻の手術、CPAP、眠るときにマウスピースを装着するなどの方法があります。高血圧を合併する患者に対しては、CPAP治療をすると平均の血圧が上下ともに低下し、CPAPの使用時間が長いほど昼間の平均収縮期血圧が低下することが分かっています。
今年6月の診療報酬改定で、SASのCPAP治療の保険適用基準が(精密検査でAHI20以上から15以上へ)緩和されます。これまでより重症度が低い方もCPAPが受けやすくなり、より早く治療につなげることができるようになります。心当たりのある方は、ぜひ専門医への相談を検討していただきたいです。
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渡辺尚彦
日本歯科大客員教授
わたなべ・よしひこ 1978年聖マリアンナ医大医学部卒、84年同大学院博士課程修了。医学博士。米ミネソタ大時間生物学研究所客員助教授、東京女子医大教授、早稲田大客員教授など歴任。高血圧専門医。循環器専門医。