|
|
ある「食冒」の仲間が、福岡で離脱したことがありました。原因は痛風発作。もつ鍋、明太子、ごまさば、玄界灘の海の幸……。「プリン体」を多く含む海鮮グルメをはじめ、おいしい食べ物の宝庫である福岡は、一部の人から冗談交じりに「プリン体天国」と呼ばれています。そこに酒も加われば、リスクが高まるのは当然です。特に彼は「いわし明太」が好物でした。そしてついに食と酒を満喫した翌朝、足の激痛で動けなくなりました。
血液中の尿酸が結晶化
痛風発作(痛風性関節炎)は、血液中の尿酸が増えすぎることで結晶化し、関節にたまって炎症を起こす病気です。足の親指の付け根に起こることが多く、その痛みは「風が吹いても痛い」と表現されるほど強烈です。
尿酸の結晶化は関節だけでなく、血管の内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を促進することもあります。まれにですが、心臓の心筋に沈着することがあるので、油断しないでください。日本痛風・尿酸核酸学会を中心とした研究では、高尿酸血症は肥満やメタボリック症候群、糖尿病、腎疾患、動脈硬化など多くの疾患と関連することが指摘されています。「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」(2019年第3版)では、尿酸は腎機能や生活習慣病と密接に関係することが示されています。
博多名物のもつ鍋=西本勝撮影プリン体摂取量より尿酸値の変化
ここでよくあるのが、「プリン体の多い食品がすべて悪い」という単純な思考です。実際には、痛風の背景にはさまざまな要因があります。アルコールの摂取、肥満、運動不足、体質などが複雑に関わっており、単に特定の食品だけを避ければよいという問題ではありません。
痛風発作の原因としてぜひとも知っておいてほしいポイントは、プリン体摂取量よりも、血中尿酸値の変化です。尿酸値の急激な上昇を避けることで、尿酸の結晶化を防ぐことができます。そのためには、アルコール摂取により体内で生成された尿酸を腎臓と腸管からうまく排せつすること、その個人差について理解することも必要です。
尿酸値の急激な上昇の典型例は、昼にビールを飲んで炎天下でゴルフをするようなケースです。プリン体の摂取量がそれほど多くなくても、アルコールの利尿作用と発汗が重なり、体内の水分が減ることで尿酸が濃縮されます。その結果、血中尿酸濃度が急激に高まり、発作の引き金となるのです。一度、痛風発作を起こした方は、再発しやすくなる傾向があります。ビールを止めてチューハイにすれば発作が防げるのでは、と試しても、また発作が起きてしまうことが多いようです。
尿酸値低いと認知機能低下、抑うつ傾向
もう一つ、誤解されやすい点があります。尿酸はしばしば「悪者」と見なされますが、体内では抗酸化作用を持つ物質としても知られています。最新の研究では、尿酸値が低いことは脳の抗酸化力を低下させ、神経変性疾患のリスクや認知機能の低下に関連することが示唆されています(※1)。
シニアを対象とした研究では、尿酸は単なる痛風の指標ではなく、全身状態を反映する物質として、国内外で注目されています。青森県弘前市の「岩木健康増進プロジェクト」の参加者約700人のデータを解析した研究(※2)では、尿酸値が低い高齢者は、高い高齢者に比べて抑うつ傾向が強いことが指摘され、生活の質(QOL)の低下や認知機能への影響も議論されています。
尿酸値がやや高めの人(血中濃度が7mg/dLをやや上回るくらい)の中には元気な印象を受ける場合もありますが、値が高すぎれば痛風や腎機能への影響などのリスクが高まることに変わりはありません。
JR博多駅のふくやの店舗=福岡市博多区で、植田憲尚撮影「お寿司を食べてください」で元気に
アンチエイジングドック受診者の中に、こんな女性がいらっしゃいました。「同年代の友人に比べて、私は覇気がなく、老けているような気がする」との訴えです。血液検査はすべて正常、若返りホルモン検査(成長ホルモンとDHEA)もストレスホルモン検査も問題ありません。尿酸値も4mg/dLで正常値でした。
食生活について尋ねると、夫が痛風(発作の既往あり)のため、家庭ではプリン体を完全に控えているとのこと。青魚やウニ、いくらなどの好物も、夫に遠慮して一切食べていませんでした。そこで、私からのアンチエイジング処方箋として「時々お寿司(すし)を食べてください」とお伝えしたところ、ほどなくしてすっかり元気を取り戻されました。
これは「プリン体を控えると元気がなくなる」という意味ではありません。医学的には、プリン体制限そのものが直接的に活力低下を招くとは考えにくく、むしろ過度な食事制限によるエネルギー不足やストレス、栄養バランスの乱れが原因である可能性が高いと思います。
生理学的には、尿酸値が低くなると体は「尿酸を捨てたくなくて、必死にリサイクル(再吸収)してその数値を維持する」という仕組みが備わっています。腎臓は血液中の老廃物をろ過して排せつしていますが、尿酸に関しては「一度ろ過したものの約90%を、わざわざエネルギーを使って血液中に回収(再吸収)する」という仕組みがあります。例の女性の場合、尿酸値4mg/dLという数値は努力の成果で保たれていたのでしょう。
1週間の間に帳尻を合わせる
食の問題は、「何を食べるか」だけではなく「どのように食べるか」にあります。適量を守り、バランスよく食べること。飲酒も含めて生活全体を整えること。そして「気分が落ち込むほど」我慢しないことが重要です。
例えば、福岡で食事を楽しむ場合でも、もつ鍋を食べた日は締めの麺を控える、刺身を楽しんだ翌日は野菜中心の食事にする、といった調整で体への負担は大きく変わります。過去に私が高脂血症に悩んだ時は、豚骨ラーメンの摂取を年3回までに制限しました。お酒も、量を決めて水をはさみながら飲むことで、体への影響を抑えることができます。1週間の間に帳尻を合わせるイメージを持つと良いでしょう。
私はこれまで「食冒」と称して全国各地の食を楽しんできました。地域の食文化に触れることは、その土地の歴史や人の営みを知ることでもあります。福岡の食もまた、その豊かな文化のたまものです。「食べてはいけない」と萎縮するのではなく、「どう楽しむか」を考えましょう。量を控える、食べ方を工夫する、翌日は軽めにする。そうした小さな調整で、楽しみと健康は両立できます。
=ゲッティ我慢しすぎず上手に調整を
痛風は「食の楽しみすぎ」の側面を持つ病気かもしれません。しかしそれは、食そのものを否定する理由にはなりません。大切なのは、我慢しすぎることでも、無理に続けることでもなく、賢く付き合うことです。
痛風発作で「食冒」から離脱した私の仲間も、生活を見直しながら再び「食冒」に戻ろうとしています。次に福岡を訪れるときは、少し慎重に、しかし変わらぬ好奇心で味わうことでしょう。仲間とともに、おいしいものを、おいしくいただく。そのために少しだけ知識を持つことが、これからの時代にふさわしい食との付き合い方なのではないでしょうか。
食を守る「食防」と、食を楽しむ「食冒」。この二つは車の両輪です。未知の味に出会い、人と語らい、地域の食を楽しむ――そうした「食の冒険」は、日々の暮らしに確かな豊かさをもたらしてくれるでしょう。
ただし、調子に乗りすぎると痛い目にあうのでご用心。
(※1)Mijailovic NR, Vesic K, Borovcanin MM. The influence of serum uric acid on the brain and cognitive dysfunction. Front Psychiatry. 2022;13:828476.
(※2)Takekawa D, Kinoshita H, Nikaido Y, et al. Lower serum uric acid levels are associated with depressive symptoms in a Japanese general population: A population-based cross-sectional study. PLoS One. 2024;19(12):e0311971.
無料メルマガの登録はこちら。おすすめ情報をお見逃しなく
米井嘉一
同志社大教授
よねい・よしかず 1982年慶応大医学部卒。2005年に日本初の抗加齢医学講座、同志社大アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。「Dr.米井の アンチエイジング・セルフチェック」で実年齢と5種類のリストから機能年齢を診断している。